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【Day.15岬】鉄道員だって人間だもの【文披31題】

 とあるどこかのベッドタウン。その一地区を作る峰屋駅、から場所を移して海沿いの公園が今日の舞台である。

 「それではみなさーん! 今日は非番お休みのところ! 毎年恒例の新入社員歓迎バーベキュー大会にお越しいただきありがとうございます! 今年は、7月っていうバーベキューのシーズンにも関わらず、いつものバーベキュー場が改修工事で使えないということでね! 遠い場所になってしまったんですが、これだけの方に集まって頂いて本当にありがとうございます! それでは、マスター、乾杯の音頭をお願いします!」

 うちの職場の組合の偉い人である牛島先輩が挨拶をした後、駅長が乾杯の音頭をとる。今日集まったのは、新入社員3人含めて、全体で2~30人といったところか。今日も駅で働いている仲間ももちろんいる。その人達を抜けば、管区の人間の半分以上が出席しているそうだ。普段別の駅で仕事をしている人達も多く、三人はとりあえず固まって座っていたものの、かなり緊張していた。
 「お前、それはジュースか!」
 七緒が早速先輩につかまっていた。
 「あ、僕まだ18なんで……」
 「え、自分その見た目でまだ18なんか! ええー」
 「まぁとりあえず食べろ食べろ!」
 「今日は君らの会なんだからな」
 紙皿にはどんどん肉や野菜が積まれていく。減らしても増える、減らさなくても増える。

 「今年係長に昇進した吉良さんから、国産黒毛和牛のステーキ肉頂きましたー!」

 別の焼き場から声が上がる。
 「えっ、吉良係長って今年から係長だったんですか!?」
 向かいの席にいた汐置先輩に話しかける。二つ上の先輩だ。
 「そうだよー、去年まで私らと同じヒラ社員だったよ。七緒君の方がよっぽど係長に見えるよね~」
 「そうなんですよ。ここぞというときにそれが役立ちます。」
 「そうなんだ(笑) それならやってけてそうかな? 女子少ないけど……。」
 「ああ、大丈夫ですよ。女子が多いのも苦手なので……。」
 「それならよかった。あとは三宅君怖くない?」
 「あー、三宅先輩はまぁ、細かいなって思うことはありますけど……、まぁ私たちを思ってっていうのはすごく伝わるので……。」
 「べた褒めじゃん。虫嫌いじゃなければね、まだいいんだけどね、今日も虫に会いたくないからって仕事入れてもらってるらしいよ。」
 「そうなんですよ、虫嫌いで痛い目合わされましたもん私。」
 「そうか、もう経験してたかー。まぁ、何か気になることあったら何でも言ってね。聞くのは聞くよ。」
 「しげしげ先輩ってずっとあんな感じなんですか」
 「ずっとあんな感じです。あれはもうどうしようもないね。」
 「あー……、やっぱり。」
 「しげしげは来るとややこしくなるから今日は仕事入れられてる。」
 「三宅先輩と同期なのに対照的すぎる……。」
 「同期ってまぁそんなもんだよ、私の同期は乗務員行っちゃってもう久しく会ってないけどね。同期と言えば、牧田君さっきまでそこにいなかったっけ?」
 「あれ?」
 少し辺りを見回すと、マッキーは同期がいるこの卓から離れて、静かな卓で、缶ビールを片手にフランクフルトをほおばっていた。七緒が先輩方から集中攻撃を受けているから、巻き込まれないように離れておこうという魂胆だと思う。騒がしいところ苦手そうだし。それでも、会自体に顔を出すところはしっかりしていると思う。あ、先輩に見つかってる。なんか煽られてる? あ、二人とも新品の缶ビールを持った。一気飲み対決? うわー、お互いにそういうのやめときなって……。あ、マッキーが勝ったっぽい。マッキーってお酒強かったんだ。負けた先輩土下座してるやん。それを見た駅長が大爆笑してる。どんな絵面なんよ。吉良係長ステーキが回ってきたのでマッキーの分も食べておこう。 

 「おーい、しげしげの実家のソースの焼きそばできたぞー!」

 「ちょっと牛島さん! 牛島さんがマシュマロいっぱい買おうって言ったんでしょ? ちゃんと食べてくださいよ! え? 竹串がなくなった!? そのまま食べたらいいじゃないですか!」

 「余ったタレとか持って帰りたい人集合!」

 「集合写真、せっかくなので海バックで撮ります! だからまだ解散しないで! 帰らないで!」

 こうして、賑やかなバーベキューは幕を閉じた。

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