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崖っぷちから、業界価値向上へのチャレンジへ  | 株式会社アイカラー 玉田拓也さん

「わかりにくい業界だとは思うので、いかに人のお役に立つかということを常に考えて行動していますね」

遺品整理・生前整理を中心事業とする株式会社アイカラー代表 玉田拓也(たまだたくや)さんは、そう語る。現在、事業はご本人と弟さんのほか1名の従業員3名で運営している。

人の幸せを願い、より良い社会の実現を願いながら、実直に事業に取り組んでまいります

株式会社アイカラー代表 玉田拓也さん

ホームページに掲げられているこの理念にある「実直」という言葉。玉田さんのお話から、「まさにそういうことか」と如実に伝わってくる。

事業の中心である遺品整理・生前整理の依頼は、人からの紹介が大半だという。

このことだけでも株式会社アイカラーの仕事ぶりが、いかに信頼、信用されているのかがわかる。

兵庫県伊丹市を活動拠点として、活動範囲を広げつつあるという玉田さん。2023年から新しい取り組みも始めた。

「遺品整理もさることながら、生前整理ついてはセミナー開催するなどして積極的に啓蒙活動をも始めています」


生前整理の大切さを説明する玉田さん

そう語る一方で、「とはいっても、人前で話すことってホンマは無茶苦茶苦手なんですけどね」と苦笑いする。

それでも、やっていきたい、やるべきだ、と明言し、苦手でもあえてその活動に力を入れようとしている。

遺品整理、生前整理。

言葉の印象からネガティブなイメージに捉えられやすい。

「でも、本当はネガティブなことではなく、ものを少なくしてくことで、ご本人もご家族も本当に救われていくんです。まずそのことを多くの方に理解してもらいたい。それに重ねて、この業界のイメージも変えていきたい」

数多くの現場を経験して行き着いた玉田さんの「想い」だ。

そして、その想いを実現するために、ある行動をしている。

それは、人前で話す機会があれば積極的に応じる、ことだ。

「実は、人前で話すことが昔から何よりも一番苦手なんですよ。本当に口ベタで……。だからといって、苦手なことから逃げていたら事業も成長しないので、人前で話すような仕事でも意識して取り組んでいます」

と少し照れ笑う。

自分にとって一番に苦手なこと。

それを、あえて経験することで自身の成長の糧としようとする玉田さんのその姿に、業界を変えていこうとする強い意気込みを感じる。



衰退していく事業の中で

株式会社アイカラーは、もともと商業印刷の製版会社だった。

「母方の祖父が創立した会社で、もうすぐ50年になります」

玉田さんは、その3代目にあたる。

「もともと会社は引き継ぐつもりはありませんでした。大学卒業後は、水産会社に就職して、そこでカニを売りさばいていました」

水産会社での営業活動は楽しかった。

「卸業者さんや、スーパーのバイヤーさんらとのお付き合いなど、楽しんでやっていましたし、何よりも、営業として目標を立て、それをどうやったら達成できるのか行動していくことが面白かったですね」


水産会社時代は、一人でカニを3億円ほど売り上げたこともあった。


「目標の売上・利益に対する予算管理を考えることが好きでした。売上が足りないと新規営業かけたり、といったやりくりにもやりがいを感じていました」

担当しているカニの販売で、年間3億円を売り上げたこともあった。

ただ、楽しさを感じていながらも、当時の収入面や将来のことを考えたとき、ずっと続けていく仕事ではないかもしれない、という思いが頭の片隅に感じていた。

「そんなときに、親から『家の会社に戻れ』とは言われたんです」

今後も同じ水産会社で働くかどうか迷っていたとはいえ、これまで深く家業に携わった経験もないことから戸惑いはあった。

「悩みましたけど、水産会社にいるよりかはまだ自由に色々なことができるかも、と思って親の会社に移りました。印刷だけではなく、自分のやってみたい事業を考えて立ち上げることはできますからね」

