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大迫傑が残したもの

TOKYO2020オリンピック最終日。男子マラソンが終わった。中村、服部両選手にとっては残念な結果であったが、一方大迫傑選手の見せた極上のパフォーマンスを胸を打つものがあった。感動をありがとう。

2017年のボストンマラソンで彼が初マラソンに挑戦して以降のこの4年間で、日本の男子マラソン界のレベルは劇的に上がった。僕はこのレベルアップの要因は、マラソンに対する心理面のブレイクスルーだと思っている。そして、そのブレイクスルーを誘引した2つの従属的要因があると考える。

一つは、いわゆるNIKEの厚底シューズなどハード面での技術革新。カーボンプレートの反発力による競技力向上に加え、厚底による衝撃吸収性の向上による、故障防止や怪我の不安除去ができたことが大きい。(もちろん、これは一定以上のレベルのあるアスリートに該当する事実で、そこに満たない場合、特に脚筋力が不足している場合には、新シューズの利点は活用できない。)

もう一つは、「マラソンの距離をビビらなくなった」と言う点。シューズの技術革新に加えて、「やれる」「できる」と言うマインドセットが広がった。そしてこのマインドセットの広がりの中心にいたのが大迫傑選手だと思う。

元来、日本の陸上界、中長距離界の中心には「駅伝」が位置づけられ、この駅伝で求められる距離が一つの基準値となり、そのスケールを遥かに超越するマラソンに対して、過度にビビり過ぎているように感じていた。僕自身はトライアスロンや市民ランナーとしての経験を通して、年に何度でも42キロを走ることできるし、そのようなアテンプトをしている競技者を数多く知っている。しかし日本のトップレベルはなぜか年に一度しか走れない、と言った過度にマラソンを恐れる風潮があったように感じる。

この風潮を打ち破ろうとしたのが、高橋尚子であり川内優輝。しかし、高橋尚子の場合は陸連の圧力で彼女の大いなる挑戦は潰されたし、川内優輝については実業団に所属していない市民ランナーの延長に位置付けられていたことから異端児扱いされ、ブレイクスルーに繋がるムーブメントを作ることができなかった。

そこに現れたのが大迫傑。中学時代から日本のエリート街道を突き進んできたが、早稲田大学在学中から海外を意識始め、これまでの駅伝ランナーとは一線を画すトレーニングの取り組み方を志向してきた。まさに長距離界のイノベーション。彼の存在にNIKEの技術革新とのシナジー効果も生じ、日本のマラソン界は彼の同世代を中心に大きく変わった。

2017年以降の4年間。大迫傑選手がマラソンを始め、NIKEが厚底シューズをはじめとする革新的なハードウェアを市場に投入した。この二つの事実が日本のマラソン界を変えた。もちろん、世界もエリウド・キプチョゲを中心に大きく記録を伸ばしていて、世界との距離は広がる一方。それでもようやく日本の中長距離界が前進する兆しを見せたことが嬉しい。大迫傑選手だけでなく、女子1500で驚異的パフォーマンスを見せた田中希実選手も同じ。彼らのような、これまでの日本の陸上界と訣別する新しいアプローチで挑戦して結果を出し続けるアスリートの存在がエンジンになって前進する。

ちなみにこの4年の間に大迫傑選手と彼が使用するシューズに誘発されたのが僕自身。彼の活躍を見て、シンプルに走ることの格好良さを感じ、2019年に19年ぶりにフルマラソンにチャレンジした。彼より20歳も年上で、比較にならないほど底辺を這いつくばるレベルだけど、言いたいことは僕のように、彼の姿を見て頑張ろうと思ったランナーは多いはず。競技人口の裾野を広げることが、競技レベルの山の高さを高くすることに繋がるはず。このことに大迫傑選手は大きく貢献した。

オリンピック6位入賞。ただし、過去のオリンピックと違って、明らかに競技性が増している中での入賞なので、入賞の価値が違うと思う。そして、彼の走る姿のもつ影響力がもたらす副産物も大きい。本当に偉大な選手だと思う。すでに本人は引退を口にしているが、第一戦での競技からは引退しても、まだまだ走ることは続けるはず。日本の中長距離会を変えた彼の今後から目を離すことが出来ない。

それにしても、とても素晴らしい今朝のマラソンパフォーマンスでした。(結果論かもしれないけど、ベニューを札幌に変更する意味全くなかった。大迫さんのパフォーマンスを東京都心で見たかった・・・)

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