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天翔け地駆けの者ども

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大昔に書いた小説です。新興国に侵略され人質となった王女。その王女に接触すべく旅をする従者。そこから始まる出会いと戦い、空を翔ける者たちと地を駈ける者たちの、交錯する物語。
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記事一覧

第一章 スイッチ・オン

 どちらかといえばまだ若い緑の色が勝っている、春の終わりの小さな森だった。  木々に囲ま…

Mel
4年前
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第二章 芝生と月光

 話は前日の夜に遡る。  自室の窓辺に腰掛け、濡れたような夜の闇を見遣るロロディアの背後…

Mel
4年前
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第三章 密航

 もらったばかりのサジェンタからの手紙を丁寧に折ると服のポケットに入れて、リリュレは朝の…

Mel
4年前
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第四章 災難

 トーデの船着き場にひとり佇み、リリュレはちょっと困惑した様子で、たっぷりと揺れるエミル…

Mel
4年前
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第五章 ひとでなし

 さて話はまたすこしだけ時間を前に遡る。  うす暗がりの中ぬっと出て来た男の姿にしばらく…

Mel
4年前
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第六章 ナイトたちの夕食

 夕食には少し早いせいか、宿に併設された食堂はがらがらに空いていた。  リリュレとアルソ…

Mel
4年前
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第七章 案ずるより

 からっぽな夜道を、ただ月の光をあびて、三つの影がするすると進む。   盗賊船から売り飛ばされたふたりの王女は、少し行った、さっきよりさらに淋しい小さな入り江から、ほんの小舟に乗せられた。ひとが一人長い棹を使って進む程度の葉っぱのような舟だ。  二人が乗り込む前からその舟には数人の娘がもう乗り込まされていた。ロロディアそしてミュゼルが舟に上がってしまうと音もなく、岸からそれはするりと離れた。ロロディアを連れてきたマントの姿は舟が湖面に漕ぎ出すのを見届けると身を翻して岸から離れ

第八章 誓い

 結局イゾルになだめられまくる形でふたりの王女はしぶしぶヴァナロッサの船に舞い戻ってきた…

Mel
4年前
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第九章 災難ふたたび

 「アルソル。アルソルいるか?」  宿の自室の寝台の上に座り込んでむずかしい顔で地図を眺…

Mel
4年前
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第十章 夢の女

 板張りの廊下をイゾルより半歩先に歩きながら、ヴァナロッサはやれやれと言った顔でひょろり…

Mel
4年前
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第十一章 大通路

 涼しい、ということばがすうっと頭の中を駆け抜けていった。  ロロディアは目を開き、閉じ…

Mel
4年前
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第十二章 女優

 すでに浅く日は落ち、夜の闇が街中を覆い尽したばかりだった。  大きな宿場街であるそこで…

Mel
4年前

第十三章 デビュタント

 その夜も彼はまたいつもと同じ夢を見た。  夢のはじめでは、そこに現れるのはベージュ色の…

Mel
4年前
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第十四章 ほとりの記憶

 すでにヴァナロッサ船はメルッカ船をあとに残し、波頭輝くエミル湖の上を、滑るように疾走していた。船内は、後片付けや怪我人の治療などでごたごたとざわついていた。船長室にはヴァナロッサ、イゾル、リリュレ、アルソルヴェの四人がいて、アルソルヴェは上着をすっかり脱がされ上半身裸にされてイゾルから肩の治療を受けており、ヴァナロッサはいつものように椅子にどっかりと座って机に片ひじをつき、そしてリリュレは妙にはしっこの方に座ってなんだかしおらしく、少々しゅんとしているようにさえ見えていた。