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3行小説まとめ⑥

第251回

青く澄んだ空を見上げながら、鈍色に曇った心にため息をつく。
止まない雨も、明けない夜もないはずなのに、曇り空は晴れてくれない。
いっそ、どしゃ降りになればいい。びしょ濡れになって溶けてしまうまで。


第252回

雨が降ると思い出す。最後のときに儚く笑ったキミのことを。
今はどこで、どんな人の隣で笑っているのだろう。
幸せでいてほしい、と素直に願えない僕はまだ、キミが恋しんだ。

第253回

代わり映えのしない毎日は退屈で、今日もあくびを噛み殺す。
ぼんやりと過ぎていく今日と昨日は、何が違うのだろう。
せめて隣にあなたがいれば、退屈も幸せに感じられるのに。


第254回

なるべくにぎやかな場所を選んで、ひとり、カフェラテを飲む。
この世界に取り残されたわけじゃないと、騒がしさが教えてくれる。
窓の外は細かな雨。濡れそぼる小さな花が寒そうに揺れていた。


第255回

眠れない夜は、あなたとの想い出を数えてみる。
春のこと。夏のこと。秋も冬も一緒にいたこと。
何度も何度も繰り返し、今夜もまた、思い出す。


第256回

ふと見上げる街路樹が、毎日少しずつ色づいてゆくのを感じる。
真っ赤に染まる頃には、この心もあなたに染まってしまうだろうか。
気持ちをごまかしきれないほど、鮮やかに、あなた一色に。


第257回

陽が落ちて、少し肌寒さを感じる夕暮れ。ふいに右手が温もりに包まれる。
つながれた手に動揺する私をよそに、あなたはまるで素知らぬそぶり。
きゅっと握り返してみれば、ほんのりとあなたの頬が紅く色づいた。


第258回

あたたかい腕の中にいれば、傷つくことはない。
不安を感じることも、悪意に晒されることもない。
けれど私は知っている。ここが、幸せという名の檻の中だと。


第259回

「今はすごく幸せなんだって」。風の噂にホッとする。
けれど、少しがっかりしている自分もいて、苦い笑いがこみ上げる。
キミの幸せを願えないのは、心まで凍らせるような冷たい風のせいだ、きっと。


第260回

素直になればよかった。こんなふうに失くしてしまうくらいなら。
友だちという境界線を引いたのは私の方。はみ出さなかったのはお互いさま。
目をそらし続けた自分の気持ちに、もう、行き場はないんだ。


第261回

市川 もし過去に戻れる魔法があったら、キミはどうする?
大野 そう問いかけたのが、天使だったのか、悪魔なのか、わからない。
大野 私にわかるのは、戻りたい過去なんてないってことだけ。


第232回

大丈夫だよ。きっと時が経てば、懐かしく思い出せるから。
傷口がやがてカサブタになるように、シクシクと痛む心も癒えるから。
気がつけば、傷跡すらなくなっているはず。だから、大丈夫だよ。


第263回

「楽しいね」と笑い合ったのは、いつのことだったか。
記憶の中にあるあなたの笑顔はこんなにも鮮やかなのに、
私を取り巻く風景は、今も色を忘れたモノクロのまま。


第264回

昔々、とても仲のよいふたりがいました。どこに行くのも何をするのも一緒。
これからもずっとそうだと、改めて考えるまでもないふたりでした。
それでも、別れのときはやってきます。思いがけず、一方的に。


第265回

黄色、オレンジ、赤。グラデーションに色づく山道をドライブ。
右に左にくねる道は、先の見えない毎日にも似て、
やがて拓けるのは、目を見張る絶景か、奈落に落ちる崖か。


第266回

困った顔で振り向くあなた。私はうつむいたまま動かない。
だって、一歩足を踏み出せば、それだけサヨナラが近くなる。
もう少しだけわがままを許して。これで最後にするから。


