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レズビアン疑惑

遠回りをしたが学校の話に戻ろう。

ブロッコリーフケ頭のみっきーと、同じパーカッション仲間になった友美と毎日大笑いして過ごしながら、左隣のオシャレでギャルなユキちゃんを観察し続けた。

授業中、ほんのり甘いバニラの香りがしてくる。1番前の席…間違いなくユキちゃんの方角からだ。昔から美しく綺麗なものを眺める事と匂いフェチだった私は、ユキちゃんが休み時間に唇に塗っていたリップを見せてもらった。

『THE BODY SHOPのだよ、色んな匂いのがあるよ、この辺にはないけれど…』と教えてもらった。
私が住んでいる県内にはなかった。新幹線か高速バスで隣の県まで行かなければならない。ユキちゃんは、中学の頃の〝イケてる友達”とは種類が違う、垢抜けさが頭ひとつ分飛び出した上、可愛さも持ち合わせていた。一緒に居るサッちゃんとわざわざ隣の県の街まで買いに行ったらしい。

めっちゃ欲しい!!ストロベリーもある。

だが、高校生がわざわざ洋服や化粧品を買うだけのために隣の県まで行く事を母が許すわけがない。

どうしても欲しい!!


昔から平和な家庭環境と引き換えに、欲しいものはほぼ何でも与えられた。

中学生の頃から母のデパートの買い物に付き合うたび、アベンヌの化粧品や資生堂のルースパウダー、薔薇シリーズの入浴剤、マリークワントの小物など、隣町のデパートで手に入るものくらいは持っていた。でもそれは地方に一つしかないデパートの中のものだけだ。

東京にいる叔母ちゃんに頼もっかな…。

そんな時、母が大学時代の同窓会に東京に行くから2泊3日家をあけると言い出した。願ってもないチャンスだ。行け行け!行ってきてー!お留守番は慣れてるから!!

私が高校生になると母は何か理由を作っては、2泊くらいで東京に行くようになった。中1のとき2ヶ月間一人暮らしをしていた私にとって、これほど嬉しい事はなかった。母が居ない間は自由だ、自由!!監視も束縛もない、テレビも見れるし音楽も好き放題聴ける。

早速母にTHE BODY SHOPのリップバームのバニラとストロベリーをお土産に買ってきてほしいと、わざわざ雑誌の切り抜きまで渡した。
母の同級生で、渋谷の超高級住宅街の一軒家に住む友人と行動を共にする、その娘がリエちゃん、私と同い年だった。
母を通して知り合った仲だったが、文通したりお互いの誕生日にプレゼントを交換する仲だった。逃避旅行でディズニーランドにも一緒に行った。(過去記事:逃避行)リエちゃんから送られてくるプレゼントは、いつも見たことのないような垢抜けた物ばかりだった。今でもそのバスタオルを大切に持っているくらいだ。

〝リエママ″が一緒なら大丈夫だろう。

母が東京に行っている間は、朝と昼のパンの食費をもらい、晩は祖父母宅で佳子ちゃんと4人で食べてダッシュで家に帰り、リビングにあった本格的なCDプレイヤーで〝trf”やジュディマリを爆音にして聴いた。
ハマっていたストロベリーのお香を焚きまくり、自分の部屋で好きなだけタバコも吸える。朝は9時頃ゆっくり起きて朝シャンしてコンビニで昼のパンとジュースを買い、タバコを吸いながら自転車で25分かけて学校へ着くと、大概3限目か4限目だった。
大嫌いな数学が1限か2限にあるので、わざとずらして行く日もあった。

母が東京から帰ってくる日は、着ていた全ての衣服を洗濯し、タバコのニオイを消して、ピアノを弾いていい子にして待つ。

母は〝リエママ″と一緒にTHE BODY SHOPに行っていた。ずっしりと重く大きな紙袋を渡されて中を開けると、頼んでいたリップバーム2種類だけではなく、色んな香りのボディソープにボディクリーム、パック、ミスト、リップバームと同じ香りがするコロン、ポーチ、グリーンのショップ袋まで余分に一式ずっしり入っていた。


『リエちゃんのママが知ってたからあなたのために2人で行ったのよ、全部で1万円くらいしたんだから…』


私はユキちゃんが持っていたバニラとストロベリーのリップバーム2種類だけを頼んでいた。当時2つで確か2,500円くらい。まだ持っている人もほとんどいなかったし、雑誌でしか見た事がなかった。
予想外の収穫だった。リエママ最高!!

