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【玉葉集】6 春霞

春霞かすみなれたるけしきかな
睦月も浅き日数と思ふに

(玉葉集・春歌上・6・藤原為子)

春の霞
なんだかすっかり 霞むのに慣れてしまった
この景色だねえ
睦月に入ってからまだほんの少しの
日数しか経っていないと思うのに

 藤原為子は京極為兼のお姉ちゃんだ。京極派の有力歌人でもある。弟に理解を示し共に歩むお姉ちゃん。
 そんな存在が現実に存在したのか。
 名前を「ためこ」と読むとのび太のママっぽくて実に良い。しかし「ゐし」の方が人に伝わるようだ。

 歌は旧暦の一月に入ってすぐの景色を詠んでいる。現代で言えば2月上旬頃だ。

 「かすみなれたる」が目を引く。独自の言葉かと思ったがそうでも無いらしい。為子と同時代に生きて共に京極歌風を深めた伏見院にも次の歌がある。

空寒きまだ初春の夕月夜
いつより影の霞みなれけん
(伏見院御集)

 他に同時代の関東歌壇の武家連中もこの言葉を使っている。インフルエンサーがいたのだ。誰がそれかは決定できない。この時代に関東歌壇と京極派の人々が好んだという事実だけが残る。

 為子の歌は流行に乗っただけの歌だったか。
 そうではないだろう。「春霞」と「かすみ」。「けしき」と「睦月」と「浅き」。韻を踏んだようなリズムには作為を感じる。

 流行とリズムを操って自らの歌を詠んだ。それが京極派の女傑・為子の春霞詠だ。

 

 

 

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