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小説「えむしたのこと」

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・文学フリマ東京37 (星屑と人魚2023秋冬号/https://bunfree.net/event/tokyo37/)  └ 「つむじ風と人魚」(マガジンは加筆修正前の原作で…
ルームシェアをしながら、歌い手活動をしている「明日」と「えむち」。明日の部屋の一輪挿しが枯れ、花瓶…
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#文学フリマ東京

【0024】えむしたのこと「明日ちょっと、えっちだった?」

「みんなが心配するから、隣でえむちまでそわそわしてるじゃん、おもしろーい」 「そんなとこ…

楢﨑古都
8か月前
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【0025】えむしたのこと「いつまでも終わりませんように」

 枠内で納まりがつくと思っていた常盤色化に対するバッシングは、匿名掲示板で執拗に書き込み…

楢﨑古都
8か月前
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【0026】えむしたのこと「どこまでも一緒に行ける」

 浅い眠りはいくつもの過去をないまぜにして、まるで新しい記憶を植えつけるみたいに、わたし…

楢﨑古都
8か月前
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【0027】えむしたのこと「さすがに指先がつめたくなった」

 Youtubeへ投稿するうたってみた録音のため、カンナさんにスタジオを一晩貸して欲しいと伝え…

楢﨑古都
8か月前
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【0028】えむしたのこと「わたしはここまで魅せられていなかった」

 カンナさんに曲名を隠しておく必要は特になかったのだけれど、なんとなく言いそびれたまま、…

楢﨑古都
8か月前
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【0029】えむしたのこと「わたしは、えむちとおなじ景色が見たい」

 匿名掲示板での誹謗中傷も未だ細々と書き込まれ続けた。普段顔出しをしていなくても、配信活…

楢﨑古都
8か月前
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【0031】えむしたのこと「眠気なんて、どこかに吹っ飛んでいた」

 眠気なんて、どこかに吹っ飛んでいた。  早朝の静けさは、ひとりまたひとりと目覚めてゆく街の物音をつぶさに拾いあつめた。建付けの悪そうな雨戸の開く、どこかで鳴りつづける目覚まし時計、シーツだろうか布団だろうか、ベランダではたかれているそばで幼い子が駄々をこねている。きっと、まだ眠り足りないのだ。スマートフォンを二の腕に巻きつけたランナーが走り抜けていく。まだ明けたばかりの低い陽のなか、薄紫色の夜が溶けていく。無数の光はそろりそろりと、いささか遠慮がちに日影を侵食した。