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2021年10月に発表された幼児吃音臨床ガイドラインを参考に、子どもの吃音についてどう対応していけばいいのかをご紹介するシリーズ。今回は「吃音が出始めてから5歳頃までに、ご家庭でできること」のご案内です。

なお、この記事はガイドラインを参考に、臨床に携わる中で身につけた私の意見も含めて書いています。

子どもの吃音の治療法

今回のガイドラインで、推奨される治療法として「リッカムプログラム」「DCM」が指定されました。私のオンライン相談室ではこれらを年長さんに実施しています。なぜならこの治療法は5、6歳頃に実施すると効果が出やすいと言われているからです。

従って、3歳や4歳の段階ではまだ導入できません。3−4歳のお子さんの場合、ご家庭で環境調整をしていただきながら、それがうまくいっているかどうかを言語聴覚士が定期的フォローする、という方法が望ましいと思います。

子どものための環境調整

環境調整の基本姿勢は、「子どもの吃音に気がついても気にしない」というスタンスです。保護者の方には以下のことを実践いただくよう、お願いしています。

①話し方のアドバイスをしない

親はついつい「もっとゆっくり言ってみて」「ちょっと落ち着いて話してみようか」と、「吃音が出ないような言い方」を求めるアドバイスをしがちです。しかし、吃音は決して「ゆっくり言ったら治る」ものでも「落ち着いて話したら治る」ものでもありません。従って、このアドバイスは意味がないということになります。また言い換えれば「吃音が出ている状態の子どもの話し方を認めない・許さない」ということにもなりえます。もちろん、否定するつもりで「ゆっくり」などのアドバイスをする親御さんはいないと思いますが、このアドバイスがお子さんの話し方を否定することにつながることを覚えておいてください。正しい対応は「吃音が出ていてもその子の話を聞いてあげる」です。

②話の先取りをしない

吃音が出ている最中のお子さんは、親からすれば「かわいそう」「苦しそう」に思えてきます。ですが、話している最中の本人はほとんど気にしていません。なぜならその子にとっては吃音が出る・出ないよりも、大好きなお父さん、お母さんに自分の話を聞いてもらいたい欲求が優っているからです。

親は助けたい一心で、子どもの言いたいことを先取って、代わりに言ってあげようとしてしまいます。しかしそれは子どもの「したい気持ち」を否定することになります。だからこそ、言いたいことは最後まで話させてあげてください。

③不安な顔や気持ちを表さない

子どもがどもりながら、言いたいことを言えずに終わってしまう状況を、にこにこ笑って見ていられる親御さんはいないでしょう。でもそこで不安な顔をしてしまったら、敏感なお子さんはそれを感じ取ってしまい、自分の話し方が悪いのだと誤った認識を抱いてしまいます。たった3歳でも、空気の読める子はいます。

だから、お子さんが「話すの楽しい!」と思えるよう、お父さん・お母さんもゆったりした気持ちで聞いてあげてください。吃音が出たことを叱るのは論外ですが、心配しすぎるのもよくありません。「5歳までには多くの子どもが自然に治るし、治らなかったら治療プログラムがある」と、どーんと構えて、今は、3歳・4歳のその子しか話せないその子の気持ちを、一緒に楽しんでください。子どもはあっという間に大きくなります。大きくなってからふと振り返ったとき、子どもの話し方を心配しながらはらはら子育てしていた記憶しかない、といったことになれば、その方が取り返しがつかないですよね。

専門家の皆さんへ

「吃音は難しい」「治せないものの対応はできない」と、逃げ腰にならないでください。上記のようなアドバイスを数ヶ月に一度でもいいのでリハビリ面談で繰り返しながら、吃音がどう変化していくのかを見守るのは、言語聴覚士であれば誰でもできます。

「でも5歳までに治らなかったら?」

そのとき、自分がリッカムプログラムやDCMができないとしても、できる人に紹介すればいいだけのこと。私はオンラインで吃音臨床にあたっていますし、同じようにオンラインで吃音対応をしている言語聴覚士がいます。「うちではできないけれど、こういう方法もありますよ」と、次につなぐこともまた、立派なフォローのひとつです。


「様子をみましょう」=放置にしてはいけない

ついつい使いがちな「様子をみましょう」という言葉。それは、「適切な対応をしながら経過を追う」という意味で使われるべきです。3歳で吃音が気になったなら、上記のような環境調整をしながら、少なくとも半年に一度は言語聴覚士につながり、自分の対応の仕方が合っているのかどうか、子どもの言語力はどの程度育ったのかを専門家に確認してもらいながら、ともに「様子をみて」いきましょう。


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