何というか、昔から母は〝限度″というものを知らないのだ。何か1つだけ頼んでもバカみたいにあれこれ買ってくる。気に入ったら色違いで買ったり、今考えると完全な買い物依存症だった。

変なダサい服はいらない、安いのでいいからコレ買ってきて!母が東京に行くたびにアレコレ頼んだ。

私はユキちゃんにはなれないけれど、同じリップバームと香水も手に入れた、嬉しくて仕方ない。翌日、すぐ学校に持って行って友だちに見せた。ユキちゃんもキャーキャー言っていた。

それからTHE BODY SHOPのものは高校でめちゃくちゃ流行った。皆最初はバニラかストロベリーのリップバームから入る。
でも今のようにAmazonもメルカリもネットもない時代だ。隣の県まで買いに行ける者しか持てないオシャレグッズだった。


同じクラスでスケボーをしているナスという小柄でオシャレな男子が休み時間にFineを読んでいた。当時まだeggなど地方になく、私の好きな雑誌はFine、Cutie、ジッパー、この3冊を隅から隅まで愛読した。
Fine以外はいわゆる青文字系雑誌だ。

ジュディマリのYUKIが着ていたヴィヴィアンウエストウッドの服やヒステリックグラマーは小さすぎて入らない、そもそも売ってない。ヴィヴィアンのロッキンホースなんて夢のまた夢だ。
スケボーをしているナスの事が気になり始めた。
中学の頃のミッちゃんとまるでタイプは違うが、オシャレなのにシャイで小柄でアンニュイな雰囲気だった。でも隣町で花火大会がある夏祭りの日、ナスはユキちゃんの事が好きだった事を知った。少しショックだった。


やっぱり顔か…、ユキちゃん、そりゃ女の私が見ても惚れるくらいオシャレで垢抜けてちょっとだけギャルっぽくて可愛いもん、仕方ない。

ちょっと気になっていただけだ、まだ軽症だ。


ナスと一緒に居たTくんの事が気になりだした。Tくんは同じ名字が多すぎたので、みっきーや友美、しおりんなど仲の良い友達からTと呼ばれた。Tは背が私より少し高く、最初バスケ部に入っていた…アレ?隣の中学出身だ…ミッちゃんの練習試合を見に行ってた時に居た人だ…でも印象が薄すぎてあまり記憶にない。

Tはミッちゃんよろしく寡黙で女子と全く口をきかないタイプだった。目も合わせない、スタイルだけいい、顔は布袋寅泰に似ていた。
どうやら私は自分にそっけない態度をとる男子に惹かれるようだ。

何度か話しかけてみた。2年から理系のクラスに行くかも、バスケ部弱すぎてつまんないからハンドボール部に変わるかも、彼はそんなことを口にした。おそらく学校でまともに口をきいたのはそれくらい。

そこから急激に気になり始めた。アレ?ライバルが居ない。まいっか。

色んな女子に聞いてみたが『Tくん?え、どのTくん?…知らなかったんだけど(存在を)何がいいの?ハッシーって面白い!変わってるね!』と言われた。失敬な。




ミスチルの歌詞に共感した。抜粋させていただく。


愛想なしの君が笑った そんな単純な事で
遂に肝心な物が 何かって気付く

(略)

いつだって君は 曖昧なリアクションさ
友人の 評価はイマイチでもShe So Cute…

(略)

何遍も 恋の辛さを味わったって…
不思議なくらい人は また恋に陥ちてゆく


Mr.Children
〝シーソーゲーム”〜勇敢な恋の歌〜 より


そういえば、私のことをなぜか避けていたクラスの女子が最近また口を聞いてくれるようになった。アレって何だったんだろう…。

後ろの席の千景からある日その理由を聞いて、飲んでいたジュースを吹き出しそうになった。

『あのね…ハッシーがユキちゃんの事、可愛いカワイイって言うからね…言いにくいんだけど…ハッシーの事みんな〝レズ″だって思ってたみたい…』

は?!私がレズビアンだと?いつの間にそんな噂が…

『でもね、ハッシーに好きな人がいるらしいって分かって、違ったんだ〜!ってみんな思ったらしいよ、私も初めそう思ってた…』

おお!気になる男子の情報まで広まっていたのか…。噂というのは本人の耳に入るのは1番最後だったりする。
なるほどね、どうりで私を変に避ける女子がいたわけだ…。なんて奴らだ!

ユキちゃんにもそう思われていたのかなぁ…

私、生粋の男好きなんですけど…

まぁレズビアンと思われようが、思いたい奴は勝手に思え!そんな事を噂するようなしょーもない女なんか、たとえ私がレズビアンだったとしても好きにならねーから!心配無用!

みっきーと友美、しおりんに話したら3人とも何それ?…ポカンとした後、大笑いされた。

そんなわけでレズビアン疑惑は消えてなくなり、1学期が終わった。




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