関口

小説を書きます、逃げも隠れもしません。

関口

小説を書きます、逃げも隠れもしません。

最近の記事

ダンス

 彼女は死を選ぶ直前、僕にどうしたらいいのかと尋ねてきた。どうすればいいかなんて聞きたいのはこっちの方だったし、彼女もそんなことはわかっていた。彼女のそういう嗅覚みたいなものが、僕はとても嫌いだったし、少し好きだった。    だいじなことも    どうでもいいことも    ぜんぶわすれて    ダンスしようよ    ワインをあけて    音楽をかけて    つきの明かりで    ダンスをしようよ

    • 頭寒足熱と私

       「頭寒足熱」という言葉を母親が好んで口にしていた。頭部を冷たく冷やし、足部を暖かくすること。また、その状態。このようにすると健康によいとされる。新明解四字熟語辞典より。辞書の「また、その〇〇。」という文句はクセになる。  学生時代には母親が足を温めるストーブを用意してくれたり、暖房の温度を勝手に下げてくれたりしてきた。そのせいで今でも勉強や作業をするときは頭が冷えていないと落ち着かない。  今、親元を離れ雪国で独り暮らしをしている。畳の床にこたつ、積まれた文庫本、ノート

      • 辻という友達

         辻という友人がいる。彼と知り合ったのはちょうど私の意識がはっきりしてきたころだったので、彼とは生涯を通して友人である気がする。(或いは彼が私に意識を与えたのか。)    原付に乗りながら彼のことを思い出す。通い慣れた道を運転しているとき、大事なことや些末なことが次々に頭の中に浮かんでは消える。ちょうど夢を見ているときに似ている。あとには「なんとなく大きな出来事が存在していた」という入れ物だけが残る。  彼の視点には、雑味のない都会の感じがある。冷たい風が吹く都会