そして、実際に新しい事業を、否が応でも立ち上げていかなくてはならない状況に追い込まれていく。なぜなら、印刷関連業界の規模が小さくなっていったからだ。

紙媒体を中心とした印刷事業はインターネットという媒体へ、印刷技術は高精度なプリンターへとそれぞれ取って代わられていく。業界は著しく変わり、印刷用製版自体の需要がどんどん減っていった。

「このままでは、会社そのものが存続できないことが目に見えていました」

転職早々から、玉田さんは会社を維持させていくための新規事業を立ち上げる仕事を担っていく。しかし、面白い案も数々浮かんだ、と思っても突き詰めていくと実現性に欠けることが多かったりと、身に結びつくものなかなか見つからない。

「アイデアが浮かんで提案しても、周りからあれこれ言われると、どうも動きが鈍ってしまって……。こう見えても、色々と指摘されるとシュンとしてしまうんです」と苦笑いする。

それでも、新規事業をなんとか立ち上げようと奮闘はするものの、厳しい現実は容赦なく迫ってくる。根幹である印刷製版事業は、音を立て崩れていくかの勢いで追い込まれていく。

「仕事もいよいよなくなり、ついに来るとこまで来たという感じでした」

そんな状況の中で、玉田さんは3代目として会社を引き継いでいくことになる。

玉田さんの3代目のとしてのキャリアは、まさに波乱含みの状況からのスタートだった。


人がやりたがらないことをやる、と決めた

事業が縮小していく中での、3代目としての引き継ぎ。

「こうなるタイミングの前に、子どもも生まれて、家も車も買って……というタイミングでもあったので、これはもうなんとかせなホンマにやばい状況でした」

仕事がない、と嘆いていても仕事は来ない。

なり振り構ってはいられない。

印刷業界に深い造詣があるわけでもない。その業界で経験浅い自分が新しい事業が立ち上げられるわけがない。だったら、今までの業界とは全く違うフィールドで事業を立ち上げよう!

玉田さんは、これまでの枠組みで物事を考えることをやめ、まったくのゼロからスタートを決意した。

ただ、気がかりなのは父親への思い。

「『とにかく会社の名前は残すようにするから、オレの好きにやらせくれて』って父親を説得しました」

会社の名を残し存続させることを約束することで父親は納得した。

ただ、ここからが問題だ。

時間がない。早く事業を立ち上げないと、家族が路頭に迷ってしまう。

何かしらの特技を持って専門的な事業を立ち上げるにしても、スキルも時間もない。

「とにかく、ニーズがあって、人がやりたがらないことをやっていこうと、腹を括りました」

人がやりたがらないからこそ、それを仕事にしよう!


こうした試行錯誤を経て行き着いたのが、現在の遺品整理、生前整理の事業だ。

「ただ、これをやり始めるといったら、やはりネガティブなイメージがあるせいか、周りからも親からもなんやかんやとは言われました。でも、もうそんな次元じゃない、と思って突き進みましたね」

「とにかく家族を守らないといけない。思いはもうそこだけですよ」という玉田さんの言葉の響きには迷いは一切感じられなかった。そして、その後に続く言葉も印象的だった。

「今は、遺品整理の事業を選んで本当によかった、と思っています。やればやるほど、意欲が湧くというか自信がついていく、というかそんな感じなんです」

その原動力は「感謝」にある、と玉田さんは力強く語る。

「遺品整理の仕事を終えたあと、どのご家族からも、『ここでまでしてくれて本当にありがとう』って皆さんに言葉をもらうんですね。それがもうやりがいです」

お客様からの”ありがとう”が、すべての原動力に。


印刷製版の仕事をしているときは、取引先の多くが企業だった。良品を納入して当たり前、不良が混在していたら徹底的に叱られるという、いわばB to B取引の世界。そこには、取引先の向こうにいるであろう最終顧客から直接深い感謝の言葉を耳にする機会に恵まれることもない。

「目の前のお客様に喜んでもらえている、ということがこれほどまでにやりがいを感じるのか! とホンマに思いました」

感謝の言葉が、事業に対する「想い」へと深まり、さらに心がこもるサービスの原動力となる。そこからまた、新たな感謝が生まれていく。

こうした感謝のスパイラルが、玉田さんの支えとなり、今後の業界に対する想いを生み出していったのだろうと想像に難くない。


業界の雰囲気を必ず変えてみせる!

