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今までとは違う自分へ誘なう着付け | レンタルきものと着付け 紫(ゆかり)さん 


「お顔を拝見しただけで、すぐにその方に似合う柄と帯、和装小物が頭に浮かびます」

にこやかにそう語るのは、レンタルきものと着付け「YUKARI-紫(ゆかり)-」を手掛けられている紫(ゆかり)さん。

その優しい笑顔をたたえている一方で「どんな人でも必ず似合う柄をみつける」と揺るぎない自信をみせる。そこには、何か特別なノウハウがあるわけではない。そのお見立て……コーディネート力は、着物を身に着ける方に最高のひと時を体験してもらいたいという思いと、小さな時から「着物」という日本の伝統衣装を愛し続け、培った造詣の深さとの掛け合わせから生まれてきていることがよくわかる。




物心がついた頃から着物に夢中

紫さんは、物心がついた頃から普段の生活の中で着物に触れる環境にあった。

「母が、とても着物好きだったんですね。私が生まれる前まで美容師であって、着物の着付けなどもよくしていたみたいです。そのせいでしょうか、小さい時から着物をよく着せてもらっていました。お正月になると、母も私も必ず着物を着ていました。おそらく他の家庭よりも着物に触れる機会は多かったと思います」


子どもの頃から心が惹かれた「着物」。
大きくなってもその熱量は一切変わらない。


そうした環境もあってか、どれだけ古い記憶をたどってもすでに着物が好きだったという紫さん。中学生のころには、着付けも一人でできるようになり着物を着て出かけるようになったというから驚きだ。

子どもの頃にどれだけ好きなものでも、大きくなるにつれて、周りとの関わりや影響などを受けて変化することも少なくない。しかし、紫さんの着物に対する愛情と熱量は、大人になっても決して色褪せることはなかった。むしろ、大きくなるにつれてその熱量は上がっていく。学校を卒業すると、迷うことなく京都にある着物を専門とする企業に就職した。

その後、独立し、今は個人で「レンタルきものと着付け」という事業を手掛けている。



「正直言って、普段のお洋服にはときめきません。ときめくものは着物だけです」と言い切る紫さんは、普段でもちょっとした外出には必ず着物を身に着ける。

「着物を身につけているときの自分が本当の自分です」と笑いながらも、凛とした声色がしなやかに響く。

とはいえ、着付けとなると大変ではないか、とつい思ってしまう。普段から着物を身に着ける習慣もなく、光景も目にしたこともない。だから、かなり限定的で偏ったイメージかもしれないが、「着物=着るのが大変」という感覚のほうがどうしても強い。そのようなこちらの思いを尻目に、「慣れれば、15分もあれば1人でも着ることができますよ」とあっさりと語る。紫さんの手にかかれば、着物も普段着となるようだ。

ただ、他の人に着付けるときは、あえて時間をかけるという。丁寧に着付けることはもちろん、お客様とのコミュニケーションを大切にしたい、と思うからだ。


「本当の着物の良さを知ってもらいたいから」と心を込めて丁寧に着付ける紫さん。


「せっかくの機会ですから、楽しいひと時を過ごしていただきたいですよね。だから、コミュニケーションをとることで、少しでもお客様の気持ちがほぐれるきっかけになれば、と思っています」

これから訪れる時間を大切に過ごしてもらいたい、という紫さんの心からの気配りを感じる。


伝統衣装を少しでも気軽に

そんな、紫さんが提供するサービスの真骨頂は、出張対応として基本的にはどの地でも着物のレンタルと着付けを提供できるところだ。

「たとえば、ご旅行などに来て、その訪れた土地で着物を着たい、とご依頼をいただきましたら、お客様が宿泊されているホテルにお伺いして着付けをします」

この依頼を受けたときに、紫さんは、お客様の体の特徴や顔写真などの情報を事前にいただく。そして、その人にあった柄の着物、帯、和装小物をいくつか選び、その候補をスーツケースに入れてクライアントさんが宿泊するホテルを訪れ、そこで着付けをする。

だから、依頼する側は、何の準備も要らない。


着物を手軽に感じてもらえることを常に考えている。


ここで、一つ疑問が湧く。

着付けが終わった着物はどうするのか? という問題だ。ただでさえ、着物というのは取り扱いに気を使いそうなイメージがある。

「そこはあまり気にせず、専用ケースに入れて送り返してもらったらいいです」

そのような対応で本当にいいのか? と思わず声を上げてしまいそうになる。

「よほど無茶な取り扱いをしなければ、そのような対応でも充分いけるものなのです」

着物はとても繊細なもの。水に触れただけもシミになると聞いたこともあったが、お話を聞いてみて過ぎた思い込みであったことに気がつく。プロの方に聞いてみないとわからないところだ。

