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膝枕外伝  順子さんと閻魔大王

 こんにちは、ノアです。マダムマサコの外伝を書き終えて、ちょっと休もうかなあと思いましたが、今私書きたいモードに入ってるみたいです。
 授業中教科書の片隅に落書きをするような軽い気持ちで順子さんの物語が書きたくなりました。
中学生の時、パラパラ漫画を書いたことを思い出しました。今回の話はいや今回もlight(軽い)な気持ちで読んでいただければ嬉しいです。
想像力に身をまかせて書いていたら、とんでもなく長い物語になってしまいました。すいません。
朗読用ではなく、小説の方がいいかもしれません。笑
今回の外伝は芥川龍之介の蜘蛛の糸のパロディです。(芥川龍之介さんが生きていたら怒れそうである)
「ちょっとノアさん、年末の忙しい時に私を呼ばないでくれる。」
「まあまあ‥。順子さん、そう不機嫌にならないで。美味しい紅茶とブラウニーもあるよ」
ノアはそう言って、ブラウニーと紅茶が淹れてあるテーブルを指さす。
「もうその手にはのらないわ。何度も同じパターンはあたしには通用しないの!」
子供を叱るような口調で順子はノアに言った。
「勿論、分かってますよ。我がアイドル順子さん」
意外にもノアは余裕綽々である。
「その点なら任せてください。膝月記があなた(順子)のおかげでベストセラーになりましてね。お金に少し余裕があるのです。だから銀座の○兵衛 の職人さんを家に呼びました。好きなネタをたらふく食べてください。お話はその後で大丈夫ですから‥」
お寿司と聞いて、順子の表情が一変して明るくなる。
「もう〜そう言うことなら仕方ないわね!話のネタに苦しんでしょ?」
「さすが順子様、作者の気持ちよくお分かりで」
「困ってる人がいたら助けないとね。(作者母の教え)じゃあ、まずお寿司お任せコースで!それから好きなネタ握ってもらうわ」
順子はノアが呼んだ職人さんに注文する。
 そして約20分後、
「あー食べた、食べた!もう2023年は大満足。今年の寿司欲は満たされたわ。トロもいくらもウニも鯛も海老もみんな美味しかった」
満面の笑みの順子。
「それは良かった。順子さんって誰よりも美味しそうに食べるので、見てるこちらも幸せな気持ちになるんだよね」
とノアも笑顔で答える。
「ねえ、ノアさん、お腹いっぱいになったら、何だか眠くなってきちゃったわ。おやすみなさ‥」
「待って、待って!順子さん。あなたは物語の主人公なのだから、主役に寝られてしまっては困ります。物語が終わってから寝てください」
(そうだった。順子さんは天真爛漫な性格だった。←ノアのの声)
「ハイ、ハイ。分かりました。もう年末なので、サクッと終わらせてくるわ」
 こうして順子は再び、いや三度食べ物に釣られてしまうのである。それが彼女の可愛さである。それが順子さんがなのだ!

「あ、痛っ!2日酔いかしら?何か頭が痛いわ」
順子は痛みで顔を顰め、右手でこめかみを押さえた。何となく意識もぼんやりしている。まさか、これは夢?
「そんなわけないわ。あたしザルじゃん。でも痛みは確かにある‥こ、これはどーゆーことかしら?
順子は今いる状況を把握しようとして、あたりを見回した。周囲がやけに暗い。まさか‥1日寝てて、気づいたらすでに夜とか?最近仕事忙しかったしな。いやでもここは外よね?うっすら山みたいなものや、川みたいなものが見えるわ。でもこの景色に全く見覚えない。
 まずここはどこ?どうやって来たのかすら思い出せない。
まさか、まさか‥。順子の頭にとんでもない考え?が浮かんだ。これは誘拐かしら?
あたし、可愛いもんね。きっとこれは誘拐に違いないわ。やっぱり美しさって罪よね。
「あのー、さっきからずっとあなた独りで話してますが‥」
恐る恐る横から大きな体をした男が順子に声をかけてきた。
「え?独り言口にだしてた?それは恥ずかしいわ。
順子の顔が赤くなった。
「はい。聞き方によってはセリフの練習のような?」
「その前にここ、どこ?あなた、誰?」
順子は改めて周囲を見回し、男の顔をまじまじと見つめて言った。
「私は‥」
「きゃーー!頭に角が生えてる。あなた、人間じゃないでしょ?!お、鬼よね?こわーい!だ、誰かー助けて➖ー!
順子は男が名乗るより前に悲鳴をあげた。
「ちょっと‥落ち着いて。まず人いや、鬼の話を聞いてくれ!」
鬼は困った表情で言った。どうやら大きな体格とは裏腹に気が小さいらしい。
「こんな時ディズニー映画なら、かっこいい王子様があたしを助けに来てくれるわよね。でも残念ながらここにはそれらしい人はいないわ」
「あ、あのうー、いい加減、少女漫画の世界から出てきてくれ!ここはお城じゃなくて、地獄だっ!」
「え、地獄?ってことはあなた、やっぱり鬼?」
鬼は無言で頷く。
「そうか。ここ地獄なんだ。イケメンの王子様がいないなら、だったらあたしも覚悟を決めるしかないわね」
「え?覚悟って?何の?
