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3行小説めとめ⑧

第351回

一夜明けて…。いま、僕の手元にある小さな箱を見つめる。
これは、どういう意味? やっぱり、そういう意味? それとも…?
はっきりしない空模様と同じく、僕の心は降ったり、晴れたり、忙しい。


第352回

最初からすべて決まっていた。まるで舞台の脚本のように。
どんなに努力しても、一途に想っても、あなたの唯一にはなれない。
だって、ヒロインはあの子だもの。私じゃないもの。


第353回

髪を切った。心もほんの少しだけさっぱりした気がする。
「この想いも、ハサミでチョキチョキっと断ち切れればいいのにね」
ポツリとつぶやいたひとりごとは、無愛想な舗道に落ちて、消えた。


第354回

心にもない言葉をスラスラとつむぎ出す。
嘘じゃないけど、本当でもない。そんな言葉。
信じられない。でも、信じてみたい。


第355回

真っ黒なインクが染み出すように、じわじわと闇が広がっていく。
いっそ、漆黒に染まりきってしまえば、楽になるのだろうか。
この心が砕け散る前に。この生命を投げ出してしまう前に。


第356回

何があっても信じてる。なんてキレイゴトだ。
その言葉を、その態度を、どう信じればいい?
いっそ粉々に砕いてしまえば、すべて終わるのだろうか。


第357回

「ランチ行かない?」さり気なさを装ってかけた言葉。
キミはちょっと驚いた顔をして、すぐにニッコリ微笑んだ。
これ、期待していい展開? それともキミに翻弄されているだけ?


第358回

「泣けばいいのに」いつかそう言ってくれたのはあなただった。
でもね、私を今泣かせているのは、他でもないあなたなんだよ。
だから、そんなに困った顔をしないで。泣かせてよ、最後くらい…。


第359回

僕の言葉がキミに届かなくなったのは、いつからだったろう。
キミの瞳は僕を映さず、その心は固く固く閉ざされてしまった。
僕が魔法使いだったら、キミにかかった呪いを今すぐ解いてあげられるのに。


第360回

あんなに冷たかった風が、少しずつあたたかくなって
固く閉ざしていた蕾もゆっくりと解けて、咲く準備を始めてる。
けれど私の心は、まだ凍えたまま。頑なに閉じたまま。


第361回

キミがくれたもの。かけがえのない時間とちいさなぬくもり。
空が青くて気持ちいいとか、咲いている花が綺麗だとか感じる幸せ。
そして今日、僕が失ってしまったものだ。


第362回

目を閉じれば、今もあなたを近くに感じる。それがうれしい。
現実を見なくていいし、心穏やかでいられる。笑っていられる。
このままじゃいけないの? ずっと目を閉じたままでいたいのに。


第363回

風が吹いた。そのあたたかさに春が近いことを知る。
あの花が咲いたら、キミに会いに行ってもいいだろうか。
そう問いかける僕に応えてくれる声はない。ただ風が吹いているだけ。


第364回

ザワザワと騒ぐのは、彼女の心の中。いつからかはわからない。
時々、チクチクと痛んだり、ほわほわとあたたかくなったり。
最近、彼女の心は忙しい。それが何故かを、彼女はまだ知らない。


第365回

ふと思い出す。キミが笑ったときのこと。キミが泣いたときのこと。
素直じゃない日も、大人びた横顔も、浮かんでは消えていく。
明日、キミの名字が変わる。「おめでとう」を言わなくちゃね。


第366回

この想いを、口にしたことはない。だから、伝わるはずないんだ。
いつも、心とはうらはらな態度をとってしまう。素直にはなれない。
ジレジレと一向に進まないロマンス。幕が上がるまで、あとどのくらい?


第367回

キミが生まれる前の話をしよう。ここにはたくさんの花が咲いていた。
色とりどりの花は楽しそうに歌い、それに合わせて動物たちがダンスをして。
ここはね、楽園だったんだよ。今はもう、跡形もないけれど。


第368回

忘れたい。あなたのこと、全部。その笑顔も、声も、想い出も、何もかも。
なのに、忘れられない。なにげない言葉も、些細な仕草さえも。
一緒に過ごした時間をまるごと失くしてしまえば、私は幸せになれる?


第369回

スポットライトを浴びるのは、いつも私じゃない誰か。
と、嘆く彼女は脇役にも、エキストラにすらなれない。
だって、舞台に上がる勇気も覚悟もないのだから。


第370回

「次に生まれ変わるなら猫がいいな」とキミは笑う。
「気まぐれなキミにぴったりだね」とボクも笑った。
だからキミは、猫のようにふらりといなくなってしまったの?


第371回

忘れられない光景がある。目に焼き付いて今も離れない。
平凡が幸せだと知った。永遠ではないと知った。
だから、今日を大切に。隣で笑う人の手を握って。


第372回

フラフラとあてもなく街をさまよう。肩がぶつかって少しよろめいた。
けれど、相手はチラリともこちらを見ない。私など存在していないように。
確かにここにいるはずなのに。誰か、私に気づいて。


第373回

雨は止まない。街を濡らして、人を濡らして、降り続く。
冷えていく身体に呼応するように、心が冷たく凍っていく。
雨はまだ止まない。温もりも想い出もすべて流して、なおも降り続く。 


第374回

「ただの友だち」ってきっぱりと線引をされてしまうのが怖くて。
代わりのきく存在だと、わかっていても認めたくなくて。
あなたの隣にいるための足りない何かを、私はずっと探している。


第375回

「想い出なんていらない」とキミは言う。邪魔になるだけだと。
「未来がほしい」とキミが言う。ずっと僕と一緒にいたいのだと。
頷いたあの時の僕に言ってやりたい。「できない約束はするな」ってね。


