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3行小説まとめ⑲

第901回「キミと僕とキレイな空と」

「キレイだね」と空を見上げるキミの横で、僕はスマホを取り出した。
「自分の目に焼きつけておこうよ」と、あの日キミは言ったっけ。
想い出は1枚も残っていない。僕の心の中に色鮮やかにあるだけだ。


第902回「ボクノネガイ」

もしも僕が魔法使いだったら、キミを泣かせたりしないのに。
いつも笑っていられるように、幸せでいられるように、
僕の魔法でキミの恋を叶えてあげられるのに。どうして僕は…。


第903回「幸せな記憶」

目を閉じれば浮かんでくる光景。それが現実だったのはいつの頃か。
色とりどりの花が咲いて、子どもたちがはしゃいで走り回り、
隣でキミが笑っていた。あれは遠い日の幸せな記憶。


第904回「あともう少しだけ」

もう少しこのままでいたい。昨日と同じ私とあなたでいたい。
本当はわかっている。でも、知らないふりを続ける。
あともう少しだけ。我慢できずに、あなたがサヨナラを告げる時まで。


第905回「画面の外の恋ごころ」

ハッピーエンドで終わった物語の片隅で、私は息をひそめている。
仲間にも、悪役にも、観客にもなれない私は顔すら曖昧なその他大勢。
だから、感情なんてない。恋心なんて、抱くはずはないんだ。


第906回「キミの背中に」

「ごめんね」とキミが言う。俯いたまま涙をこらえ、ふるえる声で。
だから僕は、何も言わず、去っていくキミの背中を見送った。
知っているよ。キミの言葉にも涙にも、真実なんてないことを。


第907回「氷姫」

ある国に「氷姫」と呼ばれる王女がいました。表情のない人形のような姫。
その心はヒビだらけで、隙間から何もかもが流れ落ちていきます。
喜びも悲しみも、怒りも愛も、姫の心には何も残っていないのです。


第908回「運命に落ちる」

「恋は落ちるもの」ってむかし誰かが言っていた。何それ?
「引力には抗えないでしょ? だから、落ちてしまったらそれが運命よ」
これまでの時間も何もかも全部を無にする呪い。それが、運命?


第909回「泣いてもいい場所」

「どうしたの?」という顔で、心配そうにこちらを見上げる。
「大丈夫だよ」と笑ってみせるけど、ごまかしは効かないらしい。
涙を隠すように抱きつけば、「泣いてもいいよ」と小さく鳴いた。


第910回「LAST SCENE」

悲しくて、悔しくて、虚しくて。私は笑い出した。
止まらない笑いに、あなたは眉をひそめ去っていく。
滑稽で、白々しくて、バカバカしくて。私は涙をこぼした。


第911回「ユメウツツ」

「もしこの世界が夢で、夢が現実の世界だったらどうする?」
そう問いかけたのは誰だったのか。とても優しい声だった。
現実なんて曖昧なもの。どちらが夢かなんて、キミが決めればいいのさ。


第912回「悪者はだあれ?」

冷たくなっていく指先をギュッと握りしめた。気づかれないように。
あなたの視線はもう私ではなくて、いつもあの子を追っている。
それでも離れられない私が悪いの? 何も言わないあなたが、悪いの?


第913回「僕は魔法使い」

覚えたての呪文を唱えてみる。「幸せになぁ~れ」
指先から放たれた小さな光はキミを包み込んで静かに消えていった。
僕は魔法使い。誰も知らないけれど、見えない魔法でキミを守るよ。


第914回「なにもかも」

「何も見えない」とキミは怯える。目を閉じたままでいるのに。
「何も聞こえない」とキミはしょげる。自分で耳をふさいでいるのに。
「誰もいない」とキミは泣いた。差し伸べた手を振り払ったことを忘れて。


第915回「私の日常」

窓から見える風景は昨日と変わらない。少し濁った青にグレーの雲が浮かぶ。
ここでは、風の冷たさがわからない。街の匂いも香らない。
真っ白な檻の中で今日も過ごす。それが、昨日と変わらない私の日常。


第916回「いつも一緒にいたね」

「疲れたなぁ」とつぶやけば、心配そうにこちらを覗きこむ。
「ボクと一緒にお昼寝しよう」とでも言いたげにしっぽをふりふり。
いつだってキミが笑顔をくれる。いつだってキミが、支えてくれたね。


