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3行小説まとめ⑮

第701回

朝が来て、降り注ぐ陽射しの眩しさに思わず目を細める。
あたり前のように夜は明けるのに。昨日と変わらない今日が来るのに。
どうして僕はひとりなんだろう。どうしてキミはここにいないんだろう。


第702回

薄紅色の花びらが慰めるように、励ますように、私の周りで舞う。
散り際を知るその花のように気高くありたい。そう願った。
うつむいていた顔を上げ、あなたに告げよう。サヨナラを。


第703回

白か黒か。なんて、はっきりと答えが出るはずもない。
向き合えないままの心は、曖昧であやふやで薄曇りのグレーなまま。
信じたい、信じられない。この手を離そうか…でも、離せない。


第704回

嘘が嫌いなキミが好きになった僕は、嘘つきだった。
けれどそれは他愛もなくて、クスッと笑えるもの…だったのに。
最後に僕は嘘がつけなくて、ひとりぼっちになってしまった。


第705回

こんなこと急に言ったら、驚くかな。でも、そんな顔も見てみたい。
ずっと言わなかったことがある。ずっと言えなかったことがある。
でも、勇気を出して前に進むと決めた。キミは笑ってくれるかな。


第706回

心にもないことを言うのは簡単だ。自分の言葉じゃなくていいから。
笑顔を貼り付けて、どこかで聞いたような台詞を演じればいい。
だから僕は今、まっすぐなキミの言葉にどうしたらいいかわからないんだ。


第707回

季節外れの風景は、置いてきぼりの私の心のようで少し苦しい。
あまりにもあっけなく変わっていったあなたの心に追いつけなくて
私はまだ冷たい季節の中で、思い出を抱きしめ震えている。


第708回

朝陽を受けてキラキラと輝く。そんなキミが眩しくて思わず目をそらした。
キミが色褪せたわけじゃない。ただ僕の心が変わってしまっただけ。
身勝手な僕は、キミに告げる言葉をまだ迷っている。


第709回

どうして私はここにいるんだろう。居場所なんてないのに。
どうして幸せなふたりを見ているんだろう。心がこんなに痛いのに。
どうして、いつまでたっても私はあなたが好きなんだろう。


第710回

ねぇ、昔話を聞いてくれる? 私が愛されていた頃の話。
私はとても大切にされていた。毎日が楽しくて、幸せで輝いていた。
打ち捨てられた古い人形の語る話は、誰にも届かない。


第711回

暗い森を抜けると小さな湖がありました。少女はそっと覗き込みます。
太陽を受けてキラキラと光る水面に映るのは少女の姿…ではありません。
枯れ果てた老婆がいるだけ。それこそが、少女の本当の姿なのです。


第712回

なぜか、時間が殊更ゆっくりと流れている気がした。
夜はじんわりと深くなり、朝が来る気配はまだない。
キミとの時間は瞬く間に過ぎるのに。ひとりの時間は長いね。


第713回

何だか疲れたなぁ…と、思わず愚痴めいた言葉がこぼれる。
一緒に漏れたため息が、ますます心を重くしていった。
いつになったら晴れるのかな。せめて花曇りくらいになればいいのに。


第714回

「自分のことが大キライ」とつぶやいた私にあなたが言う。
「ねぇ、僕が大好きなキミのこと、嫌いにならないでほしいな」
あなたのお願いには逆らえない。自分を好きになる努力をしてみるか。


第715回

その言葉に気持ちがこもってないことはすぐに気づいた。
だってあなたの瞳はガラス玉みたいに何も映していなかったから。
いつからかな。私を映さなくなったのは。誰かを映すようになったのは。


第716回

懐かしい人に会った。偶然、駅のホームで。
あなたの隣には美しく微笑む人がいて、その腕に小さな命を抱いていた。
あぁ、あなたは幸せなのね。心の中でつぶやき、そっと目を閉じた。


第717回

声が聞こえた。どこか遠くで、誰かが誰かと笑い合う声。
これは、私の記憶? いや、違う。じゃあ、私の未来? いや、そうじゃない。
私にはもう未来なんてないのだから…。


