見出し画像

3行小説まとめ⑬

第601回

急に寒くなったのは、季節のせい? それとも、あなたがいないせい?
いっそ雪でも降って、すべて真っ白に埋め尽くしてしまえばいいのに。
あなたと過ごした時間も、あなたのぬくもりも、ぜんぶ、ぜんぶ。


第602回

心がざわりと騒ぐ。けれど、見ないふり。聞かないふり。
認めたくない。そう思うのに、心はいっそうざわざわと騒ぐ。
「素直になればいいのに」と、彼女を見上げてボクは思うんだ。


第603回

あなたがいなくなって、 もうどれくらいの時間が過ぎただろう。
野球好きで、お酒好きで、ついでに下手なダジャレが大好きで。
散らかし放題の部屋の真ん中で笑っていたあなたを、今も思い出します。


第604回

父は、責任感と常識をどこかに置き忘れたロクデナシだった。
母は、呆れるほど自分本位で笑えるほど身勝手なヒトデナシだ。
そんな親を持った私は、作り笑顔が得意な薄情者になった。


第605回

ずっと心の片隅に引っかかっていた。あの日のことが。
どうしてなのか、今もわからない。だから、忘れられずにいる。
見えない小さな棘は、これからもずっと私の心を傷つけ続ける。


第606回

変わらないものなんてない、と思っていた。街の様子も、人の心も。
移ろっていくもの、離れていくもの、欠けていくもの、ばかりだと。
けれど彼女は気づいたのだ。寄り添う存在がずっと隣にいたことを。


第607回

どうにもならないことがあるって、僕は知らずにいた。
努力をすれば、心を尽くせば、 願い続ければ道は拓ける
って思っていたんだ。キミを失ってしまうその日までは。


第608回

美味しいものを食べたとき、幸せそうな顔をするキミが好き。
楽しいことがあったとき、僕の顔を見上げて笑うキミが好き。
どんなときも下を向かない、強い瞳をしたキミが、大好きだったんだ。


第609回

キミがもし泣くのなら、ボクは笑うよ。キミを励ますために。
悲しいも、苦しいも、寂しいも、全部ぜんぶ、ボクにぶつければいい。
キミが笑顔になるのなら、ボクはそれだけで、ただそれだけでうれしいんだ。


第610回

いつか見た空の色を思い出している。
少しずつインクが広がるように暮れていく空の色を。
あの時の空は思い出せるのに、キミの声はもう思い出せないんだ。


第611回

雪がふわりふわりと舞い降りる夜、街に静寂が訪れました。
クルマの音も、誰かの話し声も、何もかもが世界から消えて、聞こえるのは
ふたりの鼓動だけ。トクン。トクン。それは、恋が始まる音でした。 


第612回

ふぅーっと吐いた白い息の冷たさに心がきゅっとなる。
大きなぬくもりに包まれていた頃は、こんな冷たさを知らなかった。
私のすべては凍りつき、来ることのない春を待ち続ける。


第613回

珈琲よりも紅茶が好き。ミルクもレモンも入れないストレート。
あとは、生クリームたっぷりのショートケーキがあれば完璧かな。
と思っている彼は知らない。彼女が本当に好きなものを。


第614回

大きく息を吸い込んで、ゆっくりと吐き出して。
慌てないで、焦らないでと、心を落ち着かせる。
一向に収まる気配のないドキドキに、彼女は困ったように笑った。


第615回

結局、言えなかった。最後まで、素直になれなかった。
過ぎた時間を振り返り、彼女はひとつ、ため息をついた。
諦めちゃうの? 努力もしないで? ほら、まだ遅くはないよ。


第616回

大きな欠伸をひとつつけば、クスクスと楽しげな笑い声。
キミは「おはよう」と言いながら、キッチンで朝食の準備中だ。
あたり前で奇跡のような風景に、僕は幸せを噛みしめる。


