長い間なおらない、ということ
摂食障害。なんとなく自分のことを嫌いだ、と感じている日々のいやな感じ。人からも指摘される、自分でも自覚がある人間不信。数日に一回とらわれる現実感のしないただぼんやりする重くて止まったような長い時間。リストカットしないと落ち着かない夜の時間。リストカットするとようやく落ち着く、という自分がいることにイライラする感情。
そうした症状に何年もとらわれたままなおらない方がいます。なおることなどあきらめに近い感覚になってしまうこともあるようです。
しかし私はあきらめることはない、とお伝えしています。
今はネットで様々な情報に触れますから、そこでいろんな話をよむことができます。そこでマイナスの情報にふれることもままあるのです。「摂食障害はてごわい病気で、なかなか治らない」「幼少期に抱えたトラウマはひょっとしたら生涯を苦しめる」…しかし、ほんとにそうなんでしょうか。
それは、適切な治療を受けていないまま長期間過ごしているということを表しているだけかもしれません。
長期間、精神科医の投薬を受けている方がおられるでしょう。その方は普段は3分間診療でも、たまには20分ほど話を聴いてもらえることもあるでしょう。とはいえ、その程度ではやはり残念ながら、必要な心理療法を受けていることにはなりません。世界ではうつ病の標準治療となっている認知行動療法ですが、わが国ではどれほどの患者さんがその治療法を受けられているでしょうか。近年高い治療成績が確かめられている対人関係療法も、我が国の治療現場で治療を受けられている患者さんは多くはないのです。
精神療法は日進月歩です。知見はつねに更新されています。精神療法も、身体に対する医療と同様、古い教科書には載っていなかった治療法が今の教科書には載っています。けれど、その恩恵はなかなか、現場の患者さんのところまでは届いていないように私は感じます。特に地方で活動している私などは日々それを残念に感じています。
もちろん保険診療の制度の中で、カウンセリングが十分な保険点数になりにくいから医療機関はそれを実施しにくい、というやむをえない実情が背景にはあるのです。しかし、そういう実態が長期間続いた結果、ベテランの精神科医も薬を使わない心理療法についての知見、理解が後退しているのではないかと感じる場面もあります。したがって、本来その症状を持つ患者さんにもっとも適切だろうと考えられる治療が、長年おこなわれないまま時間ばかりが過ぎているということがあるだろうと推測できます。
精神の不調というのはまったくその人の生活の質にとっては重要な影響を与えます。その方の人生を長く損なうものになりかねません。
適切な治療を受け始めると、じわじわと状態は変化するものです。外科手術や強い薬物療法とは違ってちょっとゆっくり取り組む姿勢は必要ですが、それを提案する人に出会えるかどうか、これがその人の運しだいになっている悲しい日本の現実を私は嘆かないではいられません。
もちろん政治の問題です。そして、多くの人にそういう知識が、情報がゆきとどくようにする一人一人の専門家の努力の量と質の問題だと思うのです。
カウンセリングを始めてみると、ただこの人は今まで接することがなかっただけだったのだ、とわかって、複雑な気分になることがあります。そういう「運の悪い人」になんとか手が届くようにできないものか。……日々、考えます。
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