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「私のこれは治りそうにない」んだろうか?

心理カウンセリングを日々行う中で、ゆっくりと患者さんが回復していくのを日々、目撃しています。

そして、多くの場合、「今まで体験したことがない初めての晴れ空を見てる」という感想を聞きます。

意外なことに「前に見ていた晴れ空がやっと戻ってきた」というのより、多いのです。一般に「回復」のイメージとは、「健康にもどる」「もとにもどる」というものだと思いますが、私の場合は圧倒的にこちらの声の方をよく聞きます。

つまり、物心ついたころから、小学校低学年や高学年頃から、その方はずっと「曇り空」だったというわけです。あるいは「雨の空しか知らない」。

これは、考えてみれば大変なことです。

よく「うつは心の風邪」とたとえられたりしますが、風邪を引いたなら、その患者さんは風邪をひく前の、だるくなくて、節々痛くなくて、ふらつきもせず、もりもり食べるのが楽しかったあの感じを知っています。だから「あそこに戻ろう」と頑張って寝たりします。目標、そのイメージはありありと具体的です。あの躍動。あの胸のワクワク。あの子を笑かしたり、あの人にいたずらして笑ったり。だから「戻ろう」とする意思のかたむきは、身体の傾き、といってもいいくらいい生々しくそこにあります。

 けれど「初めての青空」の方は、それが、そこにないのです。だって、生まれてからいちども体験したことがないのですから。

 「健康な人だったら、こういう不安が、こういうふうには、こんなに毎日はない、ってことなんですか?ほんとですか?」と聞かれたりもします。

 「ないんです。だいたいは。はい。」「ほんとですか?」

……たとえて言うなら、北極点近くの氷原で生まれ育った人に、熱帯のスコールの勢いをわかってもらえないようなものです。

そんな伝わらなさ、伝わってこなさが、「初めての青空」の方との対話にはずっと横たわっています。

 そんなたどりつけそうにない土地の空に、イメージすらできない幻の空に、患者さんは到達できるんだろうか?
――できます。

私は、しっかり伝えることにしています。

そんな時間は、どんなふうに、どんな道を通って、どんな仕組みでやってくるのか。臨床心理学の知見は、豊かにそれを教えてくれます。私はこれから書くここでの文章で、それを皆さんにもお伝えしたいと願っています。できる限りわかりやすく。なるべくなら印象に残るようなエピソードも交えたい。ただし個人が特定できないように、改変は少々加えたうえで、ですが。治療者の自分が体験したある日の、ある変化。そういうものを中心に書いていきたいと思っています。


だからなかば自分で気づいている方、「私のこういう感じはふつうじゃないんだな」「健康ッていうのとは明らかに違うな」と思っている方に、そして「だけどこれが私。私の性格。治るものでもないし」とあきらめて過ごしている方に、伝えたいのです。あきらめないでください。と。毎日死ぬことを考える生活からは、自由になれます。どんよりと真っ黒な曇り空の朝、を手放しましょう。毎日晴れた空を過ごす私、を実現しましょう。人はだれでもそうする権利があります。そして、それはできます。


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