第617回

真夜中にふと考える。もし、あの日に戻れたら、戻れたら、と。
そうしたら、間違えたりしない。きっと今度は。
けれど、時間は巻き戻らない。どんなに悔やんでも。


第618回

朝が来れば、 すべてが変わる。不安も虚しさも、すべて失くなって
前を向いて、希望を持って、歩いていける。きっと。
目覚めれば、心は暗闇に囚われたまま。今日もまた朝は来ない。 


第619回

のんびりとお休み、ができないあなたはこんな時でも忙しい。
いつも私は後回しで、「ごめん」と笑ってごまかすのもいつものこと。
でも、いつまでもおとなしく待っているなんて、思わないでね。


第620回

細かな雨は夜になっても降り止まず、街を濡らし続けた。
湿気を帯びた空気は少し重たくて、私たちは黙り込む。
もう嘘はつけない。けれど、切り出す勇気は、まだなかった。


第621回

「さよならは新しい出逢いのはじまり」なんてあなたは言った。
私は昔の流行歌を思い出して「再び逢うまでの遠い約束」と答えた。
明日から別々の日々を過ごしていく私たちは、何も言わず別れていった。


第622回

「寒いね」と言うと、そっと手を握って温めてくれた人。
「冷たいな」と少し笑って、繋いだままの手をポケットに入れたっけ。
あの日は、雪が降っていたね。ちょうど今日みたいに雪が…。


第623回

「ねぇ、どこが好き?」とキミがワクワクしながら僕を見つめる。
「ねぇ、いつから好きだった?」とキミがいたずらっぽく笑う。
「私はね、出逢ったときから、ぜ~んぶ好きだよ」 …って、そんなのズルい。


第624回

「風邪でも引いた?」と、キミがおでこをコツンとつける。
一瞬で真っ赤に沸騰したボクを見て、キミはなんだかうれしそうだ。
キミのせいで熱が出てきたみたいだ。ちゃんと責任、取ってくれるよね?


第625回

懐かしい顔を見て、ふと時間が巻き戻っていく気がした。
昔と変わらない笑顔で「お前は俺の初カノだったしな」と言う人。
あれ? そうだっけ? ごめん。私の初カレは違う人だよ。


第626回

こちらを見もせず、スマホをポチポチしながら生返事を繰り返す。
そんなに興味ないのかな、私の話。それとも、私に興味ない?
彼女は小さくため息をつき、さて、いつ席を立とうかと考えている。


第627回

夜ふかしをすると、いつもあなたに怒られた。身体に良くないからって。
そして、私の方を見ないようにしながらボソリと告げた。
「眠るとき、キミが隣にいないと寂しいからね」って言ったのに…。


第628回

その人は声にならない声で言った。「可哀想な人ね」と。
私を憐れむような、蔑むような瞳で見下ろしながら。
けれど、私はもう何も感じない。心はとっくに壊れていた。


第629回

どこから話せばいいんだろう。何から話せばいいんだろう。
嫌いになったわけじゃない。でも、もう一緒には歩けない。
見ている世界が違うから。 目指す未来が違ってしまったから。 


第630回

穏やかな微笑みを浮かべる彼女。けれど、心の中は嵐だった。
「あなたの隣にいる人は誰?」「優しい眼差しを向けるのはなぜ?」
荒れ狂う心を押し隠し、彼女は微笑む。微笑むしかできなかった。


第631回

ずっと夢の中にいた。とてもとても幸せな世界の中に。
私は誰からも愛されていた。誰よりも愛され大切にされていた。
大好きな膝の上で丸くなる。この夢が醒めないことを願いながら目を閉じた。


第632回

そんな困った顔をしないで。泣いてなんていないから。
別れを嘆いているんじゃないの。明日を憂いてもいないわ。
ただ…ちょっと強い風のいたずらで涙がこぼれただけ。それだけだから。


第633回

あんなに大切だったものが、今は色褪せて、輝きを失くしてしまった。
かけがえのないものだったはずなのに、今は道端の石ころほどの価値もない。
人の心は残酷だね。こんなにも簡単に変わってしまうなんて。