「それは勿論戦う覚悟よ!何で?私が地獄にいるのかは分からないけど、悪い鬼はやっつけないとね!」
「?悪い鬼?おいおい勝手に鬼を悪者と決めつけないでくれ!全く‥桃太郎や鬼滅の刃の影響で俺らのイメージ悪いんだよな!
「※1膝キュアドレスアップ!
「??」
順子は不思議なコンパクトを開けて口上する。
「愛の切り札キュアエース!美しさは正義の証。ウインク1つであなたのハートを射抜いて差し上げますわ!」
順子は膝キュアエースに変身すると、鬼に向かってウインクをした。
「こ、これはノア(作者)さん、俺はどうしたらいいんだ?これは愛の告白なのか?それともコントなのか?リアクションすればいいんだ?」
鬼が困って作者に助け舟を出した。
「ふふ‥大丈夫ですよ。赤鬼君。多分順子さんは変身したかっただけだから。こちらの反応はあまり関係ないと思うよ。
ノアにそう言われて赤鬼は膝キュアエース(ピンクのドレス姿の順子)になった順子の方を見た。
「本当だ!俺らの存在無視して、コンパクトミラーで自分の姿を見て、ニヤニヤしているぞ。なんか怖いんですけど、彼女!
「うーんこれは軽く膝キュアの話しないと駄目かなあ‥。前回マダムマサコの話を書いた時にみんなを膝キュアに変身させたのですよ!これが思ったより皆さんに好評でした。作者としては感無量なんだけど、順子さんは登場してないのです。だから自分も膝キュアになりたかったのでしょうねー。」
「え?何だそりゃ?あんたの物語は作者より、登場人物の方が力があるのか?」
「まあ端的に言ってしまえばそう言うことだね」
「そんな話、他の膝枕ライターさんから聞いたことないぜ!」
「そうかも知れない。でもいいんだよ。誰が書こうが、作品がどんなふうに変わろうが、そこはあまり趣きをおいてないもん。お話が面白くなればそれでいいのです。基本私freedomなだから。そろそろ何で地獄に順子さんがいるのか教えてあげてくれる?
「‥分かったよ。こんなぬる〜い純文学のパロディ見たことないぜ」
「それが私ですから」
なぜか?得意気に応えるノア。
赤鬼は上機嫌の順子を見て、よし今が説明するチャンスだと思った。(と言うことは地獄の鬼さん達、何かやらかしてしまったのですね?) 
 コホンと一つ咳払いすると、赤鬼は話し始める。
「い、いやー、マコトニイイニクイノダガ、オレのブカガアナタヲ1つ前の前の番号の人とマチガエテ地獄に落としてシマッタ!ホンライナラ、ゼッタイシテハナラナイミス」
「そのあってはならないミスが起こった理由は何?」
「閻魔様のパワハラだ!」
「閻魔様のパワハラ?」
順子は思わず目を丸くした。
「それは穏やかなではないわね。閻魔様って元々ワガママなタイプなの?」
「いや、以前は違っていた!」頭脳明晰、容姿端麗かどうかは別にして。見た目は怖そうには見えるけど、老若男女問わず誰にも優しい方だった。
「だったってことは過去形?今は違うのよね?」 
「ああ、そうだ。」
閻魔様は不幸にも千年前にお妃様を病気で亡くした。
それは突然変異のウイルスが原因だった。
基本鬼は人間より、体も大きいので、体力や免疫力は人間より優れている。 
しかし未知のウイルスとなれば話は別である。
千年前の地獄は本当に悲惨だった。(正に地獄絵図)
地獄の鬼の人口は(鬼の数え方は色々言われてますか、今回の話では○○人と数えることにします。)約2600万人で、ほぼカナダの人口と同じである。それが千年前はウィルスが猛威を振るったため、、人口は半分ぐらいまで減少した。
 その後ウィルスは2、3年で終息した。鬼達にも集団免疫ができたり、ワクチンや薬が開発されて今では普通のインフル扱いになった。
インフルの猛威は去ったが、不幸にも閻魔様の心にはしこりを残すことになる。
「昨今の鬼の労働形態は最悪だ。部下のことを言い訳する訳ではないが、1ヶ月に1回休みがあればいい方だぜ!毎日血眼になって、書類の整理をして、閻魔様にハンコをもらって、死んだ魂と対面して、大まかに地獄行きか?天国行きか?再審査するか?判断する!のが1人の鬼の仕事なんだ。結構ハードだろ?
