3行小説まとめ⑨
第401回
キミがいつか見た風景を、今、僕が見ている。
ここでキミは何を思っていたのだろう。もう聞くことはできない。
笑っていればいいな。僕の知らない誰かの隣でもいいから。
第402回
色もない、音もない、透明な静寂の中にひとり、佇んでいる。
空もない、大地もない。ただ空っぽの空間が広がっているだけ。
あなたのいない世界を、私はずっと彷徨っている。
第403回
昔むかし、と言うほどでもない昔、彼はひとりぼっちだった。
誰にも見向きもされず、たくさんの人の中でずっと孤独に生きていた。
差し伸べられた小さな手に戸惑う。ねぇ、一緒にいてくれるの?
第404回
もう嫌だ、と思った。だって、これ以上は無理だ。
ごまかしきれない。取り繕えない。自分の気持を裏切れない。
見ないふりをしてきた心に素直になれば、きっと笑顔が待っているよ。
第405回
些細なケンカ。くだらないきっかけで意地を張ってプイッと横を向いた。
いつものこと。もう少ししたら紅茶を入れて、彼が「ごめん」と言う…
はずなのに。 私を振り返りもせず、彼は部屋を出ていった。
第406回
ずっとそばにいた。だから、これからもずっといてくれると思っていた。
永遠なんてないって、 変わらないものなんてないって知っていたのに。
見晴らしのよくなった右側を、暖かな風が通り過ぎていった。
第407回
わずかな風に、ゆらゆらと庭の花が頼りなげに揺れる。
「まるで私みたい」とつぶやいて、すぐに違うと首を振る。
あなたを信じきれなかった私は、 風に揺れる花よりも弱かった。
第408回
小さな丘に向かって、小さなロボットたちが行進していきます。
手には小さな花束。彼らが目指す丘の上には小さな石があるだけ。
ロボットたちはそこに花を供え、小さな涙をポツン、とこぼすのです。
第409回
サミシイと素直に言えたら、あなたは私の隣にいてくれたのかな。
好きだと言える勇気があったら、キミを失わずにすんだのかな。
いくつものすれ違う心を眺めながら、ハッピーエンドは奇跡なんだと思った。
第410回
子供の頃、わがままを言うのは罪だと思っていた。
おねだりも、好き嫌いも、逆らうこともせず、いい子のふりをした。
それでも、私の望む愛を与えてくれる人はいなかった。
第411回
「恋なんてくだらない」ずっとそう思っていた。
恋に悩む人をバカにして、恋に泣く人に呆れていた。
だから、「最高に格好悪いな」と今の自分を笑うしかない。
第412回
心が動かない。震えることも、痛むことも、ときめくこともない。
あぁ、そうか。ずっと前に死んでしまったのか、私の心は。
空っぽの器でしかないのだから、愛されなくて当然だった。
第413回
もし、この世界が夢で、夢の中が現実だったら…どうする?
そう問いかける声がとても優しくて、思わず顔をあげてみれば、
目の前には、とてもとても美しい悪魔が、笑っていた。
第414回
季節が移ろっていくように、心も色を変え、温度を変える。
冷たく閉ざした冬から春の芽吹きへ。夏に燃え上がり、秋が来て枯れゆく。
そしてまた、雪に覆われて冬ごもり。新たな春の訪れを待つのだろうか。
第415回
悪の限りを尽くした魔女はその罪を暴かれ、処刑された。
「悪夢は終わった」と誰もが思い、浮かれ、平和の訪れを信じた。
けれど、望んだ未来はこない。最初から魔女などいなかったのだから。
第416回
知ってる? 人間の記憶って案外、便利にできてるんだ。
覚えていたくないことは、いつの間にか忘れてしまうんだって。
あなたは嘘つきだね。いつまでも忘れられない人に小さな恨みごと。
第417回
あれは、昔むかしの小さな約束。キミはもう、忘れているだろう。
「きっと」「ずっと」そんなふうに誓いあった幼い日。
想い出の中でキミが笑う。今もキミは笑っているかな。
第418回
刻々と変わっていく空のグラデーションをじっと見ていた。
まだ、間に合うだろうか。もう、遅いのだろうか。
すべてが夜に染まる前に。キミが誰かの元に飛び去ってしまう前に。
第419回
彼女はようやく決断した。ふたりの関係に終止符を打つことを。
恋と呼ぶにはもう冷めすぎていて、惰性と呼ぶには生々しい。
それも今日で終わる。明日からは新しい私で歩き出そう。
第420回
そのホテルは、戻りたい過去へと誘(いざな)ってくれると言う。
本当だろうか。いや、まさか。でも、もしかしたら…。
男はロビーへ足を踏み入れ、そして、 時の狭間に消えていった。
第421回
「お前の話はムダに長い」とよく言われる。まぁ、自覚もある。
でも、まだ言い足りない。キミのいいところ。ボクが好きなところ。
数え上げたらきりがない。だから、まだまだ終わらないよ?
