【玉葉集】14 ウキウキ若菜
夜もすがら思ひやるかな春雨に
野辺の若菜のいかに萌ゆらん
(玉葉集・春歌上・14・具平親王)
詞書には「春夜、雨の降り侍りけるに」とあります。夜ですから邸の中にいるはず。しとしとと柔らかく降る雨を音で感じていたことでしょう。
歌に句読点を振ってみます。
夜もすがら思ひやるかな。春雨に、野辺の若菜はいかに萌ゆらん。
「夜もすがら思ひやるかな。」
一晩中思いを馳せていた自分に感動しちゃってます。数寄にのめり込んで一睡もしなかった自分。そんな自分が好きなのかな。
「春雨に、野辺の若菜はいかに萌ゆらん。」
雨は野の草木を育てます。それは実に自然な感覚という気もします。ただ有名な前例があるので脳裏をよぎったかも知れません。
我がせこが衣春雨降るごとに
野辺の緑ぞ色まさりける
(古今集・春上・25・紀貫之)
あの人が
衣を広げるような、ふわり 春雨
一雨一雨降るごとに
野原の草木にまかれた緑は
次第に次第に色が濃く
梓弓おして春雨今日降りぬ
明日さへ降らば若菜摘みてむ
(古今集・春上・20・よみ人知らず)
梓弓を
押す、そのように辺り一面、春雨
今日、降った
明日までも 降るならば
若菜を摘みに行くとしよう
露が紅葉を染め時雨が紅葉を散らします。水は季節を動かすようです。そして春の水は命を支える水でした。春雨は草木に成長をもたらしたのです。
具平親王はそれを十分に知っていました。だから雨の音に心を浮かれさせたのです。柔らかく降る夜半の雨に摘むべき若菜を思って。
一晩中
眠れず思いを馳せてしまったよ
しとしとと降るこの春雨に
野原の若菜は
どれほど萌え出たことだろう
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