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私に起きた猫にまつわるちょっと不思議なお話 〜出逢いから進路変更〜

⑥手探りでの準備と出費に奮闘

さて、こうして私はほぼ勢いで猫と暮らすこととなりました。
ここから課題は山のようにありました。

まずは猫用品を一式揃えなくてはいけません。

数ヶ月だけ離婚前に猫と過ごしましたが、お世話の大半は元伴侶がしていたからです。絶対に必要だと分かっているのは猫用トイレとトイレの砂とキャットフードぐらい。
売り場に行くとかなりの種類のキャットフードに形が異なる猫用トイレ。
トイレの砂もたくさんあって、何をどう選んで良いのやら…
店員さんに手伝ってもらって何とかそれらを揃えて会計すると、まあ結構良いお値段…..
収入の少なかった私はビビりまくりでした。

今思えば、本当はケージも必要だったし、トイレも体の大きさに合わせて選んだ方が良かったし、ウエットティッシュもブラシもおもちゃもベッドも首輪も、キャリーバックもそうだキャットタワーも必要だったはず。
本当に無知だったなと情けなくなります。
ですが、この後も病院での健康チェック、ワクチン、去勢手術とドッカンドッカン出費していく事態に対応するのに精一杯でしばらく揃えられませんでした。
いえ、後に買ったのはおもちゃと首輪、そしてキャリーバックのみ。
結局ケージもキャットタワーもベッドも一度も購入することはありませんでした。

そしてさらに出費は続きます。
ペット可の物件への引越しをしなくてはなりません。
普段の収入は少なかった私ですが、幸いなことに離婚時の慰謝料が毎月少しづつ振り込まれていました。
これを使ってしまうといざという時の命綱がなくなってしまう危険はありましたが、今も割といざな時だと腹を括り、もう少し金額がまとまる時期を計算して引越しを計画し始め、さらに自分の生活を意識して節約し始めました。幸い遊ぶ友人もおらず、仕事と家の往復しかしない毎日でしたから、食費を抑える、服を買わないなどの少しの工夫だけでした。

⑦やっぱり・・・「コテツ」?

引き取った子猫は生後およそ6ヶ月の男の子で、すこぶる健康でした。
初めて家に入れた時も怖がることもなく、私に擦り寄るほどの人懐っこさでした。
そして真っ黒な毛色にピンと長いしっぽ。よく鳴いて抱っこも平気。
私の知っている猫とは真逆でした。

唯一少しだけ一緒に暮らした猫は近寄ってくることもなく、一度も鳴き声を聞いたことがありませんでした。
飼い主の元伴侶でさえ抱っこ不可の猫でした。

もしかして今更ですけど、君はあの「コテツ」かな
もしそうじゃなくても、「コテツ」以外の名前がすぐには思いつけないよ。

もう名前はコテツで良いかな?これからよろしくね

そう話しかけると「にゃあん」と鳴いてくれた君。
私は妄想ビジョンのコテツに本当に逢えちゃったのかもと
思うと同時に何か温かいもので胸が一杯になり、わんわん泣いてしまいました。
例え妄想ビジョンの通りの猫に会ったからと言って、何かすごいことが起きるとか今の自分が好転する証とかではないのに、その時は何故か胸にとても温かいものが流れ込んできて、久しぶりの嬉しい涙が出たのです。
少し前まで辛くて悲しくて、涙も出なくなるほど泣いて泣いて、すっかり心も鈍感になっていたと思っていたけど、嬉しい涙はこんなにたくさん出るんだなとびっくりするほど泣きました。

ようやく気持ちが落ち着いた後、私を見つめる琥珀色のその瞳から漢字で「琥鉄」と改めました。

⑧思い込みでも原動力

こうして琥鉄との生活が始まると、自分でも不思議なくらい心が元気になっていくのが分かりました。
心が元気になると建設的に未来を考えることができるようになり、
消極的選択より積極的選択を選ぶ自分が生まれ始めました。
たかが猫1匹。
されどどんな言葉よりも私の心を回復させてくれました。
そのおかげで私は今いる土地を去り、住んでみたいと思う場所に動こうと決心がつきました。
お金の心配は全く消えたわけじゃないけど、どんな仕事をしてでもこの子のご飯代は稼ぐと思うと何でもやれそうな気がしました。
そこからは少しずつまともに食事を取れるようになり、体重も元に戻りました。
ただその日仕事をして寝るためだけに帰っていた家は、早く帰りたい場所になりました。
少しずつ楽しいという感覚が戻ってきた気がしました。

