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フリック入力発明秘話

「どうやってフリック入力発明したの?」とよく聞かれるので、誰にも話してないことも含めて、フリック入力の発明秘話を書こうと思います。

「やだな」から生まれた11件の特許、自分で出願

2007年から2015年までの間にフリック入力の特許をバリエーション含め11件出しました(もちろんその頃はフリック入力なんて言葉はありませんでしたが)。
僕は弁理士なので、自分で発明・出願・登録まで全部やりました。

特願2007-103979(出願日:2007/04/11)優先権基礎
特開2008-282380(出願日:2008/01/18)
特開2009-169789(出願日:2008/01/18)
特開2009-181531(出願日:2008/02/01)
特開2009-003950(出願日:2008/08/04)
特開2012-099118(出願日:2011/11/21)
特開2012-074065(出願日:2011/11/21)
特開2012-113741(出願日:2012/02/29)
特開2013-061991(出願日:2013/01/07)
特開2014-150569(出願日:2014/04/10)
特開2015-133155(出願日:2015/04/20)

ちなみに僕の特許出願の図面をいくつかご紹介すると・・とてもシンプルですが、フリック入力の考え方が表されています。拗音もカバーしてますね。

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現在使われているフリック入力より若干先に行ってる部分もあり。カーブフリックと呼ばれ一部のスマホに採用されていました。

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これなんかは更に進んで、指を離さずして文章を入力できちゃうというものです。

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最初の2007年の出願時は初代iphoneがアメリカで生まれていたものの(Wikipediaによれば2007年1月に初代iPhone発売)、日本には来てなくて、「これが日本に来たときに5タッチ方式で入力するの、やだな」という気持ちで、フリック入力を考えました。
なので、「やだな」から生まれた発明です。

ヒントになったのは、ポケベルを打つときの2タッチ方式、通称「ベル打ち」。これは例えば「こ」と打つときに下のような50音表に従って「2・5」と打つ方式で、ポケベル世代の僕はこれを愛用してました。慣れれば早いけど、慣れるのが大変という問題がありました。当時、ベル打ちに対応した携帯がだんだん減ってきて絶滅危惧種となり、焦りを感じていました。

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出典:https://biz.moneyforward.com/blog/15201/

フリック入力を思いついた時、我ながら画期的!と思って何人かの先輩の弁理士に相談したら「そんな入力方式、覚えるの面倒で誰も使わないよ」と笑われたのを覚えてます。
どんな素晴らしい発明も、誰かに相談したらバカにされます。
バカにされたら正解です。そしたら僕に相談してください。


試作もしました。僕はwindows mobileを搭載したW-ZERO3というガラケーとスマホの間ぐらいの携帯を使ってたので、ネットでアプリを公開していたプログラマーの人にお願いして作ってもらったのです。

まさかの、iPhoneに搭載されてた!

で、iphoneが日本に上陸したのが2008年7月11日、その時テレビでフリック入力が紹介されて、俺のやつじゃん!とビックリしました。
とはいっても実は、この話には前があり、iphoneが日本に上陸する前、友人を通じてソフトバンクの社員を紹介してもらい、僕の考えた(後にフリック入力と呼ばれる)新しい入力方式をプレゼンしたのです。この人は「うーんいまいち実用性がないかな」というリアクションでそれっきりだったのですが、もしかしたらその人がこっそり社内で提案していたのかも知れません。

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出典:https://time-space.kddi.com/ict-keywords/kaisetsu/20160607/

この時、僕にとってよかったのは、iphone日本上陸前に特許出願していたこと(もちろん、公開されている技術は出願しても特許化できません)、そして、僕の出願は未公開であったことでした。
特許出願は、出願から1年半後に特許庁により公開されることになっており、それまでは見えないのです。つまり、期せずして「サブマリン特許」となっており、Appleもこの特許の存在に気づいていなかったということです。

そして、最初の一つめの特許が取れたのが2011年。
けっこう時間かかるな、と思うかも知れませんが、通常より早いぐらいです。審査請求が2008年、早期審査の請求をかけていたのですが、2回にわたる拒絶理由通知、審査官の面接を経て、拒絶査定。一発逆転を狙って審判にもつれ込んで、なんとかギリギリ登録に至りました

