3行小説まとめ⑭
第651回
「きっと大丈夫!」
と声に出してみる。そして、笑顔を作る。
目の前の状況に負けないように。心が折れないように。
辛いときこそ笑えって私を励ましたのは、あなたなのにね。
第652回
振り返ってみても、どこにわかれ道があったのかわからない。
けれど気づけば、こんなにもふたりの距離は離れてしまっていた。
もう交わることはない私たちは、同じ空の下を別々に歩いていく。
第653回
気持ちよく晴れた冬空を見上げ、キミも見ているかなと思った。
こんな日は手をつないで散歩をしたね。あの頃はいつもふたりで。
キミのいない季節が4つも過ぎて、僕は春の訪れを待っている。
第654回
グラスの中の氷をからからと指で回して、彼はじっと黙り込む。
言い訳するのも面倒くさい? もう私のことはどうでもよくなった?
言葉にならない彼女の問いかけは澱のように溜まって、 心を黒く染めていく。
第655回
何かが終わって何かが始まる。それは、あたり前の話。
終わったことを嘆くのか。始まることに期待するのか。
キミはどっち? そう、選ぶのはキミ自身だよ。
第656回
「すべてを捨てられるほど子どもじゃないの」 と彼女は苦そうに笑った。
他には何もいらない、と無邪気に言えたならきっと幸せだろう。
彼女はくるりと背を向け、彼のいない世界へと歩いていく。
第657回
好きになると一直線。 脇目もふらず、体当りしては砕け散る。
どうしようもなく不器用で、一方的な恋しかしてこなかった。
だから彼女は、彼の瞳に灯る熱に気づかない。教えてあげないけどね。
第658回
いま、私はどんな顔をしているだろう。そんなことを考えていた。
心は驚くほど冷めていて、目の前の光景に何も感じない。
「嘘つきね」小さくこぼれた言葉は、彼女の足元に落ちて消えた。
第659回
よく晴れた日には「太陽の匂いがするね」と笑うキミ。
雨が降っても、お気に入りの傘を広げてご機嫌なキミ。
いつだって小さな幸せを見つけるのが、キミは本当に得意だったね。
第660回
「ごめんね」と言うと、あなたは 「ありがとうって言ってほしいな」と笑う。
「キミを笑顔にするのも、幸せにするのも、僕の役目だからね」 と笑う。
そして、違う人の手をとった私の背中を、あなたはそっと押した。
第661回
なるべくさり気なく、できればそっけないほどに。
怪訝な顔をされたらすぐに「ジョークよ」と笑えるように。
たくさんの予防線を張って、彼女は甘い告白を胸に抱く。その結末は?
第662回
嫌なことは後回し。悲しいことからは目をそらしてきた。
でも、そろそろ限界かな。もう、気づかないふりは続けられない。
あなたの隣に誰がいるのか。本当はずっと前から知ってたよ。
第663回
朝起きて、気がつけば心の中は空っぽだった。
うれしいも、腹立たしいも、悲しいも、楽しいも、何もない。
あぁそうか。ぽっかり空いた穴からこぼれ落ちちゃったんだな。
第664回
今日は心が穏やかだ。だって、キミがいない。
キミが隣にいると落ち着かない。いつも心がザワザワ騒ぐ。
だから、キミがいない今日は穏やか。なのに、何だか寂しい。
第665回
うれしいことがあると、口の端がちょっと上がる。 悲しい時は眉が少し下がる。
退屈だなぁとか、それ面白そうとか。
ツンとしましていても、キミの気持ちは顔を見ればすぐにわかるよ。
第666回
悪魔の数字って知ってるかい? 迷信? あぁ、そうかもしれないね。
だから、信じなくてもいいよ。どう思うかはキミの自由さ。
古い記憶の中の誰かの言葉。その意味を僕は今、知るのかもしれない。
第667回
「キライだよ」って言ってしまえたら心は軽くなるのかな。
キミの声にドキンとしたり、キミの笑顔にズキンとしたりしなくてすむ。
でももし「好きだよ」って言えたなら。そんな勇気があったなら…。
第668回
小高い丘の上に立ち、見おろした風景を今も覚えている。
幸せだったあの頃を。たくさんの笑顔が溢れていたあの頃を。
壊れてしまった、もう取り戻すことのできないあの頃を。
第669回
もうすぐ新しい季節がやってくる。いやもう変わり始めてる。
風が運んでくる香りとか、街を彩るカラーとか、私の心とか。
さあ、歩き始めよう。重たいコートを脱ぎ捨てて、新しい私になって。
第670回
自分が歩く道は自分で決める。誰かに委ねたりしない。
そう言った彼女の瞳に悲しみの色はなかった。
そこにはただ、静かな決意とほんの僅かな寂しさがあるだけ。
第671回
ずっと一緒だったね。 いつも隣にいたよね。
どうしてもういないの? サヨナラは言えなかったけど。
もっと一緒にいたかったのに。またいつか逢えるかな?