➈本末転倒

そして数ヶ月後、無事に新天地への引っ越しも済み、早速仕事探し。
引っ越した次の日に奇跡的に仕事が決まったものの、収入はギリギリっぽい
と思いきやいざ働いてみたらギリギリを下回ることが判明してしまいます。このままでは家賃も危ない貯金はもうない、今後の慰謝料の振り込みには頼れないのトリプルピンチになり、もう一つ仕事を掛け持ちし始めました。
当然毎日家に帰るのは深夜。
この時琥鉄とどう接していたか記憶にないほど無我夢中でした。
琥鉄のためにと言いながら、とにかくお金を稼がなきゃという思いで頭がいっぱいで本当に琥鉄の事を第一に考えていたとは到底思えない生活だったと思います。
そんな気持ちも体力も限界のような生活の中で、何度か何のために生きているんだっけ?もう生きていくのも疲れた。死にたいと思うこともありました。
そんな思いを払いのけてくれたのは紛れもなく琥鉄の存在でした。
この子を置いて行けない。

この頃から私が琥鉄に言い始めた一方的な約束があります。
「どちらかの寿命が尽きる日まで絶対離れずに一緒にいよう。何があっても手放さないし、何なら私は琥鉄を置いて先に死んだり絶対しないから」
琥鉄への約束というより、死にたいと思ってしまう自分に言い聞かせていた気がします。
そんなダメ飼い主の元でも琥鉄はスクスク育ち、いつしか体重は8キロほどになりました。
ありがたいことに病気もなく、家に帰ると必ずお出迎えをする、呼ぶと返事をしながら向かってくる犬のような猫になりました。

⑩進路変更

それから数年後、私は職を変えて収入が増え始め、生活苦からも抜け出すことが出来ました。
お陰で物理的にも精神的にも少しの余裕が出来始めました。
以前よりも琥鉄と過ごす時間も増え、友人もでき、毎日が楽しくなりました。もう離婚した時の心の傷も癒えてきたし、欲しいものも前より我慢せずに買える様になり始め、ようやく本当に笑えるようになったのです。
こうして何もかもが満たされている気がしたのですが、いつしか心の中までは満たされていないと感じるようになりました。
仕事は収入が良いけど好きでも嫌いでもありません。
仕事を掛け持ちしてもなお苦しかった数年前のようになりたくないと言うのが今の仕事をする理由でした。
そのかわり、前にはなかった仕事での大きなストレスを抱えるようになり、
休日に友人と遊んで、物を買ってそれを発散するというのを繰り返す日々でした。
楽しいけど満たされない。どこか虚しい感覚が残るのはどうしてだろう。
昔よりかなり良い生活が出来ている訳だし、これ以上何か望むのは贅沢すぎる気がしましたが、クローゼットの中に物が増えれば増えるほど、友人とあちこち行けば行くほど心の中が満たされていないという感覚が強くなってしまいました。
あれ?どうやったら心の奥まで満たされるのかな?
そもそも今まで心の奥まで満たされるという感覚、体験したことあったかな?心の奥まで満たされてみたいな。
そんな思いが湧き始め、段々と自分がどう生きたいのか悩むようになりました。

その頃から親からは幾度となく再婚するようにと促され、終いには孫の顔も見せない親不孝者と泣く声にうんざりして電話を切るというやりとりを繰り返していました。
私はもう結婚もしたいと思わないし、そもそも子供を産みたいと一度も思ったことがありませんでした。
こういうとすごく打算的ですが、前の結婚も元伴侶が子供は欲しくないと言い切る人だったことがかなり大きな決定打でした。
結局それ以外のところが壊滅的に合わず、離婚したのですが。
だからこそ私の中では子供が欲しいと思えない=結婚はあり得ないと改めて思っていたので、親に再婚を催促される度に自分の考えを丁寧に説明するも、全く理解してもらえませんでした。

これから先私一人で、いや琥鉄と二人で心も満たしながら、親の要求を回避しながら生きていくにはどうすれば良いんだろう。
かなりの時間ぐるぐる考え、ようやく出した答えは手に職をつけるということでした。
仕事をしながら技術を学び、いつか独立をすること。
専門職なら今の私の雇用形態(派遣)をよく思わない親も少しは黙るかもしれない。
再婚についてはこちらから一切連絡しなければいつか言わなくなるかもしれない。
そして手に職があれば、将来どこに住んでも琥鉄と暮らしていけるかもしれない。(その上、親からの物理的距離をもっと取ることも夢じゃない)
そうしたらもう琥鉄の側で仕事が出来るようになるかもしれない。
もしかしたら仕事でやりがいを感じ、ストレスも少なくなるかもしれない。
自分の作ったものを手にとって喜ぶ誰かの顔を見られたら、例え今より収入が減っても心は満たされるのかも知れない。

そんな考えがようやくまとまってきて、少し希望が見えた気がしました。

この事を当時親しかった職場の友人たち(だと私は思っていた)に話したところ、ことごとく反対されました。

何を今更
そんなの無駄
そんなことより子供産むタイムリミット気にしろ
趣味でいいじゃん


などなど。
色んな事を言われ少し凹んだりもしましたが、
逆に私のやる気に火が着いた言葉は、

女には無理だよ
てゆうか女は結婚したら養ってもらえるんだから気楽で良いじゃん
早く結婚したほうが良いよ
そろそろ独身はやばいんじゃない


のコンボでした。
この言葉への悔しさが後押しとなって、私はなんの迷いもなく次の進路に大きく舵を切ることが出来たのです。



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