遺品整理事業を始めよう!

「そう決めたはいいが、まったく未知の業界です。何から手をつけたらいいかすらわからない。ですので、まず修行しようと決めて遺品整理を手がけている会社に飛び込みました」

同じ市内で遺品整理をしている会社を探し、修行させてもらうよう直接交渉で頼み込みに行った。

この行動だけでも当時の玉田さんの覚悟が伺える。

そして、このときのご縁が、玉田さんの今後に大きな影響を与えていく。

「修行として受けれ入れていただいた会社の社長の理念が本当に素晴らしてくて。そこで修行できたのは、本当に恵まれていると思っています」

遺品整理という事業のイロハだけではなく、いかにその事業でお客様に信頼を得て喜んでいただくか。

このことを徹底して修行させてもらったという。

「遺品整理という業界は、他の人から見たらわかりにくいと思います。何度も経験するものでもないですし、それに遺品整理を専門としている事業者もものすごく多いんです」

遺品整理業界は、特に必要とする資格がない。

「だから、業界への参入ハードルが低く、それだけに必ずしも優良な事業者ばかりではない、という残念な現実がこの業界にはあります」

自らがいる業界にはびこる悪しき習慣をなんとかしたいと考えている玉田さん。さらに、玉田さんが師匠と仰ぐ、修行先の社長さんが業界のイメージを変えるために、「心結(しんゆう)」という一般社団法人を運営している。

もちろん、玉田さんも会員だ。


「同じような志を持った全国の遺品整理事業者が、会員となっています。接客マナーという基本中の基本から、会員が勉強しながらいかにお客様に喜んでもらえるサービスを提供するか研鑽しています」

誤解も受けやすい業界だからこそ、最後まで手を抜かず信頼されてもらうサービスを徹底しようとする意気込みを感じる。いつもお客さまに感謝され、依頼の大半が紹介が多いということも頷ける。

「売上も利益ももちろん重要だけど、お客様の信頼・信用なくしては本末転倒でしかない」

キッパリと語る玉田さん。

「この業界は、相場も分かりにくく、価格で比較されることが多い。だから、仕事の依頼をいただいたときには、お客様に価格の根拠をきっちり納得いくまでご説明し、さらに契約書を交わすようにしています」

作業毎に発生する費用のみとなっているので、不明瞭な基本料金という項目はない


自分たちの業務内容をすべてクリアにし、お客様に安心していただくためだ。

「価格で折り合いがつかない場合、それは純粋にしょうがないなと思っています。相手(競合先)の価格などを聞くこともありますけど、『どうやったらそんな価格でできるの?』といった内容もあります。でも、そんなときは注意が必要でしょうね」

整理する範囲、内容をしっかりと明確にしないと、後から追加料金がかかるケースも多いという。安いところにお願いしたつもりが、結果として玉田さんが提示した価格のほうがはるかに安く済んだ、というケースもよくあるという。

「業界のこうしたところを、やはり変えていかないといけないと思っています」

そう語る玉田さんの姿に、自分たちだけ良ければそれでいい、などいった雰囲気は一切感じられない。とにかくお客様に納得して喜んでもらえるか、その思いだけだ。


「人がやりたがらない」から、「リスペクト」へ

遺品整理事業の修業をし始めて、1年半ほどして玉田さんは独立した。

「最初は、しっかりと3年ほど、その社長の下で修行するつもりだったのですが、1年半で独立のお墨付きをいただきました」

お客様の立場で考え、そして行動すること。

独立してもこのポリシーは変わらない。

「実際に遺品整理の作業をする時は、よほどの理由がない限りはお客様に立ち会っていただくようにしています。何が出てくるか本当にわかりませんので。その都度に要不要をはっきりさせながら進めていきます」

