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3行小説まとめ⑫

第551回

いつでも逢えると思っていた。だから、何も言わなかった私。
いつものように手を振って、振り向きもせず歩いていったあなた。
ねぇ、もう逢えないなんて、嘘だよね。嘘だと言ってよ。


第552回

発してしまった言葉は、どんなに悔やんでも取り消せないの。
そして、たったひとことですべてを失ってしまうこともあるんだよ。
私みたいにね。そう言って彼女は、処刑台の上で静かに笑った。


第553回

前触れもなく訪れた突然の別れ。「どうして」の言葉は弱々しく響いた。
「もうここにはいられないからね」小さく笑いながら言った人。
行かないで、と言えなくて、ただその場に立ち尽くしていた。


第554回

約束は守られたことがない。期待をするだけ無駄なのだ。
そんなことは十分わかっているはずなのに、小さな望みを捨てられない。
そんな彼女に呆れながらも、静かに見守る瞳があった。


第555回

真夜中、ふと目覚めてとなりを見る。けれど、あなたはいない。
もう慣れたはずなのに。ぽっかり空いた左側が今夜はやけに寂しい。
今はどこで、誰の横で、あなたは眠っているのだろう。 


第556回

行く宛のない旅をしている。もう、いつからだかわからない昔から。
歩いても、歩いても、ゴールは見えない。いや、きっとそんなものはない。
ただ漂っている。小さな明かりだけを連れて。それが僕に課せられた運命。


第557回

遠い記憶の中で幼い私が泣いている。心細くて、怖くて、寂しくて。
そんな私を慰めてくれる声はなく、安心させてくれる手もない。
だから、私は小さな私を抱きしめる。大丈夫。ひとりじゃないよ。


第558回

どんよりとした曇り空。けれど、ボクの足取りは軽い。
だって、これからキミに逢いにいく。自然と顔に笑みも浮かぶ。
花を買っていこう。キミの好きな秋桜を両手いっぱいに。喜んでくれるかな。


第559回

大きく息を吸って、深々と吐き出して。彼女は落ち着こうと必死だった。
大事な言葉を間違えないように、忘れないように。さあ、息を整えて。その瞬間、
彼が現れて…言葉を失くした彼女の代わりに、瞳が愛を伝えてくれた。


第560回

とある小さな王国の、とても小さな町の外れにその花は咲いていました。
人知れず密やかに。真っ白な花びらをやさしく撫でながら風は思うのです。
「この可憐な美しさを、誰にも知られませんように」と。


第561回

終わりは始まりの合図。そう私に教えたのは、あなただった。
「だから、悲しむことはないんだよ」と言って微笑んだあなた。
ねぇ、何が始まったとしても、あなたがいなきゃ意味がないよ。


第562回

目の前にある現実を認めたくはない。けれど、無駄なことだとわかっている。
私の居場所はここにはない。いや、なくなってしまった。
この手からこぼれ落ちたものは、もう二度と戻ってこないんだから。


第563回

「大丈夫」と心の中で何度も繰り返す。自分に言い聞かせるように。
かつて彼がしてくれたおまじないを、彼女は自分で自分にかける。
どこかで彼が笑っている気がした。今も、見守って暮れている気がした。


第564回

心の中に広がる風景は、蒼いベールをまとっていた。
音もしない。風もない。ただただ静かな凪の世界。
現実に帰りたくない。だってここは、私のすべてを許してくれるから。


第565回

いつの間にかあたり前になっていたこと。あなたが隣にいること。
朝、起きたとき。ふと、顔を上げたとき。夜、眠るとき。
いつもそこにはあなたがいた。そう、あなたがいたんだなぁ…。


第566回

誰も教えてくれなかった。大切なものを失くした後のことなど。
ポッカリと空いた心の埋め方も、 涙の止め方も、私は知らない。
だから今夜も、空っぽの心のまま、大切なものを探して泣いている。


