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稲中メンバーとエロビデオ

高2になり、親友のみっきー、友美、しおりんたちとクラスがバラバラになった。

ミエちゃんは晴れて英語科に“ご栄典″した。陰口を言う女子も結構いたが、私は彼女の努力を知っている。クラスは離れたけれど、毎日手紙を書いて、英語科のE組まで渡しに行った。

私と野球部の山本くんだけ同じC組に取り残された…そしてまたもや担任は“おぐちゃん″ラッキー!おぐちゃんは遅刻に甘い。古典の先生でテストは厳しいが、とにかく人の良い優しい先生であった。

大好きなTは予想通りA組の理数科クラスに。A組は女子が7人しかいない。才女の塊だった。あとは皆男子だ。アフリカンもA組に行ってしまった…。

B組、C組、D組だけ普通科なのだが、どう考えてもC組は1番ゆるい、“アホ″をわざと集めているようにしか思えないメンバーだった。
(語弊が生じかねないので一応言っておくが、勿論C組にも成績優秀な人は何人も居た)

また1から友達づくりか…あ、千景と一緒だ。千景を筆頭に、新しい4人グループができた。
お笑い担当だが美意識の高いミナ、ミナと同じ中学出身のウッチーと私。この4人で高2を謳歌する事になる。

私は遅刻の常連で、担任がおぐちゃんという事もあり、遅刻度合いに拍車がかかった。1限から行くのは音楽の授業がある日と気が向いた日と雨の日のシーマ登校のみ。

その頃、ポケベルが流行っていた。まだ携帯電話がない時代である。クラスが離れてしまったオシャレでギャルなユキちゃんたちも、ちょっとオシャレな子は皆持っていた。
休み時間、ポケベルの文字を送信するために高校の公衆電話が混み合った。

私も持ちたくて、仕方なかったが、母が許すわけがない。ポケベル=テレクラ=援交という母独自のおかしな方程式があり、何を話しても聞いてもらえないので早々に諦めた。

4人グループのウッチーが1番最初にポケベルを持った。
私は大寝坊+そこから朝シャン+色んなカラーのヘアマニキュアを試しては、3限目くらいから学校へ行く。ウッチーのポケベルに『オカシカッテク』とか『ナニカイルモノアルカ』と家電や途中の公衆電話からベルを鳴らした。家に居る時間帯だとウッチーから『タバコ買ってきてー!マルメンでよろしく』と電話がかかってくる。

同じ高校の女子で初めてタバコを吸う仲間ができたのもウッチーが最初だ。
当時、マルボロのメンソール、ラッキーストライクが流行っていた。男子でもチラホラ駅で吸っている同級生も居た。私もそれらの仲間に『ハッシー、セッター(セブンスター)なんか吸ってるの?ヤンキータバコじゃん!』と言われ、マルボロメンソール、ラッキーストライク、色々試していた。タバコなんて別にヤンキーだから吸うわけじゃない。そういう年頃なのだ。
そもそも進学校に本物のヤンキーなんていない。

私が3限、4限になり“お土産″を持って登校すると、『ウッチーが探し回ってたよ』と皆に言われた。ウッチーは、千景より同じ中学出身のミナより、私にとても依存していた。私が登校するとものすごく嬉しそうな顔をする。常に私と行動を共にした。ミナは女子力の高い、他校の男子とも合コンをする千景と一緒に居た。まぁ4人グループでも2:2に分かれるものだ。

親友のみっきーたち吹奏楽部メンバーはD組に。しおりんはB組に。しおりんはB組の中でも可愛いor美人メンバーの4人組に仲間入りしていた。

でも部活の練習(といってもバンドの練習がほとんど)となると、私もみっきーたちと一緒に居る。


1年生の時から同じC組だった野球部の山本くんとは“お笑い仲間″として更に仲が良くなり、そうなると元々お笑い好きのミナもウッチーも加わり、皆で“稲中卓球部″を毎日回し読みしてはゲラゲラ笑い転げた。山本くんと同じ野球部のユースケも加わり、“前野ごっこ、井澤ごっこ″をした。山本くんは自分を稲中の中の“田中キャラ″に、私は自身のおかっぱ頭への自虐も込めて自分を“サンチェ″に設定して遊んだ。