直接現場を立ち会っていただくのは、お客様ためでもあり自分たちのためだともいう。

「お年を召された方の整理は、現金はもとより、貴金属など高額な品物が思いもよらないところに仕舞い込まれていることって結構多いんです」

まったく思いもよらなかったところから、貴重な品物が出てくる。
だから、現場では常にお客様と密接に連携して作業をする。

押入れの奥から出てきたアルミホイルにくるまれた塊を開けてみたら札束だったり、小さく折り畳まれた1万円が入ったお菓子箱が50箱も出てきたり、ということが過去に実際にあったという。

「きっと仕舞い込んで忘れてしまって……、という感じなのでしょう。そういうものを見つけたら、すぐにお客様に報告です。お客様に立ち会っていただくのは、その家にとって大事な貴重品や品物、その場ですぐ確認してもらうためなんです」

玉田さんは続ける。

「もしお客様の目がなければ、見つけた瞬間にこちらが掠め取ることだってできてしまうんです」

「全てお任せください」といって作業現場を見せずにそこにあるものを確認もせず一切合切持っていってしまう事業者もいる。すべてを任せ、お客様の手間をかけません、ということでいかにも負担をかけないようにほのめかしているが、とんでもない。

「それがこの業界の信頼に関わってくるところなんです。整理するものは、すべてお客様のものです。だから、貴重品は必ずその場ですぐ報告、お客様と一緒に要不要を確認する。これは絶対に欠かしてはなりません」

そういう心ない事業者が本当に多いのが、この業界の質を問われるところです、とはっきりと明言する。

遺品整理というのは、故人の要らないものを一切合切引き取ることではない。ご家族とともに要不要をしっかりと仕分けて、要らないと判断されたものを引き上げていくもの

貴重品から大切なものまで不要だからといって勝手に持ち出す業者もいる。
そんな業者は信用してはいけないと玉田さんは警鐘を鳴らす。


「この事業を立ち上げたとき、知人から『儲かってしょうがないんじゃない?』と言われたこともありましたがとんでもないです。そういう事業者がいたら、怪しいと思った方がいいでしょう。なんでも持ち帰ってしまうって、突き詰めるとそれって窃盗罪みたいなものです」

だからこそ、事業者の節度を問うべきものと玉田さんは警鐘を鳴らし、どんなことでも”実直に”対応する。

そこは絶対に崩さない。

玉田さんの語る一言一句の響きにも、その信念がはっきりとうかがえる。

「遺品整理というのは、ただ不要なものを引き上げるということだけではありません。きちんとした『仕分け』であり、私たちはそれを代行しているだけなんです」

遺品整理事業の姿勢、あり方についてその信条を熱く語る。

さらに、遺品整理には社会的な貢献性もある、と玉田さんは言葉を続ける。

現場で整理された品物は、大きく3つに仕分けられる。

①お客様が必要と判断し残すもの
②お客様は不要と判断されたが、利用価値がありそうなもの
③廃棄対象となるもの

このうち②に該当するものを玉田さんたちが引き上げる。品物によっては買取り対応もする。新たにまた必要としている人の元へと送り出すためだ。引き上げた品物は、自社の倉庫で特性や状態に応じて、フィリピンなどの海外市場、国内の道具市場、骨董市場、自社販売、といったような市場に向けてさらに仕分けし流通させていく。

その人にとって不要となったものも、必要としている人たちがいます。こうした循環を生み出し、社会やSDGsに貢献できるということに、遺品整理という仕事の“誇り”を感じています

依頼をいただく案件の物量はとにかく多い。だからこそ玉田さんのような片付けのプロに依頼していることでもあるのだが、そのための準備や労力は半端ない。人数を揃え、物量に応じた搬送車両を手配し、引き取った後の仮置倉庫を準備など、「とてもガッツリ儲かる仕事ではないです」と苦笑いする玉田さん。それでも、これまでにないやりがいとこの仕事に熱意を感じているのは、困っている人たちの役に立ちたい、社会的にも貢献していきたい、という素直な「想い」があるからだ。

