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歌舞伎役者もお忍びで来店「ハニー雷蔵」

「ハニー雷蔵」といえば、琴平町では知らない人はいない新町商店街にある食堂だ。2005年に開業してから20年近くになり、町内外の多くの人から愛されてきた、お酒も楽しむことができるお店である。

店名もさることながら店構えが独特で、一度目にしたら記憶に残る、その名も「ハニー雷蔵」。

往年の歌舞伎役者、市川雷蔵をハニーと呼ぶのだろうか?

店主に聞いてみた。

ハニーの由来は、働き蜂から来ているのだそう。

甘い蜜を集めるために、せっせと働く蜜蜂たち。
そんな蜂たちに自分を重ねて、大好きな市川雷蔵様の名前をつけた。

店内のポスターと往年の歌謡曲に独特の雰囲気がある店内

「ハニー雷蔵」の店主一家には、まさに働き蜂のように働いてきた歴史がある。

とんでもない働き蜂っぷり

店主は、1948年にまんのう町で生まれた。両親は琴平町で洋服店を営んでいたが、1968年に「喫茶ハニー」に商売替えをし、同年、まんのう町で新聞店も開業。
店主は、若い頃から家業の新聞配達の手伝いをし、成人してからはスナックを始めたが、その後も新聞配達は続けてきた。

深夜1時から新聞折り込みの準備をし配達に出かけ、配達が朝方に終わり、数時間休み、その後は飲食の仕込みをする、そして夜までスナックの営業を続け、また新聞の仕事をする。

そんなハードな生活を約50年も続けてきたのだ。

それは、単なる苦労話ではない。
「ハニー」なのだ。

蜜蜂のようにせっせと働いた結果「ハニー雷蔵」という巣を作り、美味しい蜜が集まった。
蜜は、金銭的な裕福さのことだけではなく、店に通う顧客や友達の数々、一緒に働く家族を得られたことだという。

苦労の先に見えたものは?

数時間の睡眠時間で、何十年も働き続けてきたマスターに尋ねた。
「苦労の先にしかわからないことはあるのか?」

苦労は買ってでもしろという諺が、いつも頭の隅にあったので、それを確かめたかったからだ。

マスターの答えはノー。

苦労は、選ぶのではなくやってくるもの。そこに誠実に対処するだけだ。選んだり、逃げたり、嘆いたりする暇さえなく、その渦に飲み込まれ、気が付けば必死になって泳いでいる。
そして、それが終わるまでひたすらに頑張るのみ。

その間に出会った人や出来事にも影響を受けることもあるが、基本的には自分の周囲で起きていることであり、自分がどうするかは自分次第なのだ。

マスターが人生を通じて、実感したことは、何をするかではなく誰と一緒にするか。

「喫茶ハニー」の店内

価値観の合う人と協力する

ハニー雷蔵の向かいには、喫茶ハニーがあり、朝はモーニングを提供する。
お姉さんとマスターがハニーで朝の営業を行い、奥さんはその間、雷蔵の仕込みに4時間かける。

お姉さんとマスターは、喫茶の営業が終わったら雷蔵へ。

3人の見事な連携プレイが続いて、ここまできた。誰一人として欠けてもこのバランスは崩れてしまい、営業が続けられない。

そして、誰か一人でもこのペースで仕事ができなければ、続けてこられなかった。

結婚前は、マスターは一人で頑張っていたそうだ。

1人で頑張るよりも、2人の方がよい、2人で頑張るよりも3人の方がよい。
それは2倍3倍ではなく4倍にも5倍にもなるのだ。

そんな仲間と出会えたら、それは本当にありがたいこと。
お互いの存在に感謝をして、大切に扱っていくべきだ。

マスターとお姉さん、奥さん3人の連携でずっと頑張ってきた。
そのねぎらいに、毎週の休みに温泉とマッサージに3人で出かけているそうだ。

いつも3人一緒に。

お互いのことを慈しみあう姿が目に浮かび、胸が熱くなった。

美味しいものを一日でも長く提供し続けたい

「ハニー雷蔵」のランチセット

モーニングセットは500円(トーストにゆで卵、サラダにコーヒー/紅茶)
ランチの日替わり定食は、800円(小鉢が3つ付いてご飯も山もり、おかずも美味しい!)

値上がりラッシュが続く中で、この価格を維持するのは大変なことだろう。

けれど、儲けは二の次だ。
ここまで通ってくださった顧客に引き続き美味しいものを提供し続けたい。高松や丸亀からもお客様がいらっしゃるという。

そんな信頼に応え続けるためにも、できる限りこれまで通りの価格を維持していきたいとのこと。

過去を振り返って、いま思うのは、人生において人が一番大切だということ。
火事に遭ったり、信じていた人に騙されたり、価値観が違って苦しい経験をし、その大切さがわかったのだそう。一緒に頑張る人がいて、友人に囲まれている幸せは何事にも代えがたい。

だからこそ、どんなことがあっても、自分と自分をよく知る人のために、信頼を裏切らないように働き続けているのが、雷蔵のマスターご夫婦とお姉さん。

3年前から、ゆっくり寝る時間ができて、今はぐっすり9時間睡眠だそう。

一般的に年齢が上がると眠りが浅くなる傾向にあるが、マスターは今その長い睡眠を楽しんでいる。

長期にわたりがんばってこられたという達成感と、責任を果たせたという深い安堵感が、安らかで深い催眠を誘うのかもしれない。

人生に満足し安らかな気持ちになるには、いま自分はどうするのか。

自分にとっての大切なものを考え、未来をちょっと想像してみるとき、これからも
ハニー雷蔵のマスターの顔が浮かんでくるだろう。

ハニー雷蔵の詳細情報

https://loco.yahoo.co.jp/place/g-pAHq09V-Jr6/


文/写真:松原


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