花と宇宙2

私がフリーライブラリアンをしている理由 【裏編】

はじめまして。
一つも文章がないのもなんだと思い、まずは一作書いてみました。

自己紹介とはもっともむずかしい文章の一つではないかと思いますが、まずはここから最初のごあいさつをさせてください。

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フリーライブラリアンを名乗り始めたのがいつだったかは忘れたが、当時はまだ大学図書館に勤めていたものの、もっとレファレンス受けたいなというのと、フリーライターとかフリーのキュレーターとかはあるのになぜ司書は組織や場所にしばられているんだろうと思ったのがたぶん最初。それでひとまず自分の周りの人に、調べものがあったら聞いてほしいと声をかけたり、大学院で研究している友達に調べもの講座をしてみたり、海外で学んでいる友達のネット上での論文収集に参加させてもらったり、facebook上で友達が質問したことに対して勝手にけっこう調べて回答したり…ということをして、細々と質問に答えてきた。

で、どうしてそういうことがしたいと思ったかというと自分にとって楽しいからというのもあるけれど、要は嫌なのだ、何らかの情報を知りたい人とその情報が出会えないのは。それでどうして私が強くそう思うかというと、大学図書館勤務時代に、もっと早くこの人に出会って、もっと早く調べ方を伝えたかったと心底思ったことがあるから。
 
大学図書館に来る人のうち、サービスの盲点となるのが、社会人学生、なかでも社会人院生である。学部生には大学も気を使って時間を割り当ててレクチャーする場合もあるし、こちらもそういう気構えで接するのだけれど、社会人や院生の場合、大学も図書館側も、学部生ほど手とり足とりは教えない傾向がある。しかしこれがとんだ落とし穴で、社会に出ていた数年の間に調べる手段は進歩したにもかかわらず本人はそれを知らないから、検索方法の知らなさでは新入生と変わらなかったりする。

あのときも、院生さんの熱心に調べている様子やすでに調べた量から、ふむふむこれくらいまで分かっているようだから次はこの調べ方を紹介しようかななんて思って会話していたら、なんだか話があわない。どうもおかしいなと思って、そして徐々に冷や汗ものの、もしやという怖れとともに、このサイトって使ったことありますか?と尋ねながらNACSIS Webcat画面(現
CiNii Books。今はカーリルとかもあるけど大学で研究することに特化するならCiNii系の方が使い勝手はよいと思う)を出して、これはこういうサイトである本を持っている大学図書館が横断検索できて…と紹介しはじめたときの、沈黙。


沈黙のあとで、おじさん院生さんは、絞り出すように、 

「…私は…今まで…いったい…どれだけの時間を無駄に…」

と言った。

つまり彼は、たくさんの大学図書館を一括で検索できることを知らずに、欲しい資料を持っていそうな図書館に目星をつけては一館一館検索していたわけだ。

私が人の調べものの相談にのるのが好きなのは、結局あの声が忘れられないからだと思う。

効率よく生きることがすべてだとは思わないけれど、単に情報を得るということに関して言えばやはり早い方がいいわけで。情報を得てから考える時間は学者としていっぱいとった方がいいけれど、資料集めに尋常ならぬ時間、それこそ考えたり書いたりする時間を削るほどの時間がかかっては元も子もないわけで。

古書店の横断検索、様々な貴重資料のデジタル公開、フランス国立図書館の資料が(著作権などの条件はあるにせよ)かなりの量ネット上で公開されており、音声朗読も聞けること…すでに実現しているサービスは、そのサービスを必要とする人に驚くほど知られておらず、それを知らせる教育・普及活動も満足に実践されてはおらず。

そういう状況のなかで、私のすることはささやかだけれども少なくともあと一人ほぼ同じ志で活動している人を知っているし、そうして少しまた少しいろいろな場所で魅力的な個の活動が増えていって、かぶさりあいながら世界を浸食していけばいいと思っている。



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