「今後は保険をかけるなどをして、さらに安心してご利用いただけるようなしくみも考えています」

少しでもお客様の心的負担を取り除けるようにしていきたい、と紫さんは語る。



この思いには、ひとえに多くの人に気兼ねなく着物を身につける体験をしてほしいという気持ちがうかがえる。この体験がきっかけとなって着物を好きになり、頻繁に着てもらえるようになれたら「それこそ、もう最高!」とワクワクした表情を浮かべる。


最高な時間の体験を

誰しも、普段着でも新しい洋服を身につけただけで、ウキウキしたり、気持ちが引き締まったりする経験があるのではないだろうか。

いつもと違う自分。

自分がまるで新しくなったような気分。

それこそワクワクして、新しい衣装を来て街中を闊歩したくなる。

どうしてそのような気持ちになるのか。

誰しもがこれまでの日常から変化を感じたい、新しい自分と出会いたい、と願っているからではないだろうか。



普段着を新調しただけで、その気持ちが心の奥底から湧きおこるのであれば、それこそ「着物」を身にまとった時のウキウキ感、ワクワク感は果たしてどこまで膨らむだろう。

紫さんのお話を聞きながら、この想像しただけで思わず頬がゆるんでしまう。

逆にいえば、心の奥底ではその体験を望んでいるということだ。

そんな気持ちに、紫さんはさらに拍車をかける。

私が提供する着物は、基本的にシルク100%です

そう、ここに、もう一つ紫さんの徹底したこだわりがある。

これは、単に自分が本物を提供するというこだわりではない。お客様が着物を身に着けている間は最高級の時間を過ごしてもらいたい、という願いからくるものだ。

生地の香り、肌触り、袖に手を通した時の軽さ、着心地……。

体全体で感じる「心地よさ」の体験は、普段の喧騒を忘れさせ、これから迎えようとする時間を間違いなく豊かにさせてくれるだろう。

紫さんが用意する着物は、基本的にシルク100%素材。


着物に対する揺るぎない愛情と尊敬がある。だから、その着物のイメージを損なうようないい加減なことは絶対にできない。着物を身につけた方にどのようにして最高級の時間を過ごしていただくかということが、紫さんが求める美学だと感じる。

お客様の顔を目にした瞬間に、すべてのコーディネートが思い浮かぶ、という紫さん特有である第六感の技は、その思いがあるからこそだと納得する。


そして、新しい自分との出会いへ

もう一度想像してみよう。

いま、自他共に認める、ばっちりとコーディネートされた着物を身につけて歩いている。

街中にある建物のウィンドウに映る自分の姿は、いつもの自分とはまったく違う。

誰かに見られようと、そうでなかろうと、正々堂々と自然と姿勢を凛としたくなる気持ち。

つい、自分で自分を自慢したくなる衝動が湧きおこるかもしれない。

考えれば、それほど素敵な瞬間はないだろう。

だって、自慢したくなるということは、自分で自分を認めているということだからだ。

普段では気がつかない「まんざらではない」自分がそこにいる。

誰しもが、そんな自分と出会いたいと思っているのではないだろうか。

紫さんが手がける「きもの」は、そんな「まんざらではない」自分との出会いを体験させてくれる。


Another History 〜YUKARI -紫(ゆかり)- の由来〜

紫色は、日本古来より「高貴な色」として使われてきている。

日本で最古の位階制度といわれている聖徳太子が制定した「冠位十二階」では最高位の色が「紫」だ。

さらに平安時代に入ると、紫色は高貴の象徴だけでなく「めでたき(素晴らしい)色」としても好まれた。このほかにも、紫根染めでは他のものへもほんのりと色移りして染めてしまうことから、紫色は「ゆかりの色」とも呼ばれ、人とのつながりを象徴する色ともいわれている。

「紫(ゆかり)」

着物という日本の伝統衣裳と、その着物を通して触れ合う人同士の「ご縁」。

着物の袖に手を通すことで、今までとは違う自分に出会う「縁」。

それこそ、先祖から受け継がれながらも忘れていた、日本人としての精神性(大和魂)とも出会うかもしれない。

着物を着ると、波動が上がり、感性が研ぎ澄まされるとおっしゃる方も多くいらっしゃいます。きっと『ほんとうのわたし』になれるのだと思います。ぜひそれを多くの方に体験していただきたいです」

「最高」の着付けのおもてなしを通して、様々な「ご縁」に出会う「めでたき時」を過ごしていただく。

紫さんの溢れんばかりの想いのすべてが、この一言に込められている。


取材・執筆:白銀肇(しろかねはじめ)


出張着付 YUKARI -紫(ゆかり)-  HP


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