万葉集翻案詩:『珠名娘子の物語』


  しなが鳥 安房に継ぎたる
  梓弓 末の珠名は
  胸別の 広き我妹
  腰細の すがる娘子の
  その姿の きらきらしきに
  花のごと 笑みて立てれば
  玉桙の 道行き人は
  己が行く 道は行かずて
  呼ばなくに 門に至りぬ
  さし並ぶ 隣の君は
  あらかじめ 己妻離れて
  乞はなくに 鍵さへ奉る
  人皆の かく迷へれば
  うちしなひ 寄りてそ妹は
  たはれてありける
 
  (「万葉集」巻9・1738 高橋虫麻呂歌集)


  『珠名娘子の物語』

  安房国(あわのくに)に住んでいる
  珠名(たまな)という女性は
  胸が豊満でありながら
  腰が蜂みたいに
  きゅっ、とくびれている娘だった
 
  その容姿の美しさで
  花のように微笑んで立っていたら
  道行く人は自分の行くべき道を行かず
  呼びもしないのに
  彼女の家の玄関先までやって来た
 
  珠名と家を並べる隣の主人に至っては
  前もって妻と離縁して
  言ってもいないのに
  自分から家の合鍵を珠名に捧げた
 
  近付く男のみんながみんな
  珠名の姿や微笑みに魅かれて
  心を惑わせたので
  珠名は その美貌をふりかざし
  男たちを ことごとく誘惑して
  だらしなく淫らに振舞って
  日々を過ごしていたということだ


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