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伊勢物語74 恨む男と桐原書店①

1,本文と解釈

 昔、男、女をいたう恨みて、
   岩ねふみ重なる山にあらねども逢はぬ日おほく恋わたるかな

《語釈》

●女
 斎宮関係かそうでないかは分かりません

●恨む
 マ行上二段活用動詞。四段動詞と誤りやすいのでテストによく出ます。
 『日本国語大辞典』によれば

1,自分の思い通りにならない物事やその状態などに不満を持ち、悲しく思う。
2,憤りの気持を口に出す。当の加害者に不満を訴える。

という意味があります。素直に1で取り「不満を持ち悲しく思う」としましょう。現代語の「恨む」を使って訳すのでかまいません。

《和歌》

(詠み手)男
(対象)女
(心情)恨み
(内容)
●岩ねふみ重なる山

 「岩ねふみ」は微視でしょう。足下の道が岩を踏み越えていかなくてはならない険しいものであることを言います。
 「重なる山」は巨視でしょう。前述のような道をたどっていくつも山を越えねばならないことを言います。


●にあらねども

 「ではないが」。この主語は「あなたは」と「あなたと私の間は」の二通りの可能性があります。
 前者であれば「あなた」そのものに問題が無いことになり、「あなた」を恨む理由が消滅します。
 後者であれば「間」には障害がないのに逢えないことになります。だから「あなた」そのものが恨みの対象となります。
 後者の「あなたと私の間は○○ではないのに」を採用しましょう。


●恋ひわたる

 「わかる」は補助動詞で「~し続ける」の意味です。


《現代語訳》
 昔のことでございます。
 例のあの方はとある女性をそれはそれは恨みまして、歌を歌いました。
   岩積まれ山が重なるわけもなしでも君に逢えず恋は止まらず



2,○○になりきったつもりで、心の中のつぶやきとして現代語で表現してみよう。

 今回からは桐原書店の『探求 言語文化』のガイドを手がかりにALをデザインしてみましょう。・・・ええ、「デザイン」という言葉を使ってみたかったんです。

 『探求 言語文化』では「活動」という名で各文章ごとに指示が設定されています。最初は「児のそら寝」の児になりきったつもりでつぶやきを現代語で表現してみよう、という指示でした。
 役になりきって心情を掘り下げるという意味ではホットシーティングにつながる方法ですね。

 これを『伊勢物語』七四段でやってみます。男の心情をうかがわせるのは「いたう恨みて」しかありませんのでこれでいきましょう。

 一般に「心情」は

①ある状況で
②何かの出来事が起こり
③心情が発生する

と整理できます。ここでは①、②を創作して③「いたう恨みて」につなげます。その上で「つぶやき」として表現してみましょう。

①ある状況

 斎宮の話が続いた後ですので、乗っかりましょう。「伊勢国では女と逢瀬を遂げ、その後再会の約束をしていた」とします。

②出来事

 王道的に「手紙を送っても返事が返ってこなくなった」とします。

③心情

 繰り返しになりますが、「男が女を恨む」です。

 以上をつなげると

伊勢国では逢瀬を遂げられて再会の約束まで交わしたにも関わらずその後の手紙に返信が無いことを恨んでいる

となります。これを「心の中のつぶやき」として表現してみましょう。


(つぶやき)
 どうしてだ?
 どうして君は手紙すらも返してくれないのだ?
 伊勢国では君から来てくれたじゃないか。あれだけの人目をかいくぐって私の所まで来てくれたじゃないか。
 その後に逢えなかったのは僕のせいじゃない。それはきっと君だって分かっているだろう。だからあの発句を童女に託して僕に届けさせたのだろう。
 僕は再会を約束した、きっと逢いに行くと告げたはずだ。君もきっとそれを待っているに違いないと思って。
 なのにどうして手紙をくれない?君に何かあったのか?
 何も分からない、分からないまま僕はこの気持ちを抱え続けるしかないんだろうか・・・。

 どうしても「説明」に堕してしまいますね。このあたりの難しさは脚本執筆時と似ています。脚本化・セリフ作成の前段階の練習としてやってみると良いかもしれません。

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