第672回
気持ちよく晴れた日の朝、空を仰いでふと気づく。
あぁ、もうあの季節は過ぎ去ってしまったのだと。
穏やかな時間は好きだけれど、凛とした空気が少し恋しい。
第673回
本当のことなんて知りたくない。現実なんて見たくない。
そうやって目を閉じ、耳をふさいでいる彼女には届かない。
空の青色も。春の訪れも。隠しきれない彼の気持ちも。
第674回
それはとてもささやかで、見逃してしまいそうなほど小さなモノ。
どこにでもあるようでいて、本当はなかなか手には入らないモノ。
でもね、僕は持っているんだ。だって、キミが隣にいるからね。
第675回
神様なんていない、ってキミは不満顔。不公平なんだって。
でもね、好きな人が自分を好きになってくれるのは奇跡なんだよ。
だから、キミの想いが叶わなくても仕方ないんだ。たぶん僕のこの想いもね。
第676回
もっと「好きだ」って言えばよかった。照れたりせずに。
もっと「会いたい」って言えばよかった。遠慮したりせずに。
「大切だ」って、「一緒にいたい」って、どうして言えなかったんだろう。
第677回
すやすやと眠るキミを見る。その頬にもう涙の跡はない。
そのことにホッとして、少しだけ寂しくなって、キミのおでこに口づけた。
明日はきっと笑顔になれるよ。だから、サヨナラ。
第678回
「風が優しくなったなぁ」なんて心地よさそうにあなたが言う。
「そうだね」って笑って、そっとあなたの手を握る。見上げれば、
そっぽを向いたあなたの耳が、ほんのりとさくら色に染まっていた。
第679回
あの子がいつまでも笑顔でいられるように身体と心を守る。
それが私の役目。いや、私はそのためだけに存在している。
あの子の痛みを代わりにこの身に受けて、私はゆっくりと眠りにつく。
第680回
彼は真面目だと誰もが言う。コツコツと努力を欠かさないのだと。
怠けることなく、驕ることなく、飽きることなく、彼の日々は続く。
人々は知らない。悪魔の目から逃れるために彼がもがいていることを。
第681回
キミが僕から離れていく。それは、喜ばしいことだけれど。
キミを見守るのは、今日から僕ではなく彼の役目になるんだね。
悔しいけれど、キミが選んだ人だから、きっと幸せになれるさ。
第682回
ある日、猫がやってきて「久しぶりだね」 と言った。
現実離れした出来事にきょとんとする私を見て、猫が笑う。
それを見て「あっ」と思った瞬間、目が覚めた。結局、誰だったのかな?