時給は多少アップしても、仕事料を計算すると、決して割りのいい仕事ととは言えないぜ!」
「それは本当にブラック企業だわ」」
「ここ近年異常気象のせいもあって、亡くなる方、多いんだ。下手すりゃ通常の2倍働いてる時もあるな!」
「今地獄が緊急事態だってことは分かったわ。でもね、納得できないことがあるわ」
「納得できないことって?」
「そう。納得できないことよ!なんであなた達はみんなで協力して声をあげないの?1人の力は弱いけど、みんなで力を合わせれば、できることが増えるはずよ!」
「そ、それは一理あるかも知れんが、鬼って基本単独行動する生き物だぜ。それに閻魔様を怒らせると後が怖いしな」
「その顔で怖いって言わないで。あなたは鬼なんだからね!」
「俺だって好きで鬼に生まれたわけじゃない。物心ついた時から、俺は鬼だったんだから。だったら鬼として生きる他ないだろう」
「そうね。残念ながら生物は自分で種類や場所や両親を選べないわね。 とりあえずグダグダ話すのはこれくらいにして!閻魔様のところへ行きましょう。
思いたったら吉日よ!」
「どうしても行かなきゃダメなのか?」
「ダメよ。大丈夫!あたしもついて行ってあげるから。こういう時は行動あるのみ」
順子がファイティングポーズをして、赤鬼を鼓舞する。おそらく一緒に閻魔様との交渉?頑張ろうという意味なのだろう。
「しかしまあ、閻魔様が闇堕ちって洒落にならないわね」
(そりゃ、そうだ!絶対闇堕ちしてほしくない人物ですよね?だって閻魔様ですから。←作者心の声)
順子と赤鬼は閻魔様に会いにゆっくり歩き始める。
そうは言っても、やや腰が引き気味の赤鬼。顔色も少し青ざめている。
「もうー、萎えきれないわね!あなたの態度。そんなにビビらないでよ。会う前からそんなに緊張してたら身がもたないわよ」
「俺だって分かってるよ!緊張する性格は今どうなる問題でもないだろ!」
そんな自分自身に苛立ってるのだろう。赤鬼は順子に怒鳴ってしまった。
「悪い。あんたは一生懸命やってくれてるのに」
「ううん、あたしも言いすぎたわ。こうやって赤鬼くんは閻魔様の元へ向かうとしてるだもの。それだけでもすごいことよ!」
赤鬼の顔は極度の緊張で青ざめているので、顔だけ見ると青鬼に見える。
(第三者目線で見ると、ちょっと面白い←作者心の声)
それだけ彼の思いが真剣で、逃げ出したい気持ちと戦ってることが分かる。
「なんか呼び方、赤鬼君って、他の呼び方ないのか?」
「だってあなたの名前知らないもの。じゃあ名前は?」
「鬼に名前はない」
「それは不便ね。いいわ、あたしがつけてあげる!ケンユーって?どう?」
「ケ、ケンユー?」
赤鬼は驚いて聞き返した。
「そう。作者が新田真剣佑(アラタマッケンユウ)のファンだから」
「俺がケンユーか‥。かっけえ名前だなあ」
「実際彼はイケメンだもの。ワンピースの実写のゾロは超イケメン」
「ケンユー、少しは緊張とれてきたんじゃない?」
「あ、そう言えば」
自然に赤鬼は笑顔がなる。順子と他愛のない話をしていて、緊張がほぐれてきたようだ。
「それは良かったわ。ねえーケンユー。少し地獄を散歩してみたい」
「さ、散歩?姉(アネ)さん(順子のこと)って面白い人だな。いいぜ。三途の川や賽の河原でも行ってみるか?」
「やったー!嬉しいわ。アネさんって呼び方‥ケンユーの方が面白いわ」
「だって呼び方よくわかんねーもん。地獄を散歩したいって言った人間は姉さんが初めてだぜ!」
「別に嫌な気はしないから。いいわよ。アネさんで」
今日初めて会った2人なのに、並んで歩く姿は仲の良い姉弟に見える。
「ここが賽の河原だ。親より先に亡くなった子供が来るところだ!」
三途の川の前の大きな河原に着くと、赤鬼は順子に説明を始めた。
時々子供達の悲鳴も聞こえる。
子供が親の供養のために小石で塔を作ろうとしても、鬼が壊してしまい、永遠に塔は完成しない。
よって報われない努力の例えとして、賽の河原の石積みが使われる。
「ねえー、なんとかならないの?」
「そんなこと俺に言われてもなあ‥俺はただの赤鬼。。姉さんは優しいから、子供を可哀想だと思ってるだろうけど、地獄の秩序は変えられないさ。いくら姉さんの頼みでも」
「ケンユーの言うことは分かるわ。いくら理不尽でも決まりは決まりよね」
「ああ。姉さんの気持ちも分かるんだけどな」
「子供が親よりよりも先に亡くなるのは、病気や事故や戦争、災害。または不衛生な環境とか色々あると思うけど、その子供に罪があるって少ないと思わない?」
「それはそうかもしれないけど‥姉さんは俺に何かさせたいのか?」
「そうよ。今日1日鬼さん達のお仕事、お休みにしない?」
「え?休み?」
「そう。お休み。みんな、休みなしで働いてるんだから、ちょうどいいじゃない?」
順子は笑いながら、明るい表情で言った。
「だからみんなで三途の川までピクニックに行かない?」
「ピ・ク・ニ・ッ‥ク?ピクニックって何だ?