第567回

「もし、明日世界が終わるとしたらキミはどうする?」なんて
あなたはいつも、ありもしない未来を私に問いかけた。
けれど、私の世界はあっけなく終わった。あなたがいなくなってから。


第568回

昔々、まだ人が自由に魔法を操れた頃、1匹の猫が願いました。
「いつか人間になれますように。あの子の最愛になれますように」と。
だからね、僕は、キミの最愛になるために生まれてきたんだよ。


第569回

どこまでも澄み渡る空は、心の内を見透かしているようで少し怖い。
曇り空なら隠せるものを。どしゃ降りなら気づかないものを。
そして、秘めた想いは、あっけなくあなたの前に暴き出される。


第570回

聞こえるはずのない音に反応し、見えるはずのない光景が目の前に広がる。
これは夢? それとも妄想? まさか現実だなんてありえない。だって…。
彼女は戸惑いの中にいた。にっこりと微笑む彼に頬を真っ赤に染めながら。


第571回

彼女はにこりと笑った。その笑顔に、思わず彼は目を瞠る。
泣くだろうと思っていた。優しく「ごめん」という準備はできていた。
だから、もう一度、彼女に心を奪われたなどと、彼はきっと認めない。


第572回

公園のベンチに座り、ぼんやりと日曜の午後の光景を見ていた。
「平和だなぁ…」と、ポツリつぶやく彼の瞳に宿るのは羨望。
キミたちは知っているかな。かつてこの場所で起こった出来事を。


第573回

昨日より少し、風が冷たくなった。少し、心細くなった。
寒くないよう、寂しくないよう、自分で自分をギュッと抱きしめる。
心の中の小さな私が「ありがとう」と小さく笑った。


第574回

彼女はじっと彼の瞳を見つめて、何か言いたげにしている。
ねぇ、気づいてる? ほんの少し髪の色を明るくしたこと!
わかっていてもあえてスルー。褒め言葉は後のお楽しみ、らしい。


第575回

濃い霧が立ち込める鎮(しず)かな森の中。かすかに息遣いが聞こえる。
「誰かいるの?」そう声をかけてみるけれど、返事はない。
静寂に支配されたこの場所で、僕は、何かを探している。今日も、明日も。


第576回

ここは暗くて寂しいの。そんな声がどこからか聞こえてくる。
これは、キミの声? 遠い昔にこの腕の中から飛び立ってしまったキミの…。
もうキミを守るのは僕の役目ではないのに。まだキミを僕は…。


第577回

片付けをしていた手がふと止まる。そこに懐かしい笑顔を見つけて。
楽しくて、シンドくて、戻りたいけれど、二度と戻れない日々。
私は前に進んでいくよ。だから、その笑顔をそっとしまい込んだ。


第578回

優しい言葉は見せかけ。本当は冷めた目で周囲を見ている人。
笑顔の裏に本音を隠して、決してその心の内を悟らせない人。
そんな彼を誰も知らない。私だけが知っている。…本当に?


第579回

小さなことが積み重なって、 今に繋がっている。
だからこれは、突然の出来事…ではないのだろう。
気づいていたはずなのに。少しずつ変わっていくあなたに。


第580回

ひとりじゃないよ、と抱きしめてくれたのはあなただった。
泣きたいのなら泣けばいい、 とやさしく寄り添ってくれた。
だから、急に手を離されて、もう私は、ドコニモイケナイ。


第581回

夜中にふと目覚めると、窓の外には少し気の早い雪が舞っていた。
「キレイだね」って、キミがいたら言うんだろうなぁ。
うれしそうに、楽しそうに。僕にそっと寄り添いながら。


第582回

言いたいことはたくさんある。でも、うまく言葉にできない。
怒ればいいのか。泣けばいいのか。諦めればいいのか。
何もできないまま、去っていく人の背中を見送った。


第583回

誰でもよかった…わけじゃない。それは嘘じゃない。
けれど、キミじゃなきゃダメな理由がわからなかったんだ。
それを今さら、キミを手放してから初めて知るなんて、ね。


第584回

彼女は振り返らない。だって、みっともなく泣いている顔を見られたくない。
迷いのない足取りで歩いていく。だって、立ち止まったらもう進めないから。
「キミは、強いな」背中に投げかけられた言葉に、彼女は苦く笑った。


