見出し画像

「フューチャー」はそっちじゃなくて、FUTUREと書く方ですよ

最近こんな記事が出ました。

「ドリー・パートン、ポール・マッカートニーとリンゴ・スターが参加した“Let It Be”のカヴァーが公開
2023.8.18 金曜日
https://nme-jp.com/news/132737/
(前略)ドリー・パートンは9曲のオリジナル曲と21曲のカヴァー曲によって構成されるアルバム『ロックスター』を11月17日にリリースすることが決定している。(後略)」

Dolly Partonダーリ・パートンはカントリー音楽の大物歌手であり、作曲も数多く手がけています。のちにWhitney Houstonウィトニー・ヒューストンがカヴァーすることになる『I Will Always Love You』が最も知られている作品かもしれません。

さて、この記事の後半部分にはアルバムに収録されている曲の一覧が載っていて、ビートル2人の他にも豪華ゲストが目白押しです。

ゲストがいる曲に関しては、「曲名+ゲスト名」という形で紹介されていて、「曲名 feat.(=featuring)ゲスト名」や「曲名 special guest ゲスト名」、更にはその2つの方法の混在、といった表記になっています。

例えば『‘Every Breath You Take’ (feat. Sting)』であり、『‘Rockstar’ (special guest Richie Sambora)』であり、『‘Let It Be’ (feat. Paul McCartney & Ringo Starr with special guests Peter Frampton & Mick Fleetwood)』です。

このfeatureという言葉について確認しておきましょう。

feature

名詞用法

語源はラテン語のfactura「作ること,形づくられたもの」です。

「形作られたもの」ということで、「目や鼻などの作り」という意味があります。

「His nose is his best feature.
彼は鼻が一番りっぱだ」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

複数形にして「目鼻立ち」「顔立ち」「容貌(ようぼう)」となります。

「a man of fine features
容貌の美しい男, 美男子.」
(研究社新英和中辞典)

顔の話からもう少し広げて、「人目を惹く特徴」と言っても良いでしょう。

「Hedgerow trees were a feature of the landscape.
生け垣がその風景の特徴だった」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「a significant feature of our time
現代の著しい特徴.」
(研究社新英和中辞典)

関心を惹くように作られた「呼び物」「特集記事」のことにもなります。

「a major feature of the show
ショーの主な呼び物」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

「The weekly makes a feature of economic issues.
その週刊紙は経済問題を呼び物としている.」
(研究社新英和中辞典)

動詞用法

先程出てきた「featuring ▲▲」はfeatureを動詞として使って、「▲▲を呼び物にする」というものです。

「The exhibition features paintings by Picasso.
(その展覧会はピカソの絵を呼び物としている)
a cruise ship featuring extensive spa facilities
(広々とした温泉設備を呼び物とする巡航客船)」
(ロングマン現代英英辞典)

他動詞として「主演させる」、自動詞として「主演する」という訳語が適切な場合もあります。

「a film featuring a new actress
新人女優を主演とする映画.
He didn't feature in that movie.
彼はその映画では主役は演じなかった.」
(研究社新英和中辞典)

1例目が他動詞、2例目が自動詞です。

次の例文では自動詞として、比喩的な意味での「主役を演じている」となっています。

「Fish protein features prominently in the Japanese diet.
日本の食事では魚のたんぱく質が大きな役割を果たしている.」(同)

ところで…

多くの方がすでに指摘なさってきたことですが、この言葉について「フューチャリング」とか「フューチャーする」と言っている芸能人を時々テレビで見かけます。「フィーチャー」が比較的馴染みの薄い言葉であるため、馴染み深い「フューチャー」に脳内で置き換わってしまうのでしょうか。

もちろんfutureにはfeatureの持つ意味は全くありません。

では次にfutureの方の使い方を見ておきます。

future

語源

ラテン語で英語のbe動詞に当たる言葉の未来分詞futūrusから来ています。

未来分詞とは「これから▲▲しようとするところの」といった意味合いで使われるもので、be動詞的な言葉のそれであるわけなので「これから存在しようとするところの」「これから起ころうとするところの」の意の形容詞と考えれば良いかと思います。