第376回

一緒にいるのに、ひとりでいるよりずっと寂しい。
だって、あなたは話しかけてもうわの空。目も合わせない。
ねぇ、私を映してよ。あなたのその瞳に。昔のように…。


第377回

どんなに目をそらしても、拒んでも、もう誤魔化せない。
だからさ、そろそろ覚悟を決めたら? 素直になったら?
そうなんだけど…わかってるけど。好きって言うのは何か悔しい。


第378回

季節がゆっくりと、気がつけば移ってゆくように
心も知らぬ間に変わってしまう。それを止めることはできない。
それでも「どうして?」と彼女はつぶやいた。彼に届かない小さな声で。


第379回

「ごめん」って素直に言えばいいのに。意地を張ってばかり。
そのたったひとことが、今の私にはとても難しくて。後悔してばかり。
彼とまっすぐに向き合えない彼女は、今日もまた、足踏みをするばかり。


第380回

おはよう。あれ? 何だかうれしそうだね。いいことあった?
毎朝、彼女の顔を見て、ひとこと声をかけるのがボクの習慣。
返事をもらったことはないけれど。だって、彼女にこの声は届かないから。


第381回

「サヨナラ」とは言いたくない。だから、ただ手を振った。
「またいつか」の言葉を飲み込んで、その背中が見えなくなるまで手を振った。
「ずっと好きだよ」こぼれ落ちたのは涙じゃなく、そんなつぶやき。


第382回

ずっと迷っている。いざとなるとなかなか決心がつかない。
キレイだって言ってくれるかな。微笑んでくれるかな。
暖かな春の陽射しに後押しされ、今年も桜が可憐に咲いた。


第383回

お酒って時に厄介なものだなぁと思う。いや、今、切実に思っている。
いつもはキレイに隠しているキミの本音がチラチラ見え隠れして
無自覚に僕に覚悟を迫ってくる。さて、どうしたものかなぁ…。


第384回

どこかで警戒音が鳴り響く。頭の中? 身体のどこか?
いや、そんなことはどうでもいい。問題は鳴っているという事実だ。
恋が始まる。どうしようもなく厄介な恋が、始まってしまう。


第385回

ゆっくりと移ろうのが季節なら、人の心はどうだろう。
ある日いきなり変わるもの? 気がつけば変わっているもの?
熱の消えたあなたの瞳に問いかける。答えは返ってこない。


第386回

楽しいことがあると、あなたの笑顔を思い出す。
一緒にはしゃいで、ふざけて、笑い合った日のこと。
もう戻れないのに。いつまでも忘れられないままで。


第387回

「どこから間違っていたのかなぁ」と男は途方に暮れていた。
けれど、キミはわかっているかい? 何を間違っていたのかを。
最初からすべてが間違っていたなんて、認めたくはないだろうけど。


第388回

何かが足りない、と思った。でも、それが何かがわからない。
ボクは何を失ったのだろう。ボクは何を忘れてしまったのだろう。
とてもとても大切なもの…だったような気がするのだけれど。


第389回

広い広い海のずっと向こうには、誰もが夢見る島がありました。
そこには羨むような幸せが待っている、と誰もが信じています。
「そんなものありはしないのに」そう言って笑ったのは誰?


第390回

彼女はいつも笑っていた。悲しくても、苦しくても。
涙をこぼす代わりに笑顔を咲かせた。心に蓋をして。
やがて彼女は、本当の笑顔を忘れてしまった。そして、 今日も笑っている。


第391回

キミの声が聞こえた気がして、振り返る。けれど誰もいない。
「そりゃそうだよな」と苦笑いをしながら、また歩き出す。
キミのいない毎日に、もう慣れたはずなのに。まだ少し胸が痛い。


第392回

どんなに悲しくても朝はやってくる。それは、救いなのだろうか。
何も見たくないのに。何も考えたくないのに。
「さあ、顔を上げて」と言いたげな太陽が、今は疎ましい。


第393回

この想いが届かないことはわかっていた。けれど、止められなかった。
そう言って、彼女は苦そうに笑う。僕の気持ちも知らないで。
一方通行の矢印は、捩れた心を乗せて加速してゆく。


第394回

あなたの気持ちが読みきれない。何を考えているの?
誰を想っているの? 私はあなたの瞳に映っているの?
言葉にできない疑問符をいくつも並べながら、私は今日も足踏みするばかり。


第395回

誰かの声がする。胸に懐かしさがこみ上げるのはなぜ?
ずっと探していたものを見つけたような、うれしさが溢れるのはなぜ?
ふらりと声のする方へ傾けば、たちまち囚われ、彼女はもう戻れない。


第396回

知ってるよ。あなたの瞳に私が映ってないことなんて。
あなたの視線はいつも、私を素通りして違う人へ向かっている。
知ってるよ。だけど、もう少しだけ…気づかないふりをさせて。


第397回

何を間違えたんだろう。どこで間違えたんだろう。
いくら考えても答えは出ない。そして、やり直すこともできない。
キミがいない。その結末だけが、いま、目の前にある。


第398回

すべて忘れてしまいたい。そう願ったのは私だった。
けれど、もう思い出せないあなたの笑顔が、声が、仕草が
恋しくて、 恋しくて。ポカリと空いた胸が痛い。


第399回

続けていたら報われる? そんなの、たぶんおとぎ話だ。
望みがないことはどれほど続けたところで、成就する可能性はゼロのまま。
叶うのなんて一瞬なんだよ。ほら、あの子みたいに…。


第400回

歩いてきた道は平坦でもまっすぐでもなかったけれど、
いつも隣にあなたがいたから、私は前を向いていられた。
「ありがとう」じゃ足りないな。なんて言えばいいのかな。

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