千景が開催していた他校の男子との合コンに呼ばれるはずもない。
もう“モテ″は完全に捨て去ったのだ!高校では太ってしまったし、メンバーもお笑い系が多い、彼氏なんてできるはずもない!これまで知らなかったお笑いの世界に夢中になった。
(テレビのお笑いは個人的につまらなかったので見ない、見せてもらえないので、自分たちで作ったお笑いの世界を指している)

彼氏彼女ができない“死ね死ね団″を結成したり、高校のすぐ横にあった霊園までタバコを吸いに行ったり、ウッチーと弁当を忘れたからパンを買おう!ではなく、ピザの宅配を高校に頼んで先生にバレて怒られたり、稲中卓球部の回し読みはやがてクラス中の男子に広がり、男友達も増えた。その“お礼″として私にだけエロ本ではなく“エロビデオ″が提供された。

部活を早く切り上げて、母が絶対家に帰らない時間帯にビデオを差し込む。“エロビデオ″はエロ本とまた別モノだった。

初めて“エロビデオ″をみたときの感想…
『コレって完全に女は男のオモチャじゃん…』
だった。

こんな風に全ての女が気持ちよさそうに喘いだり、綺麗なカラダをしていると男子たちは思っているのだろたうか。

私は冷静だった。
こんなビデオ通りにいくと思ってると、初体験の時に多くの男子は失望するだろう、これは大問題だ。
第一アダルト女優という人たちは、男に見られるためのカラダをしている。一般人のオッパイはこんなに形が良く大きくもないし、乳首の色がピンクなわけでもない、アソコはモザイクがかかっているが、こんなにピンク色ではない、もっとグロテスクだ。

何だか“女は男を悦ばせるための道具″として扱われているようにしかみえなかった。
これなら女は確かにオモチャだ。

祖母がある時言っていた。『男の好きにさせると女はただ男の玩具になるだけだ』

“男の都合のいい女像がアダルトビデオなんだ″

こんなモノを学年の男子のほとんど、いや日本中の男が見ている…何とも言えない気分になった。

それから何度となく男子は私にエロビデオを貸してくれた。中学の時と同じで返却する時は別の男子に渡す。私も興味は思いっきりあったので、どれも念入りに見た。
個人的に気に入ったのは“桃太郎映像″とかいうメーカーの作品と、あいだももさんが出ている作品は好きだった。

次第に、この女優さんは本当に感じているな、これは演技だ、と見分けがつくようになった。

私自身中3の時点で自身のカラダをリスペクトしていた。興奮して気持ちよくなる事、初めてイクという感覚を味わったのも中3だった。
女優さんたちのコレは演技かホントか、みたいなのが何となくだが見ていてわかったのだ。
(ただ処女なので男性とのセックスの快感は知らない)

とても“演技″が上手い女優さんもいる、あーこれは痛いだろうなぁ…女優さんかわいそうだぁ…とか思いながら、男子から回ってくるのはやはり高校生だったので、いわゆる制服モノがほとんどだった。


ある時、放課後借りてたビデオを男子に渡さなきゃ!と思い『コレ次◯◯君に渡してくるわー』と当たり前のようにつぶやくと、
『ねぇねぇ、そのビデオってハッシーの前にも何人もの男子が見てるんだよね?誰が何人触ったかわからないその手でそのビデオ、ハッシー気持ち悪くないの?汚くない?』と言われた。



そう言えば中学の頃にも同じセリフを吐いた女子がいたなぁ…またかよ…。



『あー言われてみればそうかもね、考えた事なかった!でも別に汚いとか思わないよ、汚いとか思ってたらいざ!って時に誰ともできなくない?(予定はないが)それとも貸そうか?てかエロビ自分見た事あんの?』と聞いてみた。


『私はそういうの興味ないから、いい!やっぱハッシーって変わってるね』


彼女は汚いようなものを見るような、軽蔑した目で私を見た。


エロビデオを女子が見る事を気持ち悪いと言いたいのか、エロビデオそのものに嫌悪感を抱いているのか、それらを“男子から借りる″という行為が信じられないのか、どれでも良かったが、なんでそんな事をわざわざ私に言う必要があるんだろう…?
私は興味はないからなんて、カマトトぶりやがって、嘘つき女め!




