無題5

#KDP 販売促進8

ミラ

我の一点張り 文句があるならかかって来いといつも喧嘩腰 眉間にしわを寄せて 腰に手をやって
嫌味なやつには 頭に血を上らせて食ってかかる事もしばしば 火花を散らせる事も時たまあって
自分から引く事なんてまずない 我を通してこそといつも我物顔 通りを歩く時なんて特にそう
女にも容赦しない 下品な言葉を浴びせかけて反応を楽しんでる でもたまにつま先を踏んづけられる
屈したら負けだと思ってるから そんな時は睨みを利かせる 何度踏んづけられても屈せず睨む
睨みの一点張り そんな時もある 女には手は上げないって決めてる 下品な言葉ならいくらでも
ミラと出会った時だってそう 彼女とその友達一人一人に 下品な言葉を浴びせかけてげらげらしてた
げらげらしながら ミラの悲しそうな顔を見てなぜだか胸が苦しくなった その時初めて逃げ出した
下り坂を一気に駆け下りて 下り切った所で坂を見上げて・・・ もう彼女の姿はどこにもなかった

ミラと出会ってから何かが変 旺盛だった食欲はどこへやら 溜息ばかり それにどこか熱っぽくって
通りを歩いても 隅っこを歩くわ 街灯に頭をぶつけるわ いつもの我物顔はどこへやら 本当に変
喧嘩をしかけられても 食ってかかって来られても 火花は散らさず なぜか手には花びらのない花が
屈したら負けだと思わなくなった 女には手は上げないし 下品な言葉も浴びせかけなくなった
睨みの一点張り そんな時もあった いつも心ここに在らず そんな風になった
ミラと出会った時からずっとそう 何だか変 街で彼女を見かけても声をかけられない
自分の言葉で彼女を傷つけてしまうのが恐くて そんな事想像するだけで また胸が苦しくなって
胸の苦しみから逃れるように 下り坂を一気に駆け下りた その途中で足が絡まって転んだ
坂の終わりで擦りむいた膝をさすっていると 急に辺りが暗くなって・・・ 誰かの影の中にいた

ミラだった 彼女の心配そうな顔を見てなぜだか涙が込み上げてきた 零しまいとした涙をさっと拭った
急に立ち上がって かと思えば まだ潤む目で彼女を睨むように見つめて ・・・思わず赤面
間近で見た彼女の顔はあまりに綺麗で―― そこで初めて気が付いた 彼女に一目惚れしてたって事に
慌てて顔を逸らしたってもう遅い ミラはくすくすと笑い出し 目に涙を浮かべながら大丈夫?と訊く
恥ずかしさのあまり何も言えず どうにも動けず もうどうすればいいのか分からなくなって
とにかくこの場にいるのが耐えられないとばかりに 顔が赤いのも忘れて駆け出そうとした
動かない体をそうして動かそうとした時 驚いた事に足よりも先に口が動いた 大丈夫・・・そう言っていた
そんな事ありえないのに 今の一言で彼女の事を傷つけてしまったんじゃないか なんて急に不安に
だからさりげなく彼女を見遣って・・・ ミラは頬を赤らめ 嬉しさを隠し切れないでいるようだった

その日からミラはかけがえのない存在になった 通りを歩く時はいつも並んで 手だって堂堂と繋いで
通りすがる人たちは そんな二人を見て目を丸くするばかり 彼女の友達なんか特にそう
睨みの一点張り そんな奴だったのに 何だかすっかり変わってしまって 今や別人 驚いて声も出ない
それでも祝福せずにはいられない街の人たち だって ミラのその幸せそうな顔と言ったら・・・
街灯の下 星たちに見守られながら誓いのキスをした 彼女に内緒で買った花束もその時渡した
それからは二人で暮らすように 目覚めれば隣にはミラが そして彼女の手を握っている自分がその隣に
ふと この満ち足りた幸せが終わるとすれば それは自分の言葉が彼女を傷つけた時だ そう思った
ミラが目覚めると 隣には折りたたまれた一枚の紙が でも開いてみてもそこには何も書かれていない
彼に何を訊いても答えない 知らぬ存ぜぬの一点張りで・・・ 気付くとミラは彼の腕の中にいた

全34編


読んでくださる方にとって、いいと思える「詩」が一編でもありますように。