課題紹介①スポーツドラマ
2月から、本科・単科で実施した課題を月に1つか2つ、紹介していくことにしました。研究室の作文講座がどんなものかをお伝えするため、そして、ひょっとしたら学童保育などの場所で作文指導をやってみようかと思っているかたのために、ベーシック課題を公開することにしました。
作文を楽しむきっかけになればうれしいので、課題を試しにやっていただくことは大歓迎です。ただし、研究室の課題を「自分の考えたものだ」として販売・転用することはお控えください。
では早速、1月に実施した課題から、自分の体験をドラマチックに描く課題を紹介します。
講座では、返却する作文に、課題のねらいと働きかけの例を書いたものをつけしています。まずはその課題説明文を…。
課題紹介①スポーツドラマ
今年はオリンピックイヤーですし、運動中の自分の姿を見せてもらいたいなと考え、実施しました。
講座ではいつも言うことですが、場面を描くときは「人・時・場」を見えるように書くことがポイントです。人の体格、髪型、服装、表情、ひざや手首の動き、声の響き。その場にいた書き手にとっては当たり前のことでも、読み手は違います。「どんな」人なのかを、スケッチするように書き手が言葉に置き換えなければ、読み手の方は「そこに今いる人」を思い描けません。
時や場も同じです。冬らしさを感じさせる風の動き、空の色、体育館の床の感触、運動場の土ぼこり。意識しなければ文中に入らないそれらを、書き手が「入れてみよう」と心がけることが必要です。
そのためには、導入時に指導者自身が「見せる・感じ取れる」言葉で自身の体験を語語るようにします。受講者は指導者の言葉に近いものを選ぶことが多いので、指導者が「痛かった・怖かった・悔しかった」と感想の言葉ばかり口にしていると、受講者の書く作文も、同じような感想の言葉ばかりになります(臨場感は薄れますね)。だから、感想ではなく「見せる言葉」を多用して話すといいのです。
作文指導は、導入が最も大切です。もっと言うと、導入時に用いる指導者の言葉が最も大切です。課題説明文にある3つのポイントを書き手に留意してもらいたければ、導入時に例として「私の体験」を語るとき、留意ポイントを「やって見せる」といいのです。スローモーションで書いてね、だけでは伝わらないので、実際にスローモーションで、自分が「振り返る」シーンを体で示し、言葉でも示し、「私の大失敗再現ドラマ」を臨場感たっぷりに「見せて」いきます。誇張、強調、演出、存分にやってみるとより楽しくなります。
人の(先生の)失敗っておもしろいから、みんなにやにや、あるいは「ダメダメ」と止める顔で私の再現ドラマを見て・聞いてくれます。その顔がうれしくて、私は調子に乗って次の「スポーツ大失敗ドラマ」を披露します(そんな例は運動音痴の私にはいくらでもあります)。
身振り手振りで「描きたいところ」を見せ、言葉にし、そして「あなたのドラマも教えてよ」と促します。その頃にはみんな、自分が主役の「ある場面」を思い描いています。見せどころは動作を細かく切ってスローモーションのように見せる、ということはもう導入時の私の体の動きでわかっていますから、それを用いて自分の「大成功・ヒーロードラマ」を書き始めます。私は失敗ドラマなのに、なぜかみんなは「かっこいい自分」のほうが多いんですよね。読み手としてはわくわくできていいのですが!
過去に何度も描写課題に取り組んだ人は、今回も臨場感たっぷりに描いてくれました。バレー部の高2男子、練習で初めて理想のアタックができたときのことを書いてくれました。トスが上がるところから、走り出し、歩幅、体が浮きあがる、腕の振り下ろし、全ての動作を分解して、細やかに言葉にしてくれました。細かな動きの描写は、その瞬間を読み手に見せるだけでなく、彼の練習への集中度の高さも同時に表していて、読み手の私は彼になりきって、アタックを決められた気分になりました。
テニスを始めて間もないの中1女子。初めての練習試合で、強い相手とあたってしまったときのことを書きました。緩急がうまくつけられていて、目にもとまらぬっ速さで体の横を抜けていった相手のサーブと、自分がなんとか決められたリターンエースを中心に描きました。体のこわばり・相手のボールの重みを感じさせる描写が見事で、試合後「もっとうまくなるんだ」と顔を上げた彼女の姿が心に残る文章でした。
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うまいとかへたとか、すらすらとかを求めても表現力は磨かれません。スポーツと同じで、何度も繰り返して、試して、効果を確認して、ようやく少し身につくのが表現力です。「やってみる」のが一番大事。これからも機会を設けていきます。
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