時は流れて

#旅する日本語

#致景 #麗らか

高松空港に降り立った私は、春の匂いと胸の高鳴りを感じでいた。30年ぶりの同窓会に参加するため。山田健が来ることは親友の紀子から聞いていた。高松駅から電車で観音寺に着くまでの間もなんとなくそわそわしていた。讃岐の春は麗らかだ。桜、菜の花、お遍路さん。懐かしさを感じながら桜色に染まるおにぎりみたいな山を眺めた。

桜がちらほら咲き出した中学の卒業式。父の仕事の都合で引越すことに決まっていた私は思いの丈を綴った分厚い手紙を手に、健を呼び止めた。最後に気持ちを伝えたかった。青いインクで心を込めて丁寧に書いた。「何?」「これ!」と押し付け逃げるように離れた。顔が真っ赤になる。「渡しちゃった」

引越しの前日、健が訪ねてきて一緒に琴弾公園に行った。気恥かしくて喋れない。「わぁ」山の上から桜が咲き乱れる中に輝く海と寛永通宝の砂絵が見えた。絵葉書のような致景。私は、心のアルバムに思い出として閉じ込めた。

同窓会の会場、「あぁ、久しぶり。変わらないね。」健に声をかけた。