第917回「嘘の好きならいらない」

どれだけあなたを見ていたと思ってるの? わかるよ、それくらい。
言葉にしなくたって、その仕草ひとつでわかってしまうんだよ。
ねぇ、知ってる? 失くした熱を繕うのは、優しさじゃないってこと。


第918回「未来のこと」

今、目の前にいる人にどう伝えたらいいんだろう。この先起こることを。
明日のこと、来月のこと、1年後のこと、もっともっと先のことを
私は知っている。知ってしまった。 一緒にはいられない私たちの未来を。


第919回「アンインストール」

キミが消えた。ある日突然に。何も残さず、ボクの前から。
それからずっと探している。いつもの場所、夢の中、想い出の中までも。
どこにも存在しないキミの面影を、ボクは今も探し続けている。


第920回「あの日のやくそく」

あなたはもう覚えていないでしょう。あの日交わした約束を。
だってあれは遠い昔。ふたりともまだ幼くて、何も知らなかった頃。
無邪気に笑い合い、共に生きる未来を信じていられた、あの頃を。


第921回「涙が枯れたあとに」

泣かない私を、寂しそうな視線を落としてあなたが責める。
ポロポロとこぼす涙で、あの子は「彼は私のものだ」と主張した。
だから、私は泣かない。あなたの前では絶対に、私は泣かない。


第922回「からっぽ」

ガランとした空間は寒々としていた。そこには何もない。
輝くような喜びも、燃えるような怒りも、涙を忘れるほどの哀しみも、
弾むような楽しさも何もない。それは私の心。空っぽの私の心だった。


第923回「笑って、笑って」

ほら、笑って。悲しい顔なんてキミには似合わないから。
ねぇ、笑ってよ。大好きなキミの笑顔をもう一度見たいから。
今にも消えそうな声で願う彼に、彼女は涙の代わりに笑顔を贈った。


第924回「白夜をゆく」

ずっと太陽が沈まない白い夜の中を、終わらない恋を抱えたまま
私は歩いていた。薄曇りの景色の中を、宛てもなく休むこともなく
歩き続けていた。いつかこの恋の終わりにたどり着くと信じて。


第925回「Cage~ケージ」

不安はもうない。今、私の心は秋空のように高く澄み渡っている。
雨が降ることはもうない。晴れやかなまま、穏やかなまま。
ここは楽園。二度と出ることは叶わないやさしい箱庭の中。


第926回「何番目かのカレが言う」

「もう少し夢を見ていたい」と彼は言う。彼女の視線を避けながら。
その夢の中に自分がいないことを彼女は知っている。けれど、
ダメだともイヤだとも言わずに頷いた。零れそうになるため息を隠して。


第927回「キミのつくる朝食は」

料理の苦手なキミが作る朝食は、いつも目玉焼きとトースト。
たいてい両方焦げていて、だけど幸せの味がして。ボクは大好きだった。
ホテルのモーニングは完璧だけど、キミの朝食が恋しいなぁ。


第928回「キャンディLOVE」

真っ赤なキャンディはいちごの味。甘くて酸っぱいはじまりのふたり。
真っ白なキャンディはミルク味。甘くて甘くて、とろけるような時間。
蒼いキャンディは涙の味。ガリガリ噛んで、粉々に砕いて飲み込んだ。


第929回「モヤモヤ心は混乱中!?」

モヤモヤと心の霧は晴れない。原因は…わかっている。
どうしてあんな顔したの? どうしてあんなこと言ったの?
やさしく微笑まれ、甘く囁かれた言葉に、私はいまだ混乱中だ。


第930回「ありふれた話」

そんな顔しないで。ありふれた話じゃない。心変わりなんて。
だって仕方ないじゃない。出逢ってしまった。ただそれだけ。
縁がなかったのよ、私たち。だから、もう行って。彼女のところへ。


第931回「僕とキミとのディスタンス」

隣で無邪気に笑っているキミを見ながら、ふと考えた。
どこまでが友だちで、どこからが恋人なんだろうって。
答えを知らない僕らの距離は、今どっちなんだろうね。


第932回「希望の光」

何も見えない。ここは暗闇。私は怖くてうずくまった。
何も聞こえない。ここは静寂。僕は寂しくて膝を抱えた。
手を伸ばせば届くかもしれない希望に、臆病なふたりは気づかない。


第933回「あの日のぬくもりを忘れないで」

「寒いね」と言えば、ギュッと手をつないで温めてくれた人。
「あたたかいね」と見上げれば、小さく笑ってくれた人。
もうすぐ冬が来る。ひとりになった私に、あのぬくもりは戻らない。