第422回
ずっと、その背中を追いかけてきた。でも、いつも追いつけなくて。
転んだ時に差し出してくれたやさしい手。あのぬくもりが大好きだった。
私じゃない人に微笑むその顔が輝いている。幸せになってね、お兄ちゃん。
第423回
眠れない夜。星を数える代わりにキミのクセを数えてみる。
笑ってごまかす。バレバレの泣き真似をする。イラッとすると爪を噛む。
そして、嘘をつくとき視線をそらす。あのときも、そうだったね。
第424回
夢を見た。あなたが笑っていて、私も笑っていて。
そして、あの子も笑っていた。楽しかった頃の記憶。
今は、私以外、誰もいない。ひとりになったのは誰のせい?
第425回
困ったように曖昧に微笑む。もう何度、その顔を見ただろう。
ねぇ、それは優しさじゃないって気づいて。残酷なことだって。
私からこの手を離せないから、あなたからのサヨナラを待っている。
第426回
上着を1枚脱ぐように、サラリと捨てられれば苦労はない。
次へと移りゆく中で、時折、思い出したように後戻りする季節のような
あなたの視線が私を迷わせる。もう、過ぎゆくことを止められないのに。
第427回
ある日、なっちゃんの小さな手から真っ白なボールが転がり落ちました。
そのままコロコロコロと街を抜け、草原を駆け、山を越えていきます。
真っ青な海へたどり着き、ボールはなっちゃんと一緒じゃないことを寂しく思うのです。
第428回
太陽に向かってまっすぐに咲く向日葵の素直さがうらやましい。
堂々と、相手への好意を隠しもしない様子はあの子に似ている。
向日葵になれない私は、気づかれないよう太陽を見つめている。
第429回
目覚めたらもうお昼をとうに過ぎていて、もちろん、キミはいない。
少しぼんやりした頭を、濃いめのコーヒーでスッキリさせたら、
後は、キミの帰りを待つだけ。たまには、こんな午後もいいよね。
第430回
ゆるやかに時は過ぎて、嵐のような熱も今は鎮まり、
残り火のようにゆらゆらと揺れて、小さくささやかになってゆく。
もう振り回されることもない。ただ穏やかに、キミを想う。
第431回
退屈だなぁ、とあくびをひとつ。隣からクスクスと小さな笑い声。
気を抜きすぎ? でも、格好つける必要なんてないよね。
だって、キミと一緒にいることがもう、僕の日常なんだから。
第432回
私は愛がわからない。愛され方も、愛し方も、知らない。
孤独に生きてきた彼女は、それに疑問を感じたことはなかった。
今、目の前にいる彼が彼女の手を取り、微笑むまでは。
第433回
窓を開けると緑の匂いがする。雨上がりだからか、いつもより濃厚に。
まだ雨の名残が残る葉にそっと触れれば、雫は音もなく滑り落ちる。
もうすべて昔のことなのに、あなたの笑顔は今も鮮やかだ。
第434回
空の青さに思わず目を細めて、ため息をひとつ。
こんなにも美しいのに、清々しいのに、心は土砂降りのまま。
私の雨はやまない。私の夜は明けない。今はまだ。
第435回
「今夜は星がキレイだね」と言いかけて、やめた。
キミの瞳にはもう、星空も、ボクも、映っていないとわかったから。
視線の先を追いかけたら、キミにサヨナラが言えるかな。
第436回
心に蓋をして、鍵をかけて、厳重にしまい込んだ想い。
それでも、溢れ出してしまう。あなたに気づかれたくないのに。
