【新古今集】大和国と弓張の月
敷島や高円山の雲間より
光さしそふ弓張の月
(秋歌上・383・堀河院)
光芒。
薄明光線。
天使の梯子。
この現象に多くの呼び方があることは、それだけ人々に愛されてきたことを物語ります。雲間から地上にするりと繋がる光。
加えてそれが夜だったらどうでしょう。闇に沈む地上に差し下ろす清らかな月光。まるで夜空から地上を照らし出すサーチライトのよう。光を操り地上をのぞく誰かがいるのかな。
堀河院はその光を高円山に当てました。
弓張り月は上弦または下弦の月を言いますが、地上に矢を放つなら上弦の月が良いですね。「さしそふ」の「さし」に「射し」を響かせて、高「円(まと)」山に届かせます。的、射し、弓。月と光を弓矢に見立てて、さながら神々の弓競べ。
この神話的世界を導くのが初句の「敷島や」でした。「敷島」は堀河院の父祖が切り開いた大和国の都であり、大和国そのものをも意味します。旧都であり、日本の源流です。この言葉を使っているのは、遙かな古代世界を舞台とすることの宣言に他なりません。
堀河院は、旧都の世界にさしこむ月光を描き出します。それは伝説的な古代世界を舞台に、神代の弓が光の矢を放つ幻想の世界だったのです。
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