「あ、そうか。ケンユー、ピクニック知らないわよね。ピクニックって元はフランス語で、野外に出かけて、 食べたり飲んだりして、外で遊ぶことよ」 
「何かよく分からないけど、姉さんの顔見てるとそれが楽しいことだってことは分かった!」
「良かったわ。それなら話は早いわ!ここにいる子供達も一緒に行きましょ!」
順子は当然のように賽の河原にいる、子供達に話しかける。
「ちょっと‥姉さん、それはやばいぜ!賽の河原で子供を見張る青鬼、あいつは俺の部下なんだ。真面目でいい奴なんだけど、融通が全く効かないんだ!」
「なるほどね。誰にでも欠点はあるもんね。でも大丈夫よ、ケンユー。さっきあたし、言ったわよね?今日休みにするって」
「ーーで、姉さんはどーするつもりなんだ?」
「お休みってことは青鬼君は今日1日働かないってことよ。だから今日一日は私達は自由なの?」
「休み?自由?」
「だから青鬼君には今日は家に帰ってもらうか、あたし達と一緒にピクニックに行くかの2択ね」
「赤鬼さん、この女性の言ってることが俺には理解できないんだが‥。俺にも理解できるよーに説明してくれ!」
青鬼はけんゆー(赤鬼)より、背が高く痩せていて、テンパでメガネをかけている。
 けんゆーは青鬼の耳元で、

「実は俺にも訳が分からないんだ。姉さん(順子)は一度言ったら、多分最後までやらないと気が済まないと思うぜ!確かにここのところ働き詰めで、休みなかったから、休日を作る、姉さんの意見には俺は賛成だ。
案外今の閻魔様には、姉さんのような人が必要かもな」
呟く。
「そうかもな。これはひょっとするとひょっとするかもな」
青鬼は頷いてけんゆーの意見に賛同する。
「青鬼のあなた、あなたも名前ないのよね?だったら今日からあなたの名前リョウにするわ」
「リ、リョウ?俺が?」
青鬼はびっくりして、順子に聞き返す。
「良かったな。青鬼、いやリョウ。響きが涼しげでかっこいいじゃないか!」
「それは当たり前よ。だって作者の推し(田口涼)だもん!実際彼は高学歴で社長、兼俳優よ!
順子が読者とケンユーとリョウに説明する。
「さあ、これからみんなで三途の川までピクニックに出発!」
順子は右手を挙げて宣言する。その様子は、幼稚園児を引率する保育士そのものである。
気がつけば賽の河原から、子供達が4人ついててきて、順子たちは賑やかになっていた。
根っこからの明るい順子の笑顔と、優しい人柄に子供達はなついてしまった。
「なんか成り行きで彼女と子供達と一緒にハイキング?に参加?することになってしまったが、不思議に悪い気しないな」
「そうだろ?リョウ?そこが姉さんの凄いところなんだよな!」 
「もうすぐ三途の川だが、三途の川に着いたら、何をするつもりだ?姉さん?」
「あたしとケンユー、リョウはケトルでお湯を沸かして、コーヒー、子供達はヤクルトを飲んで、食パンにチューブ型のピーナッツバターを塗って食べようと思ってるけど‥」
「お姉さん、ピーナッツバターって美味しそう」
「順子姉ちゃん、俺はヤクルトが気になるぞ」
さっきまで元気がなかった子供達の目が生き生きさてきて、輝きが満ちてきた。
「ちょうど木陰になってる場所があるから、あの辺で座ってみんなです食べよう」
順子が木陰を指差して、みんなに説明する。
「そうだな。あのあたりいいんじゃないか」
ケンユーも賛成する。しかしリョウだけは、
「三途の川の木のあるところって、※2脱衣婆が」
言い終わらないうちに、女性の低い方がした。
「コラー、騒がしいぞ!お前達!一体これは何事か?」
「やっぱり奪衣婆か!」
明らかに嫌そうな顔でリョウが言った。
「こ、これは?何やってるんだ!赤鬼、青鬼!お前たちはもちばを離れてはダメだろうが!こんなところ、閻魔様に見つかったら、ただではすまんぞ!早く自分たちのもちばに帰れ!
「ちょっと、ちょっとお婆さん、さっきから黙って聞いてれば、あんまりじゃない?」
明らかに上から目線の奪衣婆に順子が不快感を表した。
「おばあさんには用はないね!引っ込んでな!」
「自分の方がお婆さんじゃん!あんた(奪衣婆)にだけは言われたくないわね!何も事情知らないくせに!今日は地獄ではお仕事お休みなの!休日なの!だからケンユーやリョウが何をしようと自由なの!
「何を勝手なことを‥そんなことが許される訳ない」
「はーい、どーぞ。」 
順子は大きなリュックからふわふわ食パン6枚切りを1枚出して、チューブ型のピーナッツバターを塗って、適度な大きさに千切って、奪衣婆の口元に放り込んだ。
ケンユーとリョウは順子の行動に唖然として、心配そうに順子と奪衣婆の様子を見ている。
子供達だけが、無邪気に、
「ずるい、ずるいよ!おばあさんだけ食べて。僕にもちょうだい」
「そうよ。お姉さん。私も早くパン食べたい」
順子に食パンをねだった。
「あ、ごめん、ごめん。もちろんあなた達の分もあるから、ちょっと待ってて!」
「わーい、わーい」
「美味しそうな甘ーい匂いもするぞ!」
「本当はトースターがあれば食パンは美味しのだけけど、流石にトースターはないわね。でもこのパンはふわふわだから、このままでも充分美味しいわよ」
そう言って、パンにピーナッツバターを塗って、子供達に配る。
「ありがどう。順子姉ちゃん」
「お姉さん、ありがとう。甘くて美味しい」
パンを食べた子供達は目をキラキラさせている。
「はい。ヤクルトもセットでどーぞ」 
そんな子供達の幸せそうな顔を見て、順子も自然に笑顔になる。
 「順子殿。これははふわふわで甘くて、上手いものじゃのう」
 何とあんなに悪態ついていた奪衣婆が順子にお礼を言ってきた。
「わしは長い間、奪衣婆としてただ、地獄の門番的な役割をしてきた。以前は人であったかも知れんが、地獄に来てから、現世の記憶は消されてる。他の鬼達もそうじゃ。ただ地獄の秩序を守る歯車の1つじゃ。そんなわしが今パンを食べて上手いと思ってる。実に不思議じゃ」
「美味しいと思えて良かったわね。カンナ」
「カンナって誰だ?」
「まさか奪衣婆のことじゃないよな?」
ケンユーもリョウも不思議そうな顔をする。
「勿論奪衣婆さんのことよ。可愛いでしょ?作者の友人に橋本環奈ファンがいるから、彼女の名前からつけたわ!」
「え?マジかよ?
