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書評 72 「生物から見た世界」

人間は自分が見て、聞いて、触れて、匂いを嗅いで感じる世界が実在する世界だと認識する。実際、そこにあるのは一つの世界だけれど、例えば視覚を持たない虫にとっては世界の姿は違う。

様々な生物の生存方法とそれに合わせた感覚器官を事例として挙げ、その感覚器官から見える世界の姿を著者は環世界と称している。例えば、人間が飼い犬のために用意した住環境は犬には同じようには見えていない。

生物学の範疇の様で、観念的な理解が求められる。訳文はこなれていて読み易いが、そもそもの内容が直感的な理解が難しい。それでも事例を挙げながら図解も加えて進む中で、読み出しはぼんやりしながらでも、徐々に鮮明度が増して行く。100年前の著作でも世界は案外普遍だとも思う。

ともすれば難解な日本語になりがちなこの手の本、動物行動学の大家とその指導を受けた生物学の素養を持つ翻訳家の訳文は理解を助けてくれる。世界の見方がちょっと変わる一冊。

https://www.iwanami.co.jp/book/b247066.html

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