第585回

カーテンの隙間から明るい太陽の日差しが差し込んでくる。
あぁ、もう朝か。それにしても、いいお天気だなぁ。
「おはよう」と言いかけて、彼は気づく。もうひとりだったな。


第586回

キミが苦手なもの。雨の夜とホラー映画と、ひとりの時間。
だから、今キミが苦しいのは、きっとボクのせいなんだ。
「ごめんね」と言うこともできない自分がもどかしいよ。


第587回

心にもないことを言った。でもそれは、彼女のため。
だって傷つけたいわけじゃない。悲しませたいわけじゃない。
「嘘つき」そう言って彼女は、永遠に僕の前から消えてしまった。


第588回

黙っていないで、何か言って。たとえそれが、終わりのことばでもいいから。
下を向いてないで、こっちを向いて。もう、笑いかけてくれなくてもいいから。
右と左に別れていく前に。交わらない道を歩き出す、その前に、もう一度だけでいいから。


第589回

キミが笑えばボクもうれしくて、一緒になって笑った。
キミがしょんぼりすればボクも悲しくて、そっと寄り添った。
だからね、そばにいられなくなっても、ボクはキミを忘れないよ。


第590回

晴れた日は散歩に出かける。お気に入りの音楽と一緒に。
いつもと変わらない風景が、そこにあることにホッとしてしまう。
だって、永遠なんてないと私は知っている。知ってしまったのだから。


第591回

心がザワザワと騒ぐ。あなたがそこにいるだけで。
言葉にできない想いが出口を求めてぐるぐると渦巻いて、
理性のブレーキを外しにかかる。耐えられなくなるのはいつだろうか。


第592回

いつものように笑った私を、もうひとりの私が嗤う。
「いい子の仮面をかぶった嘘つきさん。私はあなたが大キライ」
それでも私は笑顔のまま、本音を心に隠したまま。


第593回

いつもと同じ帰り道。ふと足元に視線をやれば、小さな猫が一匹。
心細げに震わせる身体を思わず抱き上げ、その軽さに驚く。
「キミもひとりなの?」「にゃあ」これは、私に家族ができた日の話。


第594回

どうしてあなたが泣くの? あの人に肩を抱かれたままで。
あの人の心を奪ったあなたは、私に泣くことさえ許さない。
だから彼女は、何も言わずにただ、ふたりに背を向けるしかなかった。


第595回

ふと窓の外に目をやれば、ライトアップした東京タワーが見えた。
夜遅く、ひとりのオフィス。けれど、それを望んだのは彼女自身。
余計なことは考えたくない。だから彼女は、また仕事に戻る。


第596回

誰かに頼るのは苦手。 彼女はひとりで凛々しく立つ人だった。
泣くよりも笑うほうがいい。それが強がりに見えない人だった。
下は向かない。前しか見ない。彼は彼女の背中を見つめていた。


第597回

「行かないで」と言っちゃいけないのはわかってる。
もう一度この手を取ってほしい、なんてわがまま言わないから、
あなたの未来を見守ることは許してね。そして叶うならいつかまた…。


第598回

三日月は欠けているから美しい。それなら、私は?
欠けたものに手を伸ばして、焦がれて、掴めなくて。
ひたすらに求め続ける私は、きっと、浅ましいのだろう。


第599回

始まったら、いつかは終わる。それが、宿命(さだめ)というものなのだ。
そう言ったのは、誰だったのか。そう言われたのは、いつだったのか。
宿命を知った私は今日も、終わりが来る日を数えている。


第600回

うれしい時は笑えばいい。悲しいのなら泣けばいい。
そんな当たり前のことが難しくて、私はいつもうつむいてしまう。
どんな表情(かお)していたっていいんだよ。キミはキミなんだから。

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