「奪衣婆には似合わねーよ!名前が可愛すぎ」
ケンユー、リョウが奪衣婆に失礼な言葉を言ったとたん、バシっと順子と奪衣婆の見事な平手打ちが決まった。
「おい、何すんだよ?いきなり引っ叩くなんて酷いぜ!姉さん」
順子に引っ叩れたケンユーは殴られた頬を右手で抑えながら言った。
「ケンユー、お前はまだマシだぜ!俺なんか、奪衣婆から往復ビンタ食らったぞ!暴力反対!」
リョウは鬼らしくないことを言った。
「お兄ちゃん達、鬼なのに弱いね。」
3、4歳ぐらいの女の子がビンタされた鬼を見て、あははと笑った。
「今のわね、ケンユーとリョウが女性(奪衣婆)に対して無神経なことを言ったから、悪いのよ!ビンタの跡以上にカンナの心は傷ついてる。心の傷は見えないから分かりづらいけど‥。2人はこれからLadyに対する接し方を学ばなきゃダメね。」
順子はケンユーとリョウが引っ叩かれた理由を説明した。
「ダメね」
女の子が順子が言った言葉を繰り返した。
「ダメじゃの!」
カンナも女の子の言葉をマネした。
そして3人は互いに顔を見合わせると声をあげて笑った。その明るい笑い声だけを聞くとここが地獄なことが忘れそうである。
 そして再び順子は大きなリュックから、大きなケトルと充電器を取り出す。
「お姉さん、それは何?何か作るの?」
「実験でもするのか、順子姉ちゃん?」
男の子と女の子は興味津々だ。
「姉さん、パンはうまいが、パサパサして、口の中が乾くぜ。どうしたら‥」
「順子殿、わしも何か飲物が」
「俺も俺も」
ケンユー、カンナ、リョウはそれぞれ言いたいことを言い出した。
「はい、はい。大丈夫よ。これからこれで美味しい飲み物を作るから‥みんな、期待して待ってて」
順子は慣れた手つきでケトルにペットボトルのミネラルウォーター500mlを2本入れる。そして充電器の上にケトルを置き、その横にバッテリー2個セットして、電源を入れる。
「はい。これで約5分待って。」
順子は笑顔で言った。
ケンユー、リョウ、カンナ、子供たちは目を輝かせて、順子の1つ1つのか行動に注目して楽しそうに見つめている。まるでマジックショーを見ている観客のようだ。
「何かいい香りがするわ、お姉さん」
「ちょっと甘い匂いもするな」
子供たちはなかなか鋭いことを言う。
「まずケンユーからね。好みでブラックで飲む人もいるけど、初めはお砂糖入れた方がいいわね」
お湯が沸くと順子は※2アロアロカフェのインスタントコーヒーを持ったてきた紙コップに入れる。そしてお湯を注いだ後、スティックタイプの砂糖を1つ入れた。
ケンユーは順子からもらったコーヒーを、恐る恐る一口飲む。
「こ、これは旨いぜ!姉さん。酸味と甘味のバランスがいいな。またこのピーナッツバターのパンと絶品だな」
「早く俺にも俺にも」
「わしにも」
リョウとカンナはもう、待ちきれないと言わんばかりに順子を急かす。
「はい、はい。」
順子はまるでカフェの店員みたいに、手早くコーヒーを淹れて、リョウとカンナに渡す。
「これはいいや!何杯でも飲めるぜ!」
とリョウ。
「このパンとコーヒーは最高じゃ!」
「みんな、喜んでくれてあたしも嬉しいわ」
「順子姉ちゃん、俺たちの分は?」
「私たちのは?」
「ごめんね。コーヒーは苦いから、あなた達は大人になるなってからね。その代わりヤクルトがあるでしょ」
「ところで姉さん、今日姉さんが地獄に堕ちきてのは、ハプニングだけどな!いつもコーヒーと食パン持ち歩いてんのか?」
ケンユーが素朴な疑問を尋ねる。
「それは俺も気になってた。今日はたまたま俺達と会ったけど、もし会わなかったから、そのパンはどーするつもりだった?」
リョウも同じ疑問を順子に聞く。
(それはそうだろう?食パン一斤とキャンプ用ケトルを待ち歩いている人は早々いない)
「え?どーするって?勿論食べるわよ。まずお昼ご飯に4枚、おやつに2枚。食パン一斤なんて、半日で無くなるわ」
順子は当たり前のように答える。
「あたし、コーヒー好きなのよね。いつでも飲みたいから。ケトル持ち歩いてるの」
「さ、さすが、姉さん!」
ケンユーはびっくりして目を丸くしてる。
「順子殿はワイルドじゃのう」
カンナは理由は分からないが、共感してる。レディと言われてすっかり心を許してしまったようだ。
(「オ、俺は順子さんに逆らうの止めておこう。この人には勝てない。」リョウは今までの順子のは言動からそう判断した。ちょっぴり冷や汗遠掻いている。閻魔様より怖いかも‥)

 みんなそれぞれパンを食べ、ヤクルト、コーヒーを飲み終えた後、漸く順子達は閻魔様のところへ向かう。
「子供たちは閻魔様のところに行かないで、さっきの場所(賽の河原)に帰った方がいいわ。あたし達はこれから閻魔様と話し合わないといけないの。こわーい門番のリョウには一緒に来てもらうから。リョウのいない間、みんなで楽しく遊んだらいいじゃない?明日からまた過酷な仕事(賽の河原の石積み)をいけないのである。