発明者だから取れた、ギリギリの進歩性

自分が発明者でなければ、とても取れなかったと思います。発明者だからこそわかる、発明のキモ、芯にある一番大事な部分を見極めて主張できたからこそ、取れたと思います。この経験から、「発明する弁理士」として、発明段階から関わることを、僕は重視しています。

画期的なフリック入力の特許を取るのにそんなに苦労するの?と思われるかも知れません。でも実際には、誰も思いついていないブッ飛んだ発明なんてないのです。
同じアイデアは世界中で同時に3人が思いつく」と言われます。
フリック入力も、類似する発明が既に公開されていたのでした。もちろん僕は知りませんでしたが、特許的には知っているかどうかは関係ありません。
僕の1つめの出願は、5つの出願が引用されて拒絶されました。それらの代表的な図面は以下のようなものがあります。

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特開2005-535975


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特開2005-092441

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特開2002-108543

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特開2000-181608

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特開平09-081320

僕の考えたフリック入力と全く同じものはなかったのですが、特許には「進歩性」という考え方があり、全く同じものが存在しなかったとしても、複数の組み合わせによって思いつくことができるものであれば、特許を取れないのです。なかなかキツイですよね。
つまり、今まである技術から高い階段を超えないと特許が取れないので、低い階段の場合、誰も特許が取れないまま、坂道のように技術が積み上がっていくイメージになります。だから、上に挙げた引用例の人たちも、誰も、フリック入力そのものについては特許を取れていません。

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キモの部分と周辺発明が大事

なので、僕がフリック入力を発明したのは確かですが、そのストレートど真ん中の部分に関して特許が取れたわけではありません
審査の過程で、キモとなる部分を見出し、そこに絞ってもぎ取っていったわけです。
それは何か。
これです。

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一言でいうと、「見た目のガイド表示と実際の当たり判定が異なる」ということです。

手元のスマホで「な」の字のブロックの右下ぐらいをタッチして、離さないまま上下左右にフリックしてみてください。
表示されているガイドと関係なく、タッチした位置からの方向と距離で文字が変化することに気づくかと思います。

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これがもし、ガイド表示通りの当たり判定だった場合、ちょっと使いにくいと思います。
つまりフリックの「スタート地点は目で見てタッチするが、離す地点は手の感覚」というのが、使いやすさのキモだったわけです。
見た目のガイド表示と実際の当たり判定をイコールにすることはもちろんできますが、打つスピードが遅くなってイライラして使い勝手は随分悪くなると思います。なので、iPhoneでもAndroidでもWindows Mobileでも、このキモの技術は採用されています。採用しなければユーザーに選んでもらえないでしょう。ど真ん中でなくても絶対に避けて通れない技術であれば結果的にど真ん中と同じということです。

それから、10個ある特許のうち他のものは、カーブフリックと言われるWindows Mobileで採用されていた方式とか、フラワータッチと言われるAndroidで採用されていた文字が扇状に展開するバリエーションなどを網羅しており、これらも特許になりました。

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フラワータッチを先取りしていた図面


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フラワータッチ(出典:TeraDas

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カーブフリック(出典:PR Times

このように、発明・特許というと、今までどこにもなかったブッ飛んだ画期的な発明(基本発明)のことを思いがちですが、実際には基本発明が特許になることはほとんどなく、避けて通れないようなキモとなる特許(周辺特許)を押さえておくことがものすごく重要です。
そして、カーブフリックやフラワータッチは主流にならなかったように、何が主流になるかを見分けるのはとても困難です。なので、基本発明を軸に、周辺発明をマキビシのようにバラバラと撒いておくことが、逃げられない特許を作るために、とてつもなく大事です。

さて、この特許をどのようにマネタイズしたか、これもよく聞かれるので、次回、それをテーマに書きたいと思います!

あと、発明する弁理士小川コータに発明について相談したい!というお問合わせをいただいたので、テレビ電話相談窓口を作りました。
取れない発明を取れる発明に昇華させ、マネタイズまで面倒見ます。
以下からどうぞ!


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発明家ミュージシャン小川コータ
お気持ちくだしゃんせ。