第267回

好きか嫌いか。もし聞かれたら「好き」って答える。飛び切りの笑顔で。
けれど、彼が私にそれを問うことはない。だって別の人が隣りにいる。
そのポジションに私が収まる日は来ない。知ってるよ、そんなこと。


第268回

「好きな人が、いるの」と、キミはそっとボクに打ち明けた。
「ふぅ~ん」なんて気のない返事を返す。なるべく興味なさげに聞こえるように。
でも、あんまりキミがうれしそうだから、ボクも笑うしかなかったよ。


第269回

それは、ずっとずっと昔の話。誰もが忘れてしまうほど昔のこと。
世界は春だった。花が咲き、鳥が歌い、穏やかな風が吹く永遠の春。
けれど今、世界は白い季節の中。すべてが枯れ、やがてゆるりと死に絶えてゆく。


第270回

そんなドラマティックなことが起こるはずがない。
誰もがそう思っている。「運命の人」なんて絵空事だと。
まさか出逢ってしまうなんて…こんなところで、こんなふうに。


第271回

「忘れられないってさ、結局、忘れたくないってことでしょ?」
前に進む潔さも、後戻りする勇気もない私に、彼はそう言った。
立ち止まったままの私の背中を押さない彼は、黙ってそばにいてくれた。


第242回

泣いてしまえばいいのに。誰かが手を差し伸べてくれるから。
笑ってみればいいのに。誰かがキミを好きになるから。
でも、その誰かがあなたじゃないなら、涙も笑顔もいらない。


第273回

どうしても言えないたった2文字が、ずっと胸に渦巻いている。
ほんの少しの勇気が、怖さを乗り越える覚悟が、持てないままでいる。
キミは知ってるかな? こんなに苦しい胸の内。知るわけないか。


第274回

いつか、キミが流した涙を思い出していた。
あの頃の僕は余裕がなくて、自分のこともキミのことも後回しだった。
何に追われていたんだろう。大切なものが何か、気づきもしないで。


第275回

雲ひとつない青空。心まで晴れ晴れとする…はずもない昼下がり。
悔やんでばかり。嘆いてばかり。後ろを振り向いてはため息ばかり。
私はいつまでこうやって、不幸を気取って閉じこもるのだろう。


第276回

ささやかな約束。「後で連絡する」とか、「今度一緒に行こう」とか。
後回しにされがちな、あるいは忘れがちな、どうでもいい約束。
でもね、それをすごく心待ちにしている人もいるんだよ。わかってる?


第277回

そんなふうに笑わないで。困らせたいわけじゃないんだ。
ただ、すれ違ってしまった心が、もう重ならない未来が、苦しくて。
どうして気づかなかったんだろう。こんなに近くにいたのに。


第278回

どこにあるのかは誰も知らない、けれど、いや、だから誰もが憧れる王国。夢か幻かお伽噺か。現実にあるはずない?そんなコト関係ないさ。
たどり着くための資格はあるかい?そんなモノなくても探し出すけど。


第279回

秋の夜は長い。静かに密やかに、人知れず更けてゆく。
夜の闇に紛れて、あなたは何をしているの? 誰の隣にいるの?
明けない黒に包まれながら、私は待っている。たったひとつの太陽を。


第280回

「いいことあった?」と聞かれて「別に」と応える。
けれど、必死のポーカーフェイスもどうやらバレバレらしい。
あなたがいるからうれしくて…なんて、絶対に言わないからね!


第281回

気持ちよく澄んだ秋晴れ。自然に口元がゆるんでしまう。
見上げた空にふと問いかける。「元気でいますか?」
この清々しい青色が、きっとあなたと繋がっていると信じて。


第282回

「ため息をつくと幸せが逃げるよ」と言って笑ったキミ。
どんな時も絶やさなかったその笑顔が消えてしまったのはなぜ?
ボクのせい? それとも、別の誰かのせいかのかな?