「それはそうなんだけど、何か順子姉ちゃんと別れるの寂しいな。もっと一緒に遊びたい」
「あたしもあたしも」
「みんなの気持ちはとても嬉しいわ。でもあたしには家族がいるの。だから元の世界に戻らないといけないの。それを閻魔様に聞きに行くのよ!みんなにはまた、会いに来るから‥」
「ほ、本当?順子お姉さん?あたしまた順子お姉さんに逢える日を楽しみにしてるわ。楽しみがあれば多少の嫌なことも頑張れるもん」
「絶対、約束だぞ!順子姉ちゃん」
「僕は順子さんが家族に会えるように願ってます」
「頑張れ!順子姉ちゃん!」
「ケンユー、リョウ、カンナも地獄がもっと良くなるように頑張って!」
順子たちは、子供たちとお互いの姿が見えなくなるまで、手を振って別れた。
 しばらく歩くとケンユーが、
「ここが閻魔様のお屋敷だぜ」
と手を挙げて説明する。
大きな立派な屋敷で、見るからに権力者が住んでいるのが外観からでも分かる。
「確かに凄く立派なお屋敷だけど、とてつもない負のパワーを感じるんだけど」
順子が思わず顔を顰める。
「わしは以前に来たことあるけど、こんな雰囲気じゃなかったのう」
とカンナ。
「悪霊退散!悪霊退散!陰陽師!」
レッツゴー陰陽師の歌詞のサビの部分をケンユーが歌う。
「ちょっとケンユー。気持ちは分かるけど、鬼が陰陽師に頼るって‥そんなのありなの?」
順子は自分も一緒に歌いかったのを我慢して、ケンユーに聞いた。
「ドラクエなら教会に行って呪いを解いたり、キアリー(解毒の呪文)キアリク(麻痺解除の呪文)で一発で治るんだけどな!」
とリョウ。リョウはドラクエ信者である。
「2人共、何、現実逃避することばかり言っておる。中に入らなければ何も分からないじゃろ!」
カンナはさすが年長者?である。肝が据わっている。真っ先に先頭に立つと、玄関のチャイムを鳴らす。
予想通り、何の反応もない。そして玄関のドアノブをそっと握る。カンナは90%以上の確率で鍵がかかっていると思っていた。順子たちもそう思ったいたのだが、あっさりドアが開いた。
「これは流石に不用心すぎるじゃろ!」
カンナは半ば呆れた顔で言った。
「ちょっと現代の日本では考えらるないわね。まあここは地獄だから、日本の常識とは違う可能性もあるけど‥」
と順子。
「ええーっと、閻魔様の寝室は大きなベットがあっちに見えるから、そこだな!よし!みんなで行くぞ!」
ケンユーが改めてみんなに声をかける。おそらく自分に1番言い聞かせているのだろう。優しいケンユーはちょっぴり気が小さいのである。みんなはお互い顔を見合わせて、無言で頷いた。
「閻魔様、久しぶりじゃのう。元気じゃったか?」
さりげなくカンナは閻魔様に尋ねた。
「こんにちは!初めまして、閻魔様。順子です。今日は閻魔様に聞きたいことがあったので参りました。と言うよりは訳がわからないうちに地獄に落とされました」
順子はいつもと同じ口調で言った。
「ちょっと‥ちょっと姉さん、そんなストレートに聞かないでもう少し油ラードに包んだほうがいいような」
けんゆーは少し青ざめた顔で遠慮がちに言った。
「そうだよ!順子さん。奪衣婆ば‥じゃなかったカンナの質問にも閻魔様布団被ったままで何の反応もないよな。これからどーするんだ?」
リョウも不安そうな顔をしている。
「それは勿論、次の行動に移るわよ!ちょっと荒ぽっくなるけど‥」
順子は当然の如く答える。
「そうじゃのう」
カンナは順子のの次行動を察しているのか、明るい😃をしている。
おどおどしているけんやーとリョウとは対象的である。
「けんゆー、俺は何か悪い予感がするぞ!」
「俺もだ。リョウ。なんか胸がざわざわするのだが。でもそんなこと考えても無駄なことも俺は知っている。姉さんは言葉よりも行動が早いんだ!えっ?マジか!?ええーーー!」
けんゆーの言葉より、順子の行動が早かったようだ。けんゆーは心の底から驚いて大きな声を出してしまった。
「けんゆー、いくら驚いたからと言って、大きな声出しすぎだぞ。鬼として少しはプライドをもてよ!な、何ぃ?!」
けんゆーを落ち着かせようとしたリョウだが、順子とカンナのとった行動にびっくり返ってしまった。逆にリョウは言葉を失っている。それもそのはず有無も言わさず順子とはカンナは2人で布団を剥ぎ取ってしまったのだ。(さすが順子とカンナ)
「ちょっといい加減にふて寝してないで、出てきなさいよ!あなた、閻魔様で」
しょと順子は続けたかったが、閻魔様の様子を見て、絶句してしまった。何と閻魔大王はお妃様の膝枕をして、大号泣していた。これには一同驚いた。それもそのはず、地獄では膝枕の使用は禁止されていたのだ。
暫く誰もが言葉を失っていたが、ケンユーが沈黙を破った。
「本来なら禁止されてる膝枕、何で1人で使ってるのですか?権力濫用はよくないぜと言いたいところだが、これはそんなレベルの問題じゃないぞ!闇堕ち以前の問題だ!この閻魔様の状態はカオスだ!このままでは地獄は終わりだ!」
「もうお終いだ!もうお終いだ!