もしかしたら、もう手遅れ? だって、あなたの瞳がそう告げている。
第437回
記憶を消せる薬があるなら、キミのことを忘れてしまいたい。
そんな都合のいい話あるわけないか。漫画じゃあるまいし。
バカバカしいと思いながら、それでも僕は願わずにいられない。
第438回
「髪の毛、キレイな色ですね」と言ったのは、あの子だった。
最近、あなたが目で追うあの子。私の心をチクチクと刺すあの子。
無自覚に笑顔を振りまいて、きっと私の恋を砕いてしまうだろう。
第439回
「夢なんて見ない」とキミは言う。つらい現実にも立ち向かうのだと。
でも、そんなに無理しなくていいんだよ。頑張らなくていいんだよ。
たまには、僕と一緒に休まない? 楽しい夢でも見ながらさ。
第440回
「どこから来たの?」そう聞かれて、小首をかしげる。
「よくわからない。気がついたらここにいたの」
そう言ってみたけれど、通じるわけないか。ボク、猫だもんね。
第441回
人が恋に落ちる瞬間を、初めて見た。いや、今、見ている。
音がしそうなくらい真っ赤に染まった横顔に、心がひしゃげる。
あなたに聞こえているのははじまりの音。私が聞いているのは…。
第442回
またひとつ、季節がゆく。私を置き去りにしたままで。
冷たい風も、薄紅の花びらも、立ちのぼる陽炎も、みんな過ぎ去って
私だけが動けずにいる。サヨナラを告げられたあの日からずっと。
第443回
日曜の朝はゆっくりとふたりで寝坊。目覚ましもお休みだ。
いつもと同じ時間に目覚める僕は、キミの寝顔を見るのが好きだった。
このささやかな幸せが続くようにと祈ったのは、いつのことだったかな。
第444回
雨が降ると想い出す。「紫陽花はキライ」と言ったキミを。
ひと雨ごとに移ろう色に、ふたりの恋を重ねていたキミを。
永遠を望んでいたキミは、いつの間にか紫陽花になっていたね。
第445回
心にもないことを言うあなたを、冷めた目で見つめる。
偽って、誤魔化して、取り繕って。全部、知ってるのに。
あなたが隠したい新しい恋も。あなたを奪った彼女のことも。
第446回
キミが笑っていて。ボクは遠くからそれを眺めていた。
気づかなかったんだ。出口を求めてもがく自分の気持ちに。
知らなかったんだ。こんなに好きだったなんて…キミのことを。
第447回
あなたに伝えたい言葉がある。届けたい想いがある。
とても短い言葉だけれど、込めた想いはとても深くて、
だから、簡単に口にできない。なんて、臆病者の言い訳だね。
第448回
「私はここにいるよ」って言っても、あなたは気づかない。
失くした恋を嘆いて、悔やんで。ひとりぼっちだと寂しくつぶやく。
「ねぇ、私がいるよ。あなたの隣に。いつでも、いつまでも」
第449回
モヤモヤ、イライラ、シクシク。私の胸は最近何だか騒がしい。
だって、私以外の人に向ける笑顔がすごく優しいから。
凹んだり、怒ったり、痛んだり。私の胸が落ち着かないのはあなたのせいだ。
第450回
もどかしい…見ているとつい、背中をドンと押したくなる。
素直になれば。言葉にすれば。にっこり笑えばいいだけなのに。
回り道ばかりでハッピーエンドにたどり着かない、じれったいふたり。
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