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黒夢との出会い

学校では相変わらずジュディマリのコピーバンドの練習を続けながら、色んな楽譜や曲に手を出すようになっていた。


ドラムも好きだけれどアコースティックギターでコードをジャカジャカ弾く事にもどハマりしていた。ピックを使い、カポをはめたらすぐに転調できて、簡単な曲ならCDに合わせて弾けるようになる、自分もバンドマンの一員になった気分に浸れて楽しい。
ピックとカポは自分で購入した。
家にはクラシックギターが何故かあったので、それでコードを練習した。

近所に割と大きめのCDショップがありLPレコードも置いていたので、たまに寄ってはあれこれ探していた。

ある日それとなく邦楽のCDを色々見ていたとき、吸い込まれそうな瞳をしたボーカルの男性を見つけた。ジャケットを手に取ると“黒夢″とかいてある。

そういえば何かの歌番組で見たことあるな…本人ではなく曲だけが流れていたが、こんなビブラートかかったセクシーな歌い方をする男性ボーカルの人がいるんだ、と印象に残っていた。

小学校6年生の時、米米クラブのカールスモーキー石井さんを見た瞬間に恋に落ちるマジック…と種類は少し違うが、それと似たものを自分の中に感じた。

“ピストル″という曲が入ったシングルのCDを購入し、家に帰ってこっそり聴いた瞬間、コレだ!と頭の中が冴えた。冴えたというより“覚醒した″という表現が正しい。

私が常に抱えていた矛盾や、探していたもどかしさはこの人が全て歌詞に書いてる!
清春か…綺麗な名前だな…。
んでもって、何てセクシーで美しい人なんだろう…それに何なんだこのビブラートかかりまくりの声は!退廃的な色気を放っている。

ジュディマリが陽なら黒夢は陰、太陽と月みたい。

また翌週CDショップに行った…黒夢黒夢…おぉ、こんなに昔からあるんだ、知らなかった。

ピストルのシングルを購入した次は、思いきって“feminism″のアルバムを購入してみた。清春の吸い込まれそうな瞳…自分の全てを見透かされているような錯覚に陥った。

人時っていう人がベーシストなんだ…ふむふむ、あれれ?もっと前のCDもあるぞ…

真っ黒なジャケットにド派手なメイクをした3人組…あぁ昔は3人で活動していたのか…臣さんって人が居たのね…CDのタイトルを見て躊躇した。
『生きていた中絶児…。』これも聴いてみたいけれど、ちょっと怖いな…それより母に見つかったらそれこそタダでは済まない…これは今はやめておこう。。

そのCDショップは田舎の割には珍しく、邦楽から洋楽、それもインディーズバンドからメタル、ハードコア、パンクまで古いものもたくさん置いていた。LPレコードもたくさんある。

もちろん小室ファミリーの世界観も好きだったし(特に調と詞が)、ジュディマリのYUKIの甘い声もファッションも大好きだった。



当時学校のみんなが聴いていたウルフルズ、ミスチルやB'z、PUFFY、スピッツ、布袋寅泰…ありとあらゆるJ-POPは聴いていたが、オリコンランキング上位に入るような流行りの曲にあまり魅力を感じなかった。
もちろん共感する曲も多くあった。


ただ、誰もが歌いやすい、いかにも流行らせるためだけにつくったんだろうなと思われる曲…それらを作曲した人たちの狙いなんて私には分からないけれど、イマイチピンとこなかった。

アイドルとジャニーズは見るのも嫌なくらいになっていた。


そんな時、ふとしたきっかけで黒夢に出会った。
ここに私が求めていたモノが凝縮されている。
詞を書いている清春って人すごいな…明らかにメディアに喧嘩を売っているような雰囲気の曲もある。彼らは万人受けを狙ってない。
そうだ、私は昔から万人受けするタイプの人間にコンプレックスを持っていたんだ。今ごろ気づいた、というより気づかされた、この黒夢という人たちのおかげだ。


黒夢のバンドスコアはまだ売ってなかった。
それに、誰に話してもあまり理解してもらえない…そもそも黒夢の良さを語れる人が周りに居ない…母もこのバンドは絶対にNGを出すだろう。


三島由紀夫と黒夢は私の中では常にセットで、親に隠れて没頭し、どんどん深みにハマり、中毒者のようにドップリとその世界に浸かった。それが自分にとって心地よい状態になる事も知った。

深夜、母が寝静まってからストロベリーのお香を焚き、窓を全開にしてタバコを吸いながらヘッドホンを耳にあて、大音量で黒夢を聴く、気分が晴れやかな時はジュディマリの“BIRTHDAY SONG″を…その日の気分によって聴く曲を分けた。気持ちがいい、胸がスカッとする。

大好きなTにはまた避けられていた、中2の頃と同じだ。追いかけすぎると嫌われてしまう、好きな人には毎年2年目に嫌われる、またやってしまった。同じ過ちの繰り返し。


いっそ男なんか好きにならなければいいのに、忘れる事ができたらどんなに楽だろう…そんな時に出会った曲だった。



〜This comes to Love & Hate
 君とすれ違う 
 This comes to Red & Blue
 振り向き様選んだ

   (略)

 始まりに見えたSTORY 体だけ絡めた
 相性はきっとJUSTICE
 何故 笑えないか 教えて

   (略)  

 抱いて抱いた君が 眠りながら泣いてる
 重症の涙はきっと僕の事じゃない

   (略)

 壊れ壊れてゆけ 冷たすぎる温もり
 どうせ失くせるなら もっと白い空白
 忘れ忘れてゆけ 影も色も形も
 まるで逢わなかった 様に君は歩いて

 壊れ壊れてゆけ 撃ち殺せないピストル
 どうせ奪えるなら 完璧にと願ってた


 ピストル〜黒夢  作詞・作曲 清春
 レーベル 東芝EMI/EASTWORLD 1996年




そう、その通り、私はあなたに抱かれてないけれど、重症の涙はあなたを想うほど枕を濡らす。
私もいつか大人になって男と体を“絡める″日が来たら、こんな風に思うのだろうか…。

黒夢の清春っていう人が歌う、甘く切ない歌声、全ての怒りをぶつけるような衝動的な歌い方と歌詞。
清春っていう人が全て代弁してくれている…よかった、私のアタマがおかしいのかと思ってたけれど、それを歌にして歌っている人たちがいる。そりゃあメディアにもほとんど出ないわけだ。


それだけでも随分救われたのと同じくらい、何でか自分でもわからないけれど涙を流す日が多くなった。
学校ではめちゃくちゃ元気な自分、家に帰ると陰鬱な気分になり、どうやら自分は3ヶ月おきに隠と陽が入れ替わってるような気がした。


ショパンの美しいスケルツォ2番の後に黒夢。


ジュディマリの後に黒夢。


三島由紀夫と黒夢。
共通するのは退廃的な美しさ。


タバコは周りの影響でマルボロメンソールに変わっていた。



(TOP画像/黒夢 feminism 東芝EMI
1995発売より引用させていただきました)






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