リョウが狼狽えて叫んだ。少し涙目になっている。
「そう。このままだとね。閻魔様の境遇には同情するけど、あたしはあなたの部下に間違えて、ここ(地獄)に落とされたの!めちゃくちゃいい迷惑なんだけど。あなた、上司(閻魔)なら責任とりなさいよ!
順子が至極、真っ当な質問を閻魔様にぶつけた。
今の閻魔様には順子の言葉は届かない。何の反応もない。
「そう。あなた(閻魔)がそういう態度なら、質問を変えるわ。今のあなたを見たら、お妃様が生きていたら、どんな顔をするかしら?おそらくがっかりすると思うけど‥」
「‥‥そんな事言っても妃はもういない。地獄がどうなろうとワシの知った事か」
妃の言葉に閻魔様が反応して、蚊の鳴くような声で答えた。
「す、凄い。さすが姉さん。閻魔様、反応したぞ!」
ケンユーが感動して声をあげた。
カンナとリョウの目も希望が宿り始めた。
「確かにそうね。お妃様は残念ながらもういないわ。だからといって、ずっと子供みたいにふて寝してるのもどうかと思うわ。あなたは地獄のリーダーでしょう!あなたを慕って、ケンユー、リョウ、カンナ、いいえここにいない地獄のみんなが戻ってくる(正気になる)のをずっと待ってるのよ!閻魔様としての責任を果たさなきゃダメ!」
「妃がいなくてもか?」
「そうよ。お妃様がいなくても」
「どんなに辛くてもか?」
「そう!」
「理不尽なことだらけでもか?」
「そう!地獄のことは分からないけど、現世では自然災害や事故、事件、戦争とか、生まれた国、様々な不平等な環境で理不尽なことだらけよ!」
「そうなのか?」
「そうよ。あまりにも辛い立場なら、人は休むことも必要だけど、閻魔様はお妃様が亡くなってから、充分休養をとったと思うわ。そろそろ前に進む時よ。」
「‥」
「ねえー、地獄にDVDとかある?」
「ある。」
「じゃあ今度、ラーゲリより愛を込めてのDVDを貸してあげるわ。物語は悲しいけど、生きるヒントが沢山詰まってるわ」
「だが順子、どうやってお前は現世に帰るのだ?」
「あ、そーだった。あたしは閻魔様に現世に戻る方法を聞きに来たのよ!」
「その件は本当に申し訳なかった。順子、とても言いにくいことなのだが、お前が現世に戻れるのは3年後だ。」 
「え?3年後?そんなに待てないわ。夫も子供も現世にいるのよ!」
「そんな事言われても‥仏様の救済措置として、3年に1度、仏様が天界から蜘蛛の糸を垂らすのだ。それを登っていくと天国に行ける。ただし1人だけ!我も我もとみんなが登っていくと、仏様が無情にも蜘蛛の糸をプッツンと切ってしまう。それが三日前にあったばかりだから、今は蜘蛛の糸を待つしかない。」
閻魔様は重たい口調で言った。
「でーーこれからどーするんだ?姉さん?」
不安そうな顔でけんゆーが順子に聞いた。
「さすがの順子殿も今回ばかりはちょっと苦しいのう」
「そうだぜ!順子さん。いくら順子さんでも帰る道のりがないなら、どーにもならないよな」
リョウが気の毒な眼差しで順子を見つめた。
元は閻魔様の監督不行き届き原因だが、ミスして順子さんを地獄に落としたのは俺だ。何と詫びていいのか‥。順子さんの家族にも‥」
「ねえ、閻魔様、カンナ、空の右の上の方に穴が開いてるけど、あれは何?」
「あれが正しく天国に通じる抜け穴じゃ!あそこから仏様が蜘蛛の糸を垂らすのじゃ」
カンナが順子に説明する。
「じゃあ、まだ方法はあるわね」
順子はニヤっと笑った。
「姉さん、その顔は何か良いアイデアがあるんだな

ケンユーが笑顔で言った。
「あたしの理論で行くと、地獄と天国の間に現世があると思うの」
「なるほど、姉さん。理論は分かるが、どうやって上まで登って行くんだ?」
「閻魔様も言った通り。3年間待たないと蜘蛛の糸はないんだぜ」
「すまない、順子。今のところ、打つ手はない。蜘蛛の糸さえあれば、お前の予想通り、天国と地獄の間に現世があるだろう。だがはっきりしたことはわしにも分からない。お前が初めてのケースだからな。」
(それはそうだろう。生きたまま地獄に落とされるなんてことが、しょっ中あったら、たまったものではない。←ノアの心の声)
「みんな、色々心配してくれてありがとう。でもあたしは順子だから大丈夫よ。糸が無いなら、自分で出せばいいのよ!」
「?」
「そんな蜘蛛じゃあるまいし、糸が出せる人間なんているか!」
閻魔様は何寝ぼけたこと言ってんのかと言わんばかりに順子に問いただす。
「あら、ごめんなさい。これはあたしの言い方が悪かったわね。あたしヒザンド使いなの。ヒザンドは※2ジョジョで言うスタンド能力のことで、超能力の一種よ!ヒザンドを目覚めるきっかけは人それぞれだけど、精神力が強い人がヒザンド使いになる可能性が高いわね」
「それなら姉さんがヒザンド使いになるのも充分納得できるぜ。」
「順子殿は鬼メンタルの持ち主じゃのう。ある意味鬼よりメンタル強そうじゃ。」
「そろそろ本当に家に帰らないと家族が心配するわね。帰ってご飯の支度しなくっちゃ!でもその前にみんなに提案があります!」
順子は突然、右手を挙げて宣言する。
「どーした?順子?急に改まった口調になって?」
閻魔様は不思議そうな顔で順子に聞いた。
しかし不思議そうな顔をしているのは閻魔様だけで、ケンユー、リョウ、カンナは苦笑いしている。三人はこういう時の順子はいつもぶっ飛んだ行動することを知っている。そしてそれを止めても無駄になることも分かっている。
「あたし、今から閻魔様と結婚します!よろしくね、みんな!」
満面の笑みで順子は、はっきり宣言した。
「へっ?」 
閻魔様はあまりにも驚いて、間のぬけた声を出した。
「なんじゃと??今、何と言った?
