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詩「瞬間の延長」

胸のむかつきと窓から見える茶色の壁が 
おれの昨日までの価値を肯定し 否定し
重さと軽さをあいまいにしようと
鎮座しているのである。

おれは間違った世界で
おれは間違った味を舌にのせ
おれは間違った屋根に寝そべり
おれは間違ったうたを聴いていた。

手錠と足枷 おぼろな小鳥 一万人の中の気づかれない孤独

軒と軒の間からわずかに覗く雲をつかんで千切る少女が
原っぱを駆けていた。
おれはほとんど見えなくてもいいのである
そこにいるとわかってもらえる程度で
おれはかまわないのだ。
それにしても やあやあと軽やかにあいさつをしてから いなくなりたいとは まだ願う。

捨てられる前の紙切れ 冬の落とし物 気づかれないイカヅチ
空き部屋の垢 はじっこの暗がり 気づかれない訣れ

おれは影に握手をもとめているんだ
おれは枯れ木と笑っているんだ
おれは藪にかくれているんだ

ぽんと鳴るピアノ 赤子の手の湿り 
果てぬこどもの空     


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