第718回

雨は降り続く。すべてを洗い流すまで、降り続く。
嫌なことも、苦しいことも、見たくない現実も、楽しかった想い出も。
全部、全部、洗い流してしまうまで。私の雨は降り止まない。


第719回

困らせたいわけじゃないのに、あなたの言葉に素直に頷けない。
だってそれは、あまりにも身勝手で、残酷なものだったから。
幸せになるのはあなただけ。ひとりになるのは私だけ。


第720回

キミのことはすべてわかっていると思っていた。けれど、
それが思い上がりだったことを、今、知ったよ。だって、
そんなに美しく微笑むキミを僕は知らない。いつからキミは…?


第721回

そんなことは望んでいなかった。だって運命に逆らえるはずがない。
諦めてしまえばいい。手に入らないのなら。欲してはいけないなら。
なのに、どうして隣にあなたがいるのだろう。いつか見た夢のように。


第722回

サヨナラなんて言いたくなかった。私の口からは絶対に。
あなたから言ってほしかった。できるだけ冷たく、残酷に。
私がこの想いに終止符を打てるように。あなたを嫌いになれるように。


第723回

どうしたら伝わるかなぁ…この気持ち。彼は迷いの中にいた。
言葉だけじゃきっと足りない。いや、何をしても全然足りない。
いっそこの心を開いて見せられたらいいのに。伝わるといいね。


第724回

あなたの好きなもの。その中に私は入っているのかな。
一番じゃなくていいけれど。最後の最後でもいいけれど。
あなたの好きの中に存在していたい。それが私の願い。


第725回

「幸せってどこにあるのかな?」ため息まじりにキミが言う。
「すぐ目の前にあるよ」なんて言ってみたいけど、無理な話。
僕がキミを幸せにできたらいいのに。笑顔にできたら、いいのになぁ。


第726回

カフェオレを飲みながら、思い出すのは思い出すのはキミのこと。
名前を呼べば、うれしそうに僕を見上げて甘く微笑む。
その笑顔が、今は苦く僕の心にトゲを刺していく。


第727回

いつもより少しゆっくり歩く。キミの歩幅に合わせて。
若い頃はこんな気遣いもできなかった。簡単なことなのに。
キミが隣にいなくなってから気づくなんて、今さらだよね。


第728回

めずらしく早く起きた朝は、すべての窓を開けて太陽の匂いと
澄んだ空気を胸いっぱいに吸い込む。昔、あなたがしていたみたいに。
さあ、今日も1日が始まる。


第729回

夜も更けて、シーンと静まり返った部屋でぼんやりと過ごす。
ひとりにはもう慣れたけど、こんな夜はちょっとだけ人恋しい。
ふと口ずさんだメロディは、あなたが大好きだった懐かしい曲だった。


第730回

人の心はままならない。たぶん、神様にもどうにもできない。
だからこれは、仕方のないこと。嘆いても恨んでも、仕方のないこと。
そう言い聞かせてみるものの、自分の心も、やっぱりままならない。


第731回

まだ眠いんだ。もう少し、夢の中にいさせておくれよ。もう少しだけ。
ここはふわふわと心地よくて、ほわほわと温かくて。このままここにいたい。
眠り続ける王子の目覚めを待つ人たちは、その願いを知ることはない。


第732回

今日も一日が始まる。昨日と同じ一日が、始まる。
代わり映えのしない 退屈で窮屈な毎日に飽き飽きする。
それでも今日を過ごすしかない。だって、ここに明日は来ないから。


第733回

ほろりと酔った帰り道、ふと空を見上げた。
それは意図した行動ではなかったけれど、気がつけば
滲んだ視界の中で、小さな星がやさしく僕を見守っていた。


第734回

「困ったなぁ」と言いながら、あなたは余裕綽々の笑顔。
いつだって子ども扱いで…私にドキドキしてくれる日はくるのかなぁ。
動揺を悟られまいと必死になっている男の本音など、彼女はまだ知らない。


