書評 63 「自分。」
末續慎吾さんの著書。間違いなく日本のスプリンターのトップにいた人。日本のトップの座を占めつづけること、それにもかかわらず世界のトップと競う時の恐怖に抗うこと。精神を擦り減らし、廃人の一歩手前までいったと言う。
トップの座から降りたことで、走ることが楽しくなった。
ここまでは様々な競技のトップ選手の話にかなり共通する。その上で、末續さんは競うことが今なお楽しいと語る。走ることそのものが楽しいならば一人で走っていればいい。自分はかけっこが好き。かけっこは横に他人がいるから成立するのだ、と。
ただ、いまは試合で競走する時、「勝たなければ意味がない」とは思わない。競い合うとしても、それ自体が楽しい。そして、そう感じるのは自分自身が変わったのだ。その心持ちの変化を「1着でもビリでも走る理由がある」と言う。
口述筆記の様なラフな書きぶりですが、それが著者の人柄とうまく重なって、想いが伝わってくる一冊です。
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