万葉集翻案詩:『橋の上の娘』

しなでる 片足羽の さ丹塗りの 大橋の上ゆ
紅の 赤裳裾引き 山藍もち 摺れる衣着て
ただひとり い渡らす子は 若草の 夫かあるらむ
橿の実の ひとりか寝らむ 問はまくの 欲しき我妹が
家の知らなく
 
大橋の 頭に家あらば ま悲しく ひとり行く子に やど貸さましを
(「万葉集」巻⑬・1742 高橋虫麻呂歌集)

 


『橋の上の娘』
 
太陽が その光を落とし
きらきらと水面が輝く
片足羽川に架かる
赤い丹塗りの大きな橋
 
その上を
赤いロングスカートの裾を引きずり
藍染め衣を着て
一人で渡ってゆく 
美しい あの娘(こ)は
若草のような夫がいるのだろうか
 
それとも
橿の実のように身を固くして
独りで寝ているのだろうか…
 
彼女の身の上も分からないし
家を訪ねようにも
その場所さえ分からない
 
この大きな橋の近くに
僕の家があったなら
憂いを秘めた瞳で
少し物悲し気に歩いてゆく 
あの娘に
宿を貸してあげるのに…
 
今、心惹かれるのは
橋の上の あの娘
 
 
【メモ】
巻⑬の長歌と短歌のセットで詩を書いてみました。
この歌の題詞に「河内の大橋を独り行く娘子を見る歌」とあります。
歌の片足羽川は大阪府を流れる大和川という説があります。
 
「高橋虫麻呂歌集」からとなっていますが、歌の作者は高橋虫麻呂(たかはしのむしまろ)その人だと言われています。
高橋虫麻呂は万葉集の中でも独特の歌風を持つ歌人で、昔の説話や伝説を下地として自分の色を織り込みながら歌を詠まれる事が多いのです。
その事から虫麻呂は、万葉集の「伝説歌人」と呼ばれています。(決して伝説“の”歌人ではありません…)
万葉集の中で虫麻呂が詠んだ歌の中には私たちがよく知っている「浦島太郎」の原型になった歌も載っています。(実は、この歌の前の歌(1740と1741)がそうです。)
 
私、高橋琴麻呂と名前が似ているな…と思われた方もいらっしゃるかもしれません。
そうです。私のペンネームの由来は、この虫麻呂さんからきています。
私も、万葉集という昔の言葉を下地にして詩を書いている…その共通点と、本名の苗字が同じという勝手な親近感から、このペンネームを名付けました。

#万葉集 #詩 #万葉集翻案詩

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?