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連作短編小説「あたたかなおうち」

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ひとり暮らしをしている「みみちゃん」が選んだアイテムたちの、とても短くて小さな物語を公開しています。
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#花

いちりんざしさん

玄関右横にある洗面台のちょっとしたスペースに私はいる。 私のほかには歯ブラシさん、歯磨き粉さん、綿棒さん、ヘアオイルさん。 しゃこ、しゃこ、しゃこ。 みみちゃんが歯磨きをしながら洗面台にやって来た。 みみちゃんは「歯は臓器」だと言って、いつもお口のなかを丁寧にケアしている。 歯磨き、うがい、歯間ブラシ、またうがい。 みみちゃんの歯はみみちゃんの顔とお口のサイズにちょうどいい大きさで、白くて並びもきれい。 歯磨きタイムを終了して、みみちゃんは洗面台の

ハッピーフラワー

お店を出たらサーモンピンクと水色のグラデーションにおり上げられた夕空があまりに美しくて、私は思わず「きれいだね」って声に出してしまいそうになった。 もうすぐ夜をむかえる夕方の空気は、りんと冷たくて心地いい。 私はあなたとおうちを目指してゆっくり道を進んでゆく。 リードを付けておさんぽするワンちゃん、とおくをゆく千鳥、公園、立ち飲みできるちいさな酒屋さん。 ああ、いいなあ。平和でやさしい日常のために時間がちゃんと流れている。 やわらかな風があなたの前髪をさら