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小説「最果ての季節」

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❏掲載誌:『役にたたないものは愛するしかない』 (https://koto-nrzk.booth.pm/items/5197550) ❏楢﨑古都(https://linktr.…
学生時代にとある公募で一次審査だけ通過した小説の再掲。 まさかのデータを紛失してしまい、Kindl…
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#創作

019「最果ての季節」一輪の白いガーベラの花のエピソード

 一輪の白いガーベラの花のエピソード。  ちらほらと館内から人がロビーへ出てきていた。映…

楢﨑古都
4か月前
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017「最果ての季節」わたしは四時の最果てを見てしまっていた。

 ひとはね、名前のないものを怖がる生き物なのよ。山が最初からそこにあったんじゃないの。ひ…

楢﨑古都
5か月前
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016「最果ての季節」わたしはますます、四時にそっくりになったでしょう

す ふいに、柁夫の頭がわたしの左肩にもたれかかった。持っていた缶コーヒーが手の中で波打つ…

楢﨑古都
6か月前
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015「最果ての季節」あなたを許してあげるわ。

 草原にひかれた一本のハイウェイ。  ひた走るバンの窓からは、乾いた風が男の白髪をなびか…

楢﨑古都
6か月前
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014「最果ての季節」ここにある光をみんな集めてみたくない?

「紗奈子は、四季さんになりたがっていただろ」  それは、考えてもみないことだった。 「おま…

楢﨑古都
6か月前
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013「最果ての季節」台詞数の少ない、褪せた映像のロードムービーが始まっていた。

「どうして、そんなに情けないのよ」  映画はとっくに終わっていた。  交替を済ませ、見当た…

楢﨑古都
6か月前
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012「最果ての季節」そのうちわたしにも四時の見ている世界が見えるようになるのではないか。

 焼けた素肌は目尻に一筋の皺を刻み込み、細見だったからだは引き締まった胸板と肩とを目の前に構えていた。首から提げた二眼レフカメラは、当時まるでとってつけたような付属品に過ぎなかったのに、いまでは確かに位置を得るようになっていた。

011「最果ての季節」特に乱れてもいない半券の束を整理し直した。

 わたしは、路地裏のあまり流行らない映画館で半券売りのアルバイトをしていた。薄暗い明りの…

楢﨑古都
7か月前
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010「最果ての季節」それは決して、滑稽なおままごとではなかった。

 四時と柁夫のいなくなった母屋は、時間が経つとともに平然さを取り戻していった。彼らのいな…

楢﨑古都
7か月前
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009「最果ての季節」飛び込んできた光景に、思わず吐き気がした。

 四時が柁夫を連れて出て行ってしまった朝、わたしと都子さんはその事実にしばらく気がつかな…

楢﨑古都
7か月前
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008「最果ての季節」紗奈ちゃんのほんとうのお母さんは、四季さんなのよ。

 二人は、そこでしばらくお互いの距離を測っているように見えた。柁夫のくちびるが四時のくち…

楢﨑古都
7か月前
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007「最果ての季節」暗闇を怖いとは思わなかった。

 その晩、わたしは昼間に居間で練習していてそのまま忘れてきてしまったリコーダーを取りに、…

楢﨑古都
7か月前
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006「最果ての季節」この世の中は所詮、見せかけにすぎないのかもしれないわ。

 つぼみが花を否定して、実になるの。りんごは地球よ。皮は地表、果肉はマントルで、種がコア…

楢﨑古都
8か月前
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005「最果ての季節」わたしの容姿は、あまりにも四時に酷似しすぎていた。

 お母さん。  都子さんを、そう呼んだことは一度もない。旅館の仲居さんたちも、女将さんか都子さんと呼んでいたから、それがあたりまえなのだと別段気にもとめなかった。  でも本当はそこに、都子さんの女としてのせめてもの意地があったのかもしれない。四時の子であるわたしに、彼女は自分をお母さんとは呼ばせたくないなかったのかもしれない。  いくら太陽の下にいても、赤くなるだけで焼けることのない皮膚。骨ばっていて、青く血管の浮きでる腕や腿。ふと気が付くと、都子さんはいつもわたしを見つめて