「曳き家の苦悩」とは?
『解体屋ゲン』今週(7/30発売)と来週の2週間に渡って掲載されるのは、準レギュラーで実在の曳き家の岡本さん。ちなみ曳き家というのは、家をそのまま持ち上げて移動したり(時には数百メートルも!)、地盤沈下して傾いた家を直したり(沈下修正といいます)するお仕事です。『解体屋ゲン』の読者ならロクさんの仕事でおなじみですね。
さて、今回の岡本さんはこれまでとは登場の仕方が違います。
実は岡本さんの仕事が新型コロナの影響でピタリを無くなってしまったのです。作中で出てくる岡本さんのエピソードはほぼ実話です。詳しくは岡本さんご本人がブログに書かれていますのでぜひ読んでみて下さい。
謙遜して書かれてますが岡本さんは日本で有数の曳き家職人で、他に類を見ない特殊技術の持ち主です。文化財や古民家の修復で岡本さんの右に出る人は居ないと思います。
自営業の方であれば、仕事が切れる怖さは分かってもらえると思います。収入がないのに家賃や生活費、子どもたちの学費は容赦なく出てゆきます。みるみる貯蓄が目減りし、気ばかり焦ります。サラリーマンのように有給休暇や失業手当がないので、備えがないと仕事が切れた瞬間に人生が詰んでしまう人も少なくありません。
岡本さんの仕事は2019年までは順調でした。2020年もぼちぼち…それが2020年の後半からピタリと無くなります。言うまでもなく新型コロナのせいです。依頼されていた古民家の修復は施主が国際線のパイロットだったためそれどころではなくなり…。
思えば、2020年は世の中が止まった年でした。飲食店が閉まり、大学は休講し、会社はリモートワークとなり…人の流れは社会の血流に当たります。その流れがある日止まってしまったら…そんな異常事態の中、将来の先行きが見えないと人は保身に走ります。家のリフォームや沈下修正が後回しになるのも無理はありません。
さて今回の話を書くに当たって、実在の岡本さんと対比するために、ファミレス『マンマミアーズ』再建を目論んでいる理沙を取り上げることにしました。理沙は祖父が経営していたファミレス『マンマミアーズ』閉店後、なんとか再建しようともがいてきました。移動販売車で資金をため、新しい店舗をようやく借り、パートを雇い制服を新調し…と時間を掛けて何度も取り上げ、いよいよ店舗内装に取り掛かるという段階で新型コロナに襲われたのです。
もちろんフィクションなので、そのまま店をオープンしてもよかったのですが、現実に即して考えるとそれはあまりに都合が良すぎるように思えました。なので…
『マンマミアーズ』は『Plan-B』というテイクアウト専門店に鞍替えして再出発します。それが功を奏して、売上をなんとか維持できているというストーリーです。
個人事業主も企業も日々なんらかの選択を迫られているのが実情ではないしょうか。機会損失した売上は戻ってきません。それは本当にウィルスだけが原因なのでしょうか。
新型コロナが残酷なところは、飲食店や劇場、そして岡本さんのような個人事業主に大きなダメージを与えた一方、業種によってはほとんど売上が下がらなかったりむしろ上がったりと、明暗がはっきりと別れたことだと思います。7/29現在、東京の感染者数は3,865人を突破し、緊急事態宣言を8/31まで延長。まだピークは見えない状況です。その一方、ワクチンの高齢者への接種が進んだことにより、死者は確実に減っています。
7月に入ってからは、1日の死者は平均1人以下です。欧米ではどれだけ感染者数が増えても行動制限は解除されています。それは政治的決断があるからです。
それでも日本では緊急事態宣言は延長され、休業補償は遅れ、その間にも支払いが滞って倒産したり閉店を余儀なくされる企業が後を絶ちません。私は経済対策について政治の責任は大きいと思います。
さて岡本さんの仕事はどうなってしまうのでしょうか。後編をお楽しみに!
今回の話が掲載された『週刊漫画TIMES』はこちらです。
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