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【新古今集・冬歌9】赤い涙と山嵐

木の葉散る宿に片敷く袖の色を
ありとも知らでゆくあらしかな
(新古今集・冬歌・559・慈円)

 「片敷く」は独り寝の象徴だ。

さむしろに衣片敷き今宵もや
我を待つらん宇治の橋姫
(古今集・689)

 恋人が来るのを待ち続ける橋姫の振る舞いも「片敷き」だった。

 慈円の歌でも橋姫のように誰か待つ人がいるのかも知れない。待ちつつ裏切られているのかもしれない。「片敷き」にはそういう雰囲気がある。
 故に袖が染まる色は紅である。悲嘆を抱き紅涙を流しているからだ。涙で袖を紅葉と同じ色に染めている。

 木の葉を散らす嵐はそんな袖の紅葉に気づかない。外にあり目立つ赤だけ刈り取っていく。そうして騒がしく過ぎ去っていく。

 無骨で自分勝手な男のような嵐だ。

(訳)
屋根には木の葉が散っている
その宿の中に 独り 衣を広げて
私は血の涙を流す その色に染まる袖
そんなものがあるとも知らずに
木の葉ばかりを吹き飛ばして去って行く 嵐


 

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