第683回
小さなお墓を作りましょう。 冷たくなったあなたのために。
毎日お花を供えましょう。もう目覚めないあなたのために。
生まれ変わったら逢いに来て。きっとあなただとわかるから。
第684回
気がつけば、涙がこぼれていた。なぜなのか、自分でもわからない。
悲しい? そうじゃない。苦しい? わけじゃない。うれしい? それも違う。
心の中はすっきりと澄み渡っていて、新しい私が生まれた気がした。
第685回
頭の中にサイレンが鳴り響く。これ以上近づいちゃダメだ。
けれど、後ずさろうとする僕の足元は崖で、
一歩も動けない。逃げ場はない。そのことになぜか心の奥が甘くしびれた。
第686回
「どこがいいんだ?」とみんなが言う。どこもかしこもいいに決まってる。
何もわかってないヤツらにわざわざ教えてやる義理はない。
だって、キミの可愛さはボクだけが知っていればいい、よね?
第687回
「さよなら」と言えていたなら、想い出にできていたのだろうか。
あの日、突然消えてしまったあなたは、今はどこで誰といるのだろう。
幸せでいてほしい。たとえ、住む世界が違ってしまったとしても。
第688回
空がこんなに青いのは、誰かが真っ青なインクをこぼしたから。
太陽があんなに眩しいのは、みんなが太陽に憧れているから。
じゃあ、心がどうしようもなく傷むのは、どうしてなのかな。
第689回
心の天秤がゆらりとあなたに傾く。他愛もないひとことで。
元に戻そうともがくのは私の理性か、それとも、つまらないプライドか。
何度正してもふらりとあなたに傾くのに。他愛のないやさしさひとつで。
第690回
「その言葉、聞き飽きた」と言って、彼女は僕に背を向けた。
そんなに怒らなくてもいいじゃないか。ちゃんと反省してるんだから。
口先だけの反省にもう騙されない。彼女は振り返らなかった。
第691回
「ねぇ、天使って本当にいると思う?」とキミは無邪気に笑った。
きっと信じないだろうなぁ。人間に恋して地上に降りた天使がいたなんて。
そして、それが僕のことだなんて…キミはきっと信じないよね。
第692回
「星が降るみたいだ」なんて、めずらしくロマンティックなことを
あなたが言うから、思わずその横顔を見つめてしまった。
とても静かな夜。あなたと手をつないで歩いた、最後の記憶…。
第693回
何だか頭がぼーっとする。顔も火照っていて、身体も熱い。
風邪でもひいたのかもしれないなぁ…と思っていたんだ。
まさか、恋に落ちただなんて。この僕が? 嘘だよね?
第694回
「雨は嫌いだ」とあなたは言う。ジメジメとした空気がイヤなんだと。
「雨が好きだ」と言ったのは誰だったっけ。滲む風景がキレイだからと。
滴がつたう窓を眺めながらそんなことを考えた。ひとりきりの午後。
第695回
温かいお茶でほぉーっとひと息。あぁ、そうか。そうだったんだ。
あなたにとって私はやすらぎになれなかったんだね。最後まできっと。
ただ寄り添えばよかったのかな。すべて放り出して、あなたのそばに。
第696回
モヤモヤしたり、イライラしたり、どうにも心が落ち着かない。
原因は…わかっている。でも、そうじゃないと抗い続ける。
たったひとりの人に振り回されているなんて、絶対に認めない!
第697回
何かが始まる。そんな予感が胸に湧き上がった。少し怖い。
けれど、どこか楽しい。どこか楽しい。期待と不安がせめぎ合う。
これから始まるすべては、私のカタチを変えてしまうかもしれない。
第698回
どんな悲しいことが降りかかっても、あなたがいれば笑顔になれた。
楽しいことがあったときは、あなたが一緒に笑ってくれた。
だからね、去っていくあなたに「ありがとう」って言うんだよ。
第699回
春が来るのはあたり前。誰もがそう思っていました。
寒く厳しく、寂しい冬が過ぎれば、暖かな陽射しが降り注ぐと。
「そんなこと、誰が決めたの?」冬が終わらない世界で、呟いたのは誰?
700回
「キミのためだ」とあなたは言う。けれど私は信じない。
だって私は知っている。あなたが誰を守っているか。誰を想っているか。
私じゃない誰かのために切り捨てられた私は、どこへ行けばいいのかな。
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