第283回

ドキドキと高鳴り、存在を主張する心臓にちょっとたじろぐ。
まさか。でも。そんなはずは。いや、もしかして…?
あまりに久しぶりにやってきたときめきに、彼女はオロオロするばかり。


第284回

物音ひとつしない、蒼く深い闇の中。
膝を抱えた小さな女の子がポツン、とひとり。
抱きしめたいけど届かない。せめて、泣かないで、と祈った。


第285回

好きな人ができた。そう言ってあなたはニッコリと笑った。
そんな報告いらないよ。知りたくないし、興味もないから。
そっけなく返したことばの裏側なんて、あなたに教えるつもりはない。


第286回

笑っていてほしい、とキミが言うから、どんなときでも笑うよ。
この笑顔がキミを幸せにするなら、心とはうらはらだって笑ってみせる。
でも、もうキミに届かない笑顔に、何の意味があるんだろう。


第287回

暗い空にぽっかりと浮かぶ、まあるい満月を見上げる。
「14番目の月が一番好き」と歌ったのはユーミンだったっけ。
私は十六夜の月が好き。一夜ずつ、少しずつ、夜空にとけていくから。


第288回

私に味方なんていないと、ずっと思っていた。
周りはみんな敵で、誰もが私を批判している、疎んでいると。
けれど、自分のすぐ隣に、誰よりも心強い味方がいたんだ。


第289回

キミのせいじゃない。だから、悲しい顔をしないで。
わかっているよ。本当はずっと一緒にいたかったってこと。
大丈夫。またきっと逢えるから。その時まで、しばしのお別れだ。


第290回

ドキドキと胸がなる。あなたに逢うと、いつもそうだ。
悟られないように、と必死に冷静を装うこちらの都合も事情も忖度せず、
曇りのない笑顔を向けてくる。ズルいよ、本当に。ズルいよ。


第291回

牛乳をたっぷり入れたカフェオレが好き。チョコレートはミルク一択。
そんなキミがブラック珈琲を飲み、チョコに見向きもしなくなった。
うれしそうにボクを見つめていた瞳に、ボクを映さなくなったのはいつから?


第292回

「カッコ悪い? そんなのわかってるさ」と男はつぶやく。
努力などしたことはない、必死になどなったこともない。
そんな男が、ただひとつの心を欲してもがく。何と滑稽で美しいことか。


第293回

大切なものも必要なものも、トランクひとつに収まった。
その少なさに、寂しいような虚しいような気持ちがこみ上げる。
想い出は置いていく。明日からあなたのいない世界で生きるために。


第294回

「ありえないよ」と言う裏側で、「もしかしたら」と期待してた。
けれど、あなたは容赦なく私に現実を突きつける。
残酷だね。何も知らず、別の誰かへの想いを語るなんて。


第295回

「素直じゃない」って言われなくても、その自覚は嫌というほどある。
だけど「すきです」なんて、言えると思う? もう遅いのに。
あなたの隣に可愛い笑顔があることに気づいた、今さら。


第296回

きっともう、あなたは覚えていないでしょう。楽しかった日々のこと。
悲しくて苦しかった最後のときだけが、その心に残っているなら、
ふたりで笑い合った風景は、私の記憶の中にしか存在しないんだね。


第297回

夢を見ていた。ふわふわと漂うように、幸せな夢を、見ていた。
キミが笑っていて、それだけでボクはとてもうれしくて。
他には何もいらないって、夢の中のボクは知っていたんだ。


第298回

花が咲いていた。見たこともない、美しい花が一面に。
その中で、無邪気な僕たちが笑い合う。楽しそうにうれしそうに。
遠い遠い記憶の中の、夢なのか、現なのかもわからない風景。


第299回

言いたかったのはこんなことばじゃない。
見たかったのは、そんな顔じゃない…のに。
後悔ばかりが押し寄せるけれど、彼女は泣くこともできなかった。


第300回

長かった。けれど、楽しかった。キミと歩いてきた道のりは。
まっすぐではなかったけれど、でこぼこも多かったけれど。
いつも隣にキミがいた。これからもずっと一緒に、と願った。

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