「だ・か・ら あたしと閻魔様が結婚するって言ったの!聞こえなかった?」
「順子の声は聞こえたが、内容が理解不能だ!」
「だって閻魔様のメンタル、豆腐じゃん!1人にしたら、またさっきみたいにフヌケになっちゃうかもしれないでしょう。だから結婚しようと思ったの!」
「な、何を言っているんだ?順子、お前には夫がいるではないか!わしと結婚したら重婚になるんだぞ。そのこと分かってるのか?順子?」
「閻魔様、それは現世の日本ではそうなるでしょうね。でもここは地獄。世界が違うんだから、重婚にならないわよ!第一、現世と地獄。2つの異なる場所を行き来した人、いないって、さっき閻魔様言ってたじゃない?だったら最初の1人にあたしがなるわ!ずっと地獄にいるわけにも行かないから、通い婚になるけど、それはそれで面白いわよね。源氏物語の逆転バージョンみたいで。」
「そ、それはダメだ!順子さん。順子さんと結婚するのは俺だ!」
リョウが予想外のことを言い出した。
「リョウより、俺だろ!姉さんは俺と結婚するべきだ!」
何とケンユーも花婿候補に名乗りをあげた。
(いつもながらお話しの結末がどうなるか不安だ。作者の心の声)
「やっぱりモテる女って辛いわね」
と順子。これはいつものパターンである。
「ケンユー、リョウ、カンナ、閻魔様、会えて嬉しかったわ。今日はこれで帰るわね。まったねー!※3ストーン体重フリー!」
順子はみんなと笑顔で挨拶すると手首から糸のようなものを出した。その糸はどんどん長くなり、天国に通じている抜け穴まで、あっという間に届いた。
時間を計算したら、ほんの2、3分だろう。
こうして順子は見事に自分の力で自宅に帰っていた。
「ケンユー、順子さんって本当に人間なんですかね?」
「さあーな、色々やることが度肝を抜いてるんで、ただものではないよな!」
「わし、気づいたことがあるのじゃが!」
カンナは真剣な顔で言った。
「順子殿と初めて会った時から、薄々感じていたのじゃが、今一つ確信がもてなくて、今まで言えなかったことじゃ。でも順子殿が自分で糸を出して、自宅に帰った時、はっきり分かったのじゃ!順子殿ってお妃様に似てる気がせんか?」
ケンユー、リョウ、閻魔様は顔を見合わせてハッとした。
「そうか。姉さんってなんか初めて会った人には見えなかったんだよな。姉さん🟰お妃様。」
「閻魔様より強いのもお妃様そのモノだよな‥」
「順子殿がもし、お妃様の生まれ変わりだったとしたら、これまたロマンチックな話じゃのう」
カンナは嬉しそうに言った。
「でもこのことは暫くわしらの胸の内にしまっておくのじゃ。真相を知ったら順子殿が混乱するかも知れないじゃろ。」
カンナの言葉にみんな、無言で頷く。
「順子殿は夕飯の支度してる頃じゃろ」
「姉さんのことだ、味見するとか言って、全部食べてもう一回おかず作り直したりしてな。」
「ケンユー、順子さんなら、それありえるな」
地獄では久しぶりに穏やかな一日が過ぎようとしていた。
一方その頃、現世では順子が夕飯の支度をしていた。
ハックションと順子はくしゃみをした。
「誰かあたしのウワサしてるのかしら?あたし、可愛いもんね。」

              〈完》

 ※1 膝キュア プリキュアのパロディで膝枕にアレンジしたもの。
 ※2 ジョジョの奇妙な冒険。作者がバイブルにしている。特に悪役のボスの美学が素晴らしい。
 ※3  ジョジョの奇妙な冒険6部の主人公ジョリーンのスタンド ストーンオーシャンをパロディにしたもの。
 

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