”人がやりたがらない”という理由で始めた事業は、リスペクトと誇りへと変わっている。


人生の精神を高める整理整頓術

「生前整理のことをもっと広げていきたい」

そう語る玉田さん。

「ただし、それは生前整理の事業を広げるということが目的ではありません。あくまでも、生きているうちに身の回りのものをしっかりと整理していきましょうね、ということを伝えていきたいんです」

2023年に入ってから、遺品整理事業とともに生前整理に関するセミナーをするなど、その活動領域を広げている。

これまでに物にあふれた現場をたくさんみてきた。

そこには、ただ盲目的に「ものがあるからだ豊かだ」「幸せだ」と思い込んでしまっている人の姿も少なくないという。

二世帯住宅をリフォームするにあたって、同居している親御さんの身辺整理を手伝ってほしい、という仕事の依頼を受けたときだ。その家を訪問し、片付けるべき部屋に行くと、とにかく物だらけ。プロから見ても、一瞬戸惑ってしまうような状況といったことがあった。

「とにかく一緒になって、“要るか要らないか”を確認し始めたら、最初はどの答えも『要る』なんですよね。使いふるされてどう考えても使わないであろうタオルなんかでも、『これも要りませんよね?』と尋ねたら『いやいや、まだ使えるから』とおっしゃったりするんです」

物が不足していた時代を生きていたから、物を大切にするという考えもあるだろう。でも、だからといって何でもかんでも捨てないで残していたら、自分にとって本当に大切なものが何なのかわからなくなってしまう、と玉田さんは語る。

「物を大切にする」のと「何でもかんでも置いておく」は大違い。
要不要をよく吟味してこそ、本当に大切なものが見えてくる。


そんな玉田さんの言葉から、物への「執着」が人の心を狭めてしまっていくようなイメージが浮かんでくる。物があるから豊かであり、幸せだという思い込み。物がないと不安だ、不幸だ。そんな思い込みに知らず知らずのうちに振り回されていないだろうか。それは、心が物に支配されているようなことではないか、と考えさせられ、ちょっとゾッとしてしまう。

「物がないと不安なように思うかもしれませんが、むしろ生活自体は安全に暮らしやすくなります」

さらに玉田さんは、整理された環境がいかに効率的なことなのかについても言及する。

「例えばですけど、物がなければ背の高いタンスも必要ありませんし、その上に置いてある物が落ちてくるといった危険もなくなります。それこそ、背の低い家具にして自分が取りやすいような収納に変えたらいいんです。高齢になればなるほど、動ける範囲が限られてきますから、非常に暮らしやすくなるはずです」

これは高齢者に限ったことではない。「暮らしやすくなる」ということは、身の危険だけではなく、精神、行動、経済、あらゆることに影響してくことが想像できる。

自分にとって不必要なものが、どれだけ心のあり方と行動を制限してしまうのか、それが見えてくる。

そして、もうひとつ大切なことを忘れてはなりません、と玉田さんは語る。

遺品整理で、本当に大変な思いをするのは、”残されたご家族”です

「物が多すぎて、何から手をつけたらいいのかわからない、自ら整理するにしてもそんな時間もない。ほとんどのご家族がそういった悩みに直面します。結果としては、当社のような事業者に依頼することになるのですが、それはそれで費用もかかってしまいます」

「残された家族のためにも生前整理を!」
その言葉を広げる活動に、今後は力を入れていく玉田さん


置かれた状況によって焦りのあまりに依頼した整理事業者が、心ないやり方をしていたら、それこそ目も当てられない事態にもなりかねない。

自分が人生を終えて以後、その後始末で我が子や孫たちがそんな苦労してしまう、と考えるとなんとも歯切れが悪い。引き際はきれいさっぱりとしておきたい、と純粋に思う。

玉田さんの遺品整理、生前整理へ馳せる想い、言葉は、私たちにそんなことを気付かせてくれる。

「生前整理と言っていますけど、純粋に日常での”整理整頓”なんですよ」

でも、それが「なぜ」必要なのか、その部分については見落としがちだ。時には凄惨ともいえるも現場に直面し、さまざまな人間模様も見てきた。だから、その大切さをしっかりと伝えていく啓蒙活動も行っていくと玉田さんは語る。