第735回

季節外れの冷たい風が吹く。まるで「想い出して」とでも言うように。
もう振り返らないと決めたから。想い出にするにはまだ早すぎるから。
凛と澄んだ空色を忘れて、私は穏やかな風を待っている。


第736回

久しぶりにひとりで過ごす昼下がり。のんびりしようと思っていたのに
何だか落ち着かない。自由気ままに羽根を伸ばそうと思っていたのに
全然くつろげない。ただ、ソワソワとキミの帰りを待っている。


第737回

空は雲ひとつなく晴れ渡り、太陽がすべてを明るく照らしている。
どこまでも大地は緑豊かで、すべての命が生き生きと輝いている。
そんな世界を僕らは知らない。想像もできない。だって僕らの世界は…。 


第738回

眼の前にいるのはあなた…のはずなのに、どこか違和感を覚える。
やさしく笑う顔も、私を呼ぶ声も、そっと触れる仕草もあなたなのに。
何かが違う。どこかがおかしい。あなたは一体、誰?


第739回

キミの嘘はすぐにわかる。いつもより瞬きが多くなるからね。
だから今、キミの瞳をじっと見つめる。けれど、そこに嘘はなかった。
そうか。本当のことなんだね。キミからのサヨナラは。


第740回

夢を見た。まだ小さな私は、一生懸命にあなたを追いかけている。
どんなに走っても追いつかなくて、どんなに叫んでも振り向いてくれなくて
遠ざかっていく父の背中に覚えた感情を、今も私は忘れられない。


第741回

小さな国の小さなお姫様は、とてもとても愛されていました。
だって彼女はたったひとりのお姫様。かけがえのない存在です。
小さな国を守るため、小さなお姫様はその身を捧げ、暗い湖の底にいます。


第742回

心が見える鏡があったら覗いてみたい。あの日、彼女は言った。
あなたの気持ちが知りたい、と。本当のことが知りたい、と。
真実なんて見えないほうがいい。きっと今より残酷だから。


第743回

久しぶりに深酒をした。足元がふら~りふら~りとしている。
火照った頬を夜風が少し冷ましてくれるけれど、頭はふわふわしたまま。
このまま全部、忘れちゃえればいいのにな。キミのことを全部。


第744回

終わりが来るのを待っている。待っている。静かに、密やかに、待っている。
じわじわと心を侵食するように、ひたひたと終わりの足音が近づいてくる。
いっそ、いきなり断ち切られたのなら、彼女の傷は浅かっただろうか。


第745回

少しずつ、太陽が明るくなって。少しずつ、風が温かくなって。
変わっていくのかな、私の心も。先に変わってしまったあなたを
忘れていくのかな、少しずつ。季節の移ろいよりも、ゆっくりと。


第746回

今頃…あなたはどうしているのかな、とふと気になった。
いつも一緒に笑ってたのに。いろいろなことを話していたのに。
遠くへ行ってしまったあなたを想う。元気でいますか?


第747回

ただぼんやりと1日を過ごす。だって、何も手につかない。
頭の中をぐるぐるぐるぐる、キミの言葉が回っているだけ。
「好きです」って言ったの? 本当に? 妄想じゃなくて?


第748回

小さな箱の中には、小さな夢が入っていました。どんな夢?
とても平凡で、どこにでもあるようなありふれた夢でした。
けれど、僅かな隙間から夢はこぼれ落ち、萎んで消えてしまったのです。


第749回

いいことがあった日は、とっておきの紅茶を入れる。
アップルパイもあれば最高だけど、そこは我慢するしかないね。
後は、キミに報告。一緒に喜んでくれるかな。あの頃みたいに。


第750回

まだ眠い。そんな顔をしたキミに黙ってコーヒーを差し出す。
ひと口飲めば、キミのお腹がぐぅと鳴る。フレンチトーストの匂いにつられて
「おはよう」の代わりにキミのお腹がまたぐぅと鳴った。

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