第634回

小さな一歩すら前に進めないのは、たぶん、キミが眩しすぎるせい。
目線が合わないよう、気づかれないよう、こっそり見惚れる。
今日も可愛い…なんて言えもしない言葉ばかりが、ボクの心に降り積もる。


第635回

「心の内は悟らせない」彼女は心の扉に鍵をかけ、想いを封じ込めた。
「あなたには笑っていてほしいもの」それは、彼の笑顔を守るため。
「気持ち、届くといいね」彼女は彼の背中を押す。届かない想いを隠したままで。


第636回

スッとキミが表情を失くす。けれど、それはほんの一瞬で
すぐに笑顔になって「さようなら」とやさしく彼に告げる。
そんなキミに彼はホッとして、彼女とともに去っていった。


第637回

知らずにいれば幸せだった? もしかしたらそうかもしれない。
けれど、どうしても知らないふりはできなかった。
気づいてしまえば簡単なこと。あなたに私は必要なかったんだね。


第638回

雪は静かに降り積もって、街を真っ白に染めていく。
心に巣食う真っ黒なこの想いも、塗りつぶしてくれればいいのに。
彼女は視線の先にいるふたりを、瞬きもせず見つめていた。


第639回

「見えないものを信じるかい?」と、いつかあの人が言った。
あの時、私はなんと答えたんだろう。今はもう思い出せない。
カタチのない不確かなものを信じていた私は、いなくなってしまった。


第640回

ほしいものは目の前にある。けれど、手を伸ばせない。
小さい頃からおねだりは苦手だ。ほしいと言ったことがない。
臆病な彼女の背中を押してあげる? そんなに親切じゃないよ、神様は。


第641回

ずっと迷っている。行こうか、戻ろうか、それとも留まろうか。
本当は答えなんて出ているのに。いつまでもぐずぐずするのは悪い癖。
ここにはいられない。戻ることもできない。ほら、答えは出ている。


第642回

ふぅ…とまたひとつ、ため息がこぼれて地面に落ちた。
足元には落ちたため息が積もって小さな塊を作っている。
どよんとくすんだその中に、あなたと彼女の姿が浮かんで消えた。


第643回

顔を合わせるたびに不機嫌で、 口を開けばケンカばかり。
まるで水と油みたいなふたり。なのにどうしてだろう…。
あなたから目が離せない。キミが気になって仕方ない。


第644回

退屈だ…。どうしようもなく、ただひたすらに、退屈だ。
あんなに楽しかった昨日と違うのは、 キミがいないこと。
ただそれだけなのに、どうしてこんなにつまらないんだろう?


第645回

大きな瞳でジロリと睨まれ、焦れば焦るほど追い詰められていく。
何も言えば、どう振る舞えば、この難局を抜け出せるのだろう。
ご機嫌ナナメのお姫様は不機嫌そうに鳴いて、ボクの手を引っ掻いた。


第646回

沈黙が気まずくてふと見上げれば、降るような星空だった。
「あぁ、キレイだなぁ」の言葉とともに、雫がポロリとこぼれ落ちる。
静まり返った夜の真ん中で、ふたりは動けないままでいる。


第647回

寂しい、と心を閉ざしていたら、春がきたことにも気づかない。
悲しい、とうつむいてばかりいたら、 隣で寄り添う人にも気づけない。
もうすぐ、やさしい季節がやってくる。キミのもとにもきっと。


第648回

誰も心の中は覗けない。だから、知らないふりをする。
笑顔でいれば、気づかれない。あなたにも、彼女にも。
だから、そばにいてもいいでしょ? 友だちってポジションで。


第649回

うーん、と大きく背伸びをしてみたら、不思議そうな顔をされた。
「重たいコートを脱いだんだよ」って言ってみたけどポカーンとした顔。
わかるはずないか、と頭を撫でれば、うれしそうにしっぽを振った。


第650回

部屋に帰れば、今も「おかえり」と聞こえる気がした。
もうずっとひとりなのに。ここには誰もいないのに。
「ただいま」と言ってみる。キミの声が聞きたいなぁ。

この記事が参加している募集

この記事が気に入ったらサポートをしてみませんか?