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COP28と鉄腕アトム

2023年12月現在、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)が、アラブ首長国連邦(UAE)のドバイで開催されています。12月12日までが会期で、この原稿を書いている時点では現在進行系ですが、経過発表で気になる点がありました。

2050年までに世界で原子力発電を3倍に増やすという宣言が発表。
日本もこの宣言に賛同。

これを見て、日本には、まだまだ「アトム神話」が根強いんだな、と感じました。


日本全体での電源構成(どの由来による発電か)をまとめている一般財団法人 日本原子力文化財団作成のグラフを見ると、こんな感じになっています。

一般財団法人 日本原子力文化財団 作成

2008年に、株式会社ツバルの森という、環境ベンチャーを創業したとき、商材の一つとして太陽光で発電したグリーン電力がありました。当時、太陽光や風力、地熱といった、いわゆる「再生可能エネルギー」での発電は全体の1%。それを少しでも広げればと思い、始めたわけです。

2008年頃から、温暖化対策が叫ばれ始め、天然ガス・石油/石炭に依存した発電構造が目立つ中で、「日本のエネルギー対策は大丈夫か?」という疑問が湧きました。

その当時、省庁関係者との会話で、エネルギー対策の切り札として「原子力」という選択肢が示唆されたことを思い出します。原子力による発電は、2008年頃は全体の約3割を占めていました。それを増やしていき、天然ガス・石油/石炭の依存率を低くしていくといった考えです。

ところが、2011年の3.11で、原発が多大なる事故を起こしてしまい、原子力がアテにできなくなります。上のグラフの2014年の状況を見て明らかなように、原子力による発電が0%となってしまいます。

それから約15年ほど経ち、上グラフによれば、再生可能エネルギーによる発電は全体の13%にまで増えてきました。これだけ増えたことは感慨深いですが、山や森を削って、太陽光パネルを設置したりといった、別の視点の環境的問題も引き起こしています。

一方で、原子力による発電も、原発の再稼働で、徐々に比率が増え始めてきています。直近の2021年ですと、7%になってきています。

原子力発電所の耐用年数は、運転開始から40年。40年経過した時点で安全性が確保されれば、一度に限り20年の運転延長できるルールとなっています。現在、経済産業省は原子力発電所の運転期間を最長60年とする規制を撤廃する方針で動いているようです。そのようなルールが登場したことも考えると、「原子力による発電」を日本の主要な電力源として復活する可能性も出てきます。


1960年代に手塚治虫の代表作である「鉄腕アトム」が大ブームとなりました。

鉄腕アトムの動力源は原子力で、その原子力は戦争利用ではなく、「平和利用」が強調され、21世紀への理想や夢の象徴という意味が込められていたと言われています。

話はそれますが、1950年代に制作された初代ゴジラの映画は、海に投棄された放射性物質によって突然変異した生物として、「原子力」への恐怖をテーマにした作品と言われています。鉄腕アトムとは、異なるアプローチで原子力を扱っています。

なお、鉄腕アトムの動力源は、アニメの制作時期により変わっているようで、1980年は「重水素燃料による核融合エネルギー」、2009年には「原子力よりも強力で安全なクリーンエネルギー」になっています。

1960年代の鉄腕アトムのアニメや映画を見て育った世代が、「原子力=平和利用」という「アトム神話」を抱き、それが今日の日本の原子力政策の礎になっている可能性を考えることがあります。


冒頭の、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)での「原発を3倍にする」という宣言。それを見て、そんな内容が思い浮かびました。

原子力発電で充電された電気自動車が、果たして環境にいいのかどうか、自問する時代が来るのだろうか?