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【新古今集・冬歌13】時雨と涙

しぐれつつ袖も干しあへず足引きの
山の木の葉にあらし吹く頃
(新古今集・冬歌・563・信濃)

(訳)
何度も降る時雨に
袖も干してはいられないよ
この足引きの
山の木の葉に
激しい風が吹く頃は

 あなたは何度も降る時雨のせいで袖が濡れたままだって主張する。でも雨が降る中出かけて舞でも舞うの?
 そんなはずはないでしょう。あなたの袖が濡れているのは時雨の他に理由があるはず。きっと時雨のふりをした涙がこぼれているのです。

 どうして泣いているの?

 そう聞かれたらあなたは木の葉が空へ行ってしまうからと答えるでしょう。山の木の葉に風吹きすさび、染まった木の葉が飛んでいく。

秋風に山の木の葉のうつろへば
人の心もいかがとぞ思ふ
(古今集・恋歌四・714・素性法師)

(訳)
秋風に吹かれて
山の木の葉が
色づき、変わっていくと
人の心なんてものも
どうなのかしらと思ってしまう

 秋から冬へ。風は嵐に。染まった木の葉は空に飛ぶ。
 色が変われば心も変わる。それなら木の葉が枝を離れたら?
 きっと変わった心のまま、その人はどこか遠くへいってしまうことでしょう。
 だからあなたは泣いている。
 あらし吹くたび時雨れてる。



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