私は操り人形じゃない 其1

T子の何十年か振りに,中学生時代の友人と連絡を取った時の出来事である。地元の中学校という事もあって,高校へ進んだ後も時折,二人は会いお喋りで時間を過ごした。社会人になると叙々に会う機会は少なくなり,あり日から「ﾊﾟｯﾀﾘ」疎遠になった。そして数年前,中学校の同窓会の案内を切っ掛けで,連絡を取ったのである。初めは友人も懐かしがり話に花は咲き,時間を忘れて二人のお喋りは弾んだ。何度目かの連絡を取った日,友人から,「そこに住んでいたの？週末に,旦那の車で頻繁に買い物へ出掛けている場所。」「此所まで来るのわざわざ？」友人の地元でも周りに幾つもお店ある。「そう。何時も同じお店だと飽きちゃうからさ！」食料品を買うのに,その様な事は有るのか？と私は首を捻った。「では,買い物に来るついでに会おうよ！前の日にでも連絡をくれたら空けておくからね！」「「…買い物を済ませて帰宅するわけじゃないから…」「幾つもお店を廻るの？」「そうじゃない！食料品だけしか買わない。その後は,ﾄﾞﾗｲﾌﾞするから…。そして,そのまま帰宅」「旦那さんとの買い物じゃなくて,出て来たら？様々なお店有るので,お店巡りも出来るから…」「歩くと,疲れるから嫌だ。普段もあまり歩かない。少しの買い物は自転車。用足しも自転車。後は家に居るから。」「でも,久し振りでしょっ？！会わなくなってから,約30年。…ね！出て来たら？それとも,中間地点で会いますか？」「…電車に乗るんでしょっ！？電車なんて滅多に乗らないから」そろそろT子は「ﾑﾗﾑﾗ」胸は騒ぎ始めた。この友人は,相手に合わせるという事を知らないわけ？何なの？自己を主張ばかりじゃない？今までどの様に過ごして来たのだろう？まるで何処かの「お姫様」「どちらのお姫様？と,訊ねてみたいと思う。その後,友人はこんな事も話し始めた。「旦那は大抵,土曜日と日曜日の,どちらかは仕事。仕事の日は,私は家でひとり暇している。その時だったら良い。」「土曜日と日曜日のどちら仕事あるか,いつ頃に分かるの？前日に言われても,私も都合というものあるのよね～！…」「そんなこと言っても…」「旦那さんの仕事のある土曜日や日曜日はひとりで家にいるんでしょっ？自転車で出掛けたりしないの？ｻｲｸﾘﾝｸﾞ気持ち良いよね！」「そうお！特に思わない。それにひとり暮らしの娘,時々家に帰るから,土曜日や日曜日に」「そう。では母娘でお出掛け出来るね！」「帰ると言っても大抵土曜日の夜。だから日曜日に二人で出掛ける！」「旦那さんも日曜日にお仕事ない時は？」「3人で買い物やって,お昼を外で食べて帰るかな！」「もし,前もって私と会う約束している日に,娘さん家に帰ると言って来たらどうするの？」「断る！」「娘さんを？断わらなくても良いじゃない！夜に家に帰えって来るんでしょっ？」「えっ？！娘の帰って来る事は断らない。」…と言う事は。T子は自分との約束を断られる事に気付いた。平然と答える友人は何者だ？と,思わずにはいられないT子だ。人の約束よりも娘の帰宅を優先するとは,信じられないことに,遭遇しているのだと実感するT子だ。これでは会う機会なんて,ないに等しいじゃないの。家族外の人とはお付き合いはないの？まるで山々に囲まれた,僻地暮らしみたい。自給自足で暮らしなの？その暮らしでも近隣の方々とお付き合いはあるだろう。「では一応,旦那さんの土曜日や日曜日の仕事の予定分かったら連絡頂戴ね！」その後,友人からは音沙汰無し。2ヶ月を過ぎた頃,T子は連絡を入れた。友人から連絡の無い事を咎めるのではなくて,ただなんとなく連絡を入れた。そして,T子の耳へ飛び込んで来た言葉は,「なんで,こんな時間に連絡するの！午前中にくれたら良かったのに！」T子はわけ分からず,狼狽えていると更に友人は叫んで,「今日は旦那仕事で朝の7時に出掛けた。娘は昨夜,家に帰る予定だったけど,ｷｬﾝｾﾙで帰らない。今日は1人で1日中,暇で暇でやる事ないから,朝から今までず～っとﾋﾞﾃﾞｵ観ていた。片っ端から。でも,ﾋﾞﾃﾞｵも飽きた！午前中なんで連絡くれないの！連絡くれたら,出掛けて暇でなかった！この時間じゃね～！！」T子は連絡を入れたのは,夕方の5時である。『朝から今までﾋﾞﾃﾞｵ三昧。そりゃ～飽きるでしょっ(笑),他に何かやる事は無いの？家の中を見れば何かしら有るはず。』T子は友人からこの話を聞かされ,『私は友人にとって,ただ都合の良い人じゃないの！自分の都合で相手を振り回す。それも平然として。態度であれ言葉であっても,振り回す事に変わりはない。相手の都合なんて,少しも考えずおかまえ無しだ。その後,T子はその友人へ連絡を入れていない。『相手の都合も顧みず,自分の主張ばかり出す方は,私自身の信念とは真逆だ。ご遠慮致します。』T子は呟いた。『友人は可哀想に！あれでは,心を割って話せる人は,いないのではないか？家族外て…。私は恵まれている！馬鹿な事を言い合える友人…大切に。』心に誓ったT子の周りには,知り合う人達,後から後から…。心の澄んだ素敵な方々ばかり。,