形容詞用法

というわけで、英語のfutureの形容詞用法にも「未来に存在する/起こる」があります。

「We’ve been able to save this land from development and preserve it for future generations.
(我々は、この土地を開発から守って来るべき世代のために保全することができてきた)」
(ロングマン現代英英辞典)

「the future development of a music industry
音楽産業の今後の発展」
(小学館プログレッシブ英和中辞典)

これらでは「generations」や「development」が未来に存在する/起こるものです。

一方「future hope将来の希望」「future plans将来の計画」での「hope」や「plans」は、未来に発生するものではなく既に頭の中に存在しています。「未来に関係する」といった用法となります。

ちなみに、現代では前置詞として「▲▲の方へ」という、空間・時間的接近を表す言葉towardは、古い英語ではtoweardというつづりで形容詞としてfutureの意味合いがあったのでした。

古:【Hæfst】þū《mīn tōwearde wīf》【ġemētt】?
現:【Have】you【met】《my future wife》?

しかしラテン語系のfutureが外来種として入ってきて、在来種たる「形容詞としてのtoward」は絶滅してしまったのでした。

名詞用法

「未来」「将来」を言うことはもちろんですが、「将来性」「有望な前途」をも意味します。

「a company that has no future
将来性の無い企業」
(GLOBAL English-Japanese Dictionary)

「Luciano has a future as an opera singer.
ルチャーノにはオペラ歌手として有望な前途がある」

少し特殊な使い方として「先物」があります。

「先物取引(さきものとりひき、英: futures contract)は、デリバティブ(金融派生商品)取引の一つで、価格や数値が変動する各種有価証券・商品・指数等について、未来の売買についてある価格・量での取引を事前に決める取引のうち、最終取引日や取引量の単位が定型化され市場で扱われるものを指す。」
ウィキペディア

複数形にして使われます。

「Corn futures prices rose as forecasts raised fears that the weather may damage the corn crop at a critical stage of its development.
(トウモロコシの先物相場が上昇したがそれは、トウモロコシの作物が生長の重要な段階にあるときに天候の具合で害を受けるかもしれないというおそれが諸々の予測で生じたためであった)
Precious metals futures prices declined, with silver temporarily dropping below the critical $5-an-ounce level.
(貴金属の先物相場が下落し、中でも銀は一時的に1オンス当たり5ドルという危機的水準を下回った)」
(ロングマンビジネス辞典)

フォントの話

デザイン、出版などに携わっていらっしゃる方にとっては、Futuraフトゥーラという欧文書体はよく使うものなのでしょう。

デザイナーならまずは覚えておきたいド定番のサンセリフ体の欧文フォント!』というページでどのような見た目をしているのか、ご確認ください。

「未来」を意識した命名だということが見て取れますが、気になるのは語尾がaであることです。ラテン語においてこれは女性名詞に関わるときの形容詞の形なので、「未来」という名詞ではなく、「未来の」という形容詞なのではないかと思います。

その相手となる(修飾先となる)女性名詞が何かは分かりませんが、「書体」とか「フォント」などの意味のラテン語を想定していると推測されます。

そして「未来」に関係する「ド定番のサンセリフ体の欧文フォント」がもう1つ。Avenirアヴニールです。

こちらも先程のページで風合いを確かめてください。Futuraを意識して開発された書体だそうです。

これはフランス語で「未来」を意味する単語であり、「temps à venir来(きた)るべき時」という表現から縮めてavenirとなった名詞です。

先程から散々使っている「未来」「将来」という日本語は「未(いま)だ来(こ)ぬ時」「将 (まさ) に来 (きた) らんとする時」という成り立ちですから、「来る」の意味の動詞venirを使うフランス語と発想が同じです。

お読みいただき、ありがとうございました。ではまた。

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?