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【ショート】ステージに立つ

ひとたびそこに足を踏み入れれば、かすかな拍手が迎え入れる。

フロアの床が人の間から見える。


がらがらのライブハウスで、緊張の一瞬を迎えていた。
誰も私のことなんて待っちゃいない、そう思ってもスポットは無機質に容赦なく私を照らし、私はフロアを見下ろしている。冷静な気持ちとは裏腹に鼓動が速くなる。


本番は数分、この場所ではうかがい知ることのできない練習はもっと長い。客足は練習に比例せず、客席の冷たい床はむき出しだ。


小さなスタジオで、所狭しと音を鳴らす。
顔をつきあわせて、ミーティングを重ねる。

数ヶ月に一度、まだらに露出する床を見下ろして、スポットを浴びる。



一見地味に見えるそれらの繰り返しで、自分らを特別と勘違いしてしまう。



スポットライトから降り注ぐ光に心までくらんで、元に戻れなくなっていた。



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