7月7日 七夕に吹く風

 七夕だ。『新古今和歌集』にも七夕の歌は多く並ぶ。

星合の夕べ涼しき天の川もみぢの橋を渡る秋風(権中納言公経)

 公経は、後に承久の乱をきっかけに立場を得て莫大な富を築いた藤原公経。金閣寺の前身となる西園寺を建立したことで西園寺家を名乗るようになった。

 七夕の二星の光。秋の夕べ。天の川。秋風。
 涼感が圧をかけてくる。だが「もみぢの橋を渡る」とは何だろう?平安時代のみんなは「あれのことね」とピンと来たのか?

 来るのだ。『古今和歌集』に詠み人知らずの次の歌がある。

天の川もみぢを橋に渡せばやたなばたつ女の秋をしもまつ(古今集・175)

 牽牛と織女はカササギに橋渡しをしてもらったり、渡し守の船に乗せてもらったりして天の川を渡る。だがそれ以外にも方法はあるらしい。今掲げた『古今集』の「天の川」歌は、渡河の手段としてもみぢを川に敷き詰め、橋と化す。

 公経はこの発想を借りたのだ。だが橋が架かるのを待ち望んだ織女の健気さはどこへやら、公経歌で渡るのは秋風。ならば牽牛と織女はどこへ?

 無論、もう出会っている。一句目に「星合」とある。織女は待ち望んだ紅葉の橋を渡り、牽牛と再会している。
 再会した2人に吹く涼しい秋の風。それは短い逢瀬の終わりを告げる風だったのかもしれない。

《現代語訳》
織女と牽牛が出会う
この夕べ、涼しい
天の川に
架けられた紅葉の橋を
吹き渡る秋風よ



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