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「じゃあね」

キミは黙り込んだまま動かない。
その肩はかすかに震えていた。
けれど、気づかないふりをして、
僕はなるべく軽い口調で言う。

「男なんて、そんなもんじゃない?」

可愛い女の子に誘われたら断れないよね。
恋とか愛とか、面倒なハナシは置いといて
楽しければそれでいい、と思わない?

無邪気に言い放ったことばは、
たぶん、キミの心を傷つけながら通り過ぎたのだろう。
痛そうに眉を寄せたキミに、僕は笑ってみせた。

時が止まったように、じっと動かないキミへ
少し呆れたような視線を向け、

「じゃあね」
と、僕はことさらさり気なく言う。
次の約束はしない。
あたり前のように、何でもないことのように
軽やかに幕引きをして、くるりと踵を返した。

街の喧騒の中に置き去りにした
キミの視線を背中に感じながら
僕は足早に去っていく。
心の声が溢れ出してしまう前に。
隠し通したこの想いがこぼれ落ちてしまう前に。

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