#KDP 販売促進4
飾り気のない女が 派手な装飾を身に着ける
もう 卑しい醜女の顔で ニタリと笑って見せるから
老いた老婆のようにも見えるその口は 縦横に 上下に歪み動く
聞きとれる筈のない言葉が この耳の渦巻きに届き 理解を促す
けたたましく頭の中で響いたのは 声でも音でもなかった
常軌を逸した不明瞭な 一一兎に角 声でも音でもなかったのだ
それは頭の中の余計な考え全てを 追い出さんばかりに喚く魔物のようであった
未だにこれの理解に苦しみ 固く固く目を閉じ 苦しみから逃れようとした
耳を澄まさんと閉じた訳ではなかった目を開け 余はそれを見た
あの気味悪かった口裂けの女が 確かに ほくそ笑んでいたのである
余の心は 一瞬にしてこの女のものとなった
一一なぜ? などという そんな下らない疑問を抱く暇はなく
又 あまりにも安い自分の心を嘆く暇もなかった
だらしのない口元を その女の真似をして歪ませてみた
すると 女もさっきと同じように ほくそ笑んだのだ
その瞬間 唐突に余は何もかもを理解した
心は もう そこには無かったが 身が震えたのは 心が今までそこに在ったからか・・・
月日が経つ中で 身も心も 女の身の回りを 飾り立てる為だけのものとして捧げていた
そのことを 何とも思わなくなってゆく平生が 全ては女の為にあったと知る
女は 美しさも醜さも兼ね備えて その一つに余は魅かれ 別の一つに余は染まった
過去を偽らずに生きることは辛い 嫌なことは忘れて生きたい
いつか 余の気持ちは暗がりを探し そこに座り込むことを望むようになっていた
女の 美しさか醜さかに身を寄せ だが それは まるで自分の人生ではないかのよう
ほとんど忘れかけていた言葉は やはり 声でも音でもなかったのだと察する
理解したと思われる言葉の意味は 過去に置き去りに そうして 今
目に映る光景も それを映し出すスクリーンすらも 女のものとなった
二つの寿命を手に入れたのは 余ではなく 女の方だと推察するには容易く
これまで 何度となく 不特定多数に取り籠まれた身と心が 取り籠まれるのもこれで最後
そう願って 目を閉じる 耳を澄ます為にそうしてもいい 苦しみから逃れる為でも
余の心を 一生の間この女のものとして捧げる
一一なぜ? などという そんな下らない疑念を抱く必要はなく
又 あまりにも掛り過ぎた時間を取り戻す暇もなかった
だらしのない口元は この女の真似をして歪ませたままで
そして 女もずっとそうしていたかのように ほくそ笑んでいた
その僅かか永遠の瞬きの中で 余は何も考えられなくなった
心は 既に そこには無かったが 身の震えを感じたのは 心が一度でもそこに在ったからか・・・
(「美醜」)
全29編
読んでくださる方にとって、いいと思える「詩」が一編でもありますように。