第934回「雨が降る日は」

雨の日はちょっとうれしい。お気に入りの傘で出かけられるから。
小さな星が瞬く夜空のような傘が、心を晴れやかにしてくれるから。
降り止むことのない私の涙を、そっと隠してくれるから。


第935回「いつかのふたり」

くだらないことで笑いあって、つまらないことでケンカして。
でも、結局あなたと一緒にいるのがいちばん楽しかった。
もう二度と会えないけれど。もう何もかも遅いけれど。


第936回「こころはうらはら」

顔を合わせれば憎まれ口ばかり。キライなら無視してくれればいいのに。
いつも心にもないことを口走る。きっと好きすぎるのがいけないんだ。
その気持ち、全然相手に伝わってないけど? ここから逆転できるかな。


第937回「ゆらりゆらり」

ゆっくりと夜がやってくる。空は紺碧に染まり、街は華やかに色づく。
足早に行き交う人々の中、ポツリと取り残された影がひとつ。
縫い付けられたように動けないまま、ゆらりゆらりと揺れていた。


第938回「プロローグ」

何かを言いかけて、やっぱりやめて、気まずそうにうつむく彼。
向かいに座る彼女は、ただじっと彼の言葉を待っている。
ここから始まる物語。たどり着くのは果たしてどんな結末だろうか。


第939回「窓を開ければ」

よく晴れた日曜日。うれしくなって窓を開ければ、心地よい風が…
吹いていなかった。よく見れば、目の前には薄グレーの霧がかかり、
どんよりと濁った風景があるだけ。これが現実? これが世界?


第940回「冷たい風が教えてくれたこと」

急に寒くなって、身体と一緒に心がきゅっと縮こまる。
包んでくれたぬくもりは、いつの間にかなくなっていた。
冷たい風が教えてくれる。ひとりぼっちの寂しさを。


第941回「アンドロイド」

僕には何もない。喜びも、楽しみも、愛も、何もかも。
悲しみもない。寂しさもない。痛みすらも感じない。
だから、教えてくれないか。喜びを、悲しみを。愛も痛みも。


第942回「ぷかり、ぷかり」

真っ白な雲が、真っ青な空を漂って泳いでいきます。
どこへ行くのか。どこまで行くのか。その行く先を誰も知りません。
あちらへぷかり、こちらへぷかり。寄り道しながら、雲がゆきます。


第943回「何もない世界で」

何も見えない。自分の指先さえも暗闇に飲み込まれてしまうほどに。
何も聞こえない。自分の息遣いが大音量に感じてしまうほどに。
心を閉じた私は世界から切り離され、何もない空間に置き去られる。


第944回「太陽は昇らない」

「太陽ってなあに?」幼い声が問いかける。無垢な笑顔で。
とても大切で、暖かくて、かけがえのない存在をどう話せばいいのか。
二度と太陽の昇らない場所で、僕はただ小さな頭をなでた。


第945回「サヨナラも言わないままで」

「言いたいことは?」もちろんたくさんある。でも言葉にならない。
何も言っても、もう遅いから。元に戻ることは、もう無理だから。
ゆっくりと首を横に振り、私は薄く微笑んでからあなたに背を向けた。


第946回「小さな花が咲きました」

花が咲いた。小さな丘の上に、一輪だけ小さな花が。
それを大切そうに守る少年がいる。小さな命を慈しむように。
一夜で枯れた花を手に、少年は涙を流す。雫は小さな宝石となった。


第947回「待ちわびて」

冷たくなった指先に、フーッと息を吹きかけて温める。
心にもこんな風に、ぬくもりを分けられたらいいのに。
悴んでいく想いはこのまま凍りついて、やがて砕けるのかな。


第948回「かえりみちで」

「寒いな」とあなたが言う。私は「寒いね」と答える代わりに、
呆れ顔を隠さず大きなため息をつく。それ、何度目の寒いね?
「もっと、こっちに寄れば?」ようやく言ったあなたに、私は…。


第949回「甘く深い夜の中へ」

静かに私の前に差し出されたカップから温かい湯気があがる。
ほのかな甘い香りがくすぐったくて「ありがとう」とそっけなく。
何も言わないあなたのやさしさに寄りかかり、深くなる夜の中へ。


第950回「いつだってキミは」

怒らせたこと、泣かせたこと、呆れさせたこと。いろいろあったね。
でも、いつだって最後は笑って僕を許してくれたキミ。
甘えてばかりの僕に罰を下したのは、キミじゃなくて神様だった。

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