「本当に人前でしゃべるのが苦手で、すぐに頭の中がまっ白になってしまのですが……」

そう苦笑いしながらも、それでも自分の乗り越えるべき壁だとして、苦手克服に向けて果敢にチャレンジしている。

なぜなら、多くの人に整理整頓がいかに大切かという真意を伝えていきたい「想い」があるからだ。

「普段から身の回りを整理しておけば、本人も家族にもきっと気持ちのいい人生を送ることができると思っています」

いたってシンプルだけど、玉田さんが手がける活動とメッセージに含まれる意味はとても深い。

人としての生きる、そのあり方を尊ばんとする「想い」を感じずにはいられない。


Another Story  〜20年後の夢〜

玉田さんから事前にいただいたプロフィールシートの一節に、こんなことが書いてあった。

「趣味:カレー作り(50歳で娘と一緒にカレー屋さんをオープンさせるつもりです)」

なぜ、カレー屋さん?

そして、なぜ娘さんと?

いま手がけている事業の内容ともまったく共通項目がないだけに、そんな疑問が頭にすぐ湧きおこった。

「実は、娘が発達障害なんです。だから、将来娘が働ける場所を作りたいな、一緒に働けたら素敵だろうなと思っているんです」

玉田さんは2023年現在で34歳。50歳になった時、娘さんはちょうど20歳。娘さんが大きくなったときに、ちゃんと働ける場所を作っておきたい。それが、50歳で立ち上げるカレー屋さんだという。

「でも、カレーに何か特別なこだわりがあるとか、そんなんではないんです」

え? では、なんでカレーを?

「そもそも、僕って趣味がなさすぎるんですよ。しいていうなら、強くないけどお酒を飲むぐらいなもんなんです。それだけではまずいなと思ってスパイシーカレーを作り始めました」

「カレーって、なんかいろんなスパイスや材料を組み合わせて、オリジナルのものが作れそうじゃないですか。だから、料理苦手な僕でも楽しく作れそうだな、と思って。それに、今のうちからいろんなカレーを仕込み、試行錯誤して作っていたら、20年後にはしっかりと玉田オリジナル・カレーも出来上がるかな、と思っています」

娘さんとともに”育む”カレー屋さんを目指して。


娘さんのことを思い、一緒に何ができるのかを考え、20年後の未来に向けてじっくりと準備しつつある玉田さん。

「これまでのことを振り返ってみると、何かを”ゼロから育て上げていく”ということが、自分では好きなような気がします」

昆虫を卵から孵化させて育てたり、観賞用のエビを飼育したり、古代魚の飼育やアクアリウムのメンテナンス、という趣味もあった。

病気になって飼育を諦めざるをえなかったり、仕事が忙しくなって世話できなくなって手放してしまったが、新しいものを育む、成長に携わる、ということがいずれも共通している。

水産会社で営業成績を上げるために、あれこれ考えて動きまわることが好きだったことも重なってくる。

「カレー屋さんもそうなんですが、それまでに就労支援のしくみも作りたいんです。きっと遺品整理の事業とも相性はいいと思っているんです」

将来のカレー屋さんにも、今の事業にも、玉田さんの中では「社会貢献への想い」にもつながっている。

事業衰退の崖っぷちから、どんなことでもやると覚悟を決め、まったくの未経験から始めた遺品整理事業。

そして、そこで見つけたやりがいを原動力に、玉田流のサービスと社会貢献のあり方で業界の価値をも上げようとしている。

まさに、ゼロから育て上げている真っ最中だ。

玉田さんの手によって、業界の中で新しい変化が起こる予兆が感じられる。

取材・執筆ーしろかねはじめ(白銀肇/ことはじめライター)


株式会社アイカラー会社情報









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