不思議で仕方がない。



でもそれを聞いてきた女子は、私の事を“変わってる″と彼女の中では最上級の言い方をしたのかもしれない。



あー中学の頃のダブルゆうちゃん友達やアケミなら、喜んで一緒に“ビデオ鑑賞会″くらいしてくれるだろうなー!それも大笑いしながら!
みんな遅くても高1の時点でサッサと“卒業″してたもんなぁ…会いたいなぁ…やっぱり下ネタ言い合えるエロい友達が1人は必要だわ。
おもんねぇ。


でもココ(私の高校)にそんな女子はいないのかなぁ…学校ではいかにも私は成績がいいです!って子は、男に興味はないのだろうか。
私から見るとカマトトぶって見える、タバコなんて吸いませんって顔してる、別に吸わなくてもいいけど。

男に興味ありませんって学校内では清純ぶってる『ハッシ〜♡』って意味不明に私に甘えてくる女ども、でもそういうブリブリした女に限って…他校の男子とヤリまくっていると後に知った。
そのメンツを聞いてビックリしてしまったほとだ。あーーねっ、なるほどね。

やはり人は見た目では分からないもんだ。


ある日パーカッションの部室でドラムの練習をしていた時、1個上の女の先輩2人組に、
『ハッシーて処女なの?』と聞かれて驚いた。
彼氏もいないのに、相手がいないだろう…。


『あっ、ハイ、処女ですよー、こんな太った相手と誰が好き好んでヤるんすか?』と笑いながら先輩に返した。

すると先輩は驚いた顔をして
『マジで?ハッシー、もうめちゃくちゃヤリヤリなのかと思ってたー!!ワハハー!てかハッシー色気あるのにね!』と大爆笑された。

えっ…私が男とめちゃくちゃヤリヤリに見えるだと⁈
その先輩は2人とも彼氏がいる人だった。
ていうか、ヤリヤリどころか彼氏すらいないんですけど…!
しかもさ、ジュディマリのYUKIみたいに〜とおかっぱ頭の真似したら、ただのお菊人形になった醜い自分、171cm、68キロまで成長した“レスラー″みたいな女のどこに、男が欲情するんだ……色気ね、中学の時に言われた事はあったけど、それはもう葬った過去の話だ。


エロビデオの見過ぎ?オナニーのしすぎがバレてる?…理由は分からないが、同じような事を他の同級生からも言われた。


私はこう見えて“中身は″真面目だ。
タバコも吸うし香水くさいし、下ネタも言うし、髪もマダラで変な色だし、成績も最下位に果てしなく近いけれど。

“初めて″は絶対好きになった人か、付き合った彼氏と、援助交際は流行っており社会問題にもなっていたが、知らないオッサンで処女喪失なんてまっぴらごめんだ。ていうかそんな金はいらん。


だが、私は息をするように母に嘘をつきまくってる事だけは確かだ。

まずタバコ、髪の色、ほぼ毎日遅刻している事、エロビデオ見てる事、暇な夜に興味本位でテレクラに電話してる事、カラオケに行ってる事…その他…挙げればキリがない。
母が全て知ったら発狂するだろう。


同じクラスで家が意外と近かったミスチル好きなSくんから借りたCDの中に、こんな歌があった。
歌詞を見て一瞬ギクリとした。


一部抜粋させていただく。



〜愛する一人娘の為に 良かれと思う事は
やってきた “教育ママ″と近所に呼ばれても
結構 家庭円満なこの18年間

でも you
娘は学校 フケて デートクラブ
で 家に帰りゃまたおりこうさん
可憐な少女 演じてる

everybody  goes   everybody fight

羞恥心のない十代に水平チョップ

everybody  knows  everybody  wants

そしてYes Yes Yes Yes 必死で生きてる〜



 Mr.Children

 everybody  goes
〜秩序のない現代にドロップキック〜より



ミスチルの桜井さんの社会風刺的な歌はとても突き刺さる。この歌だけは本当にドキッとした。
デートクラブなんてものは田舎にはなかった(たぶん)が、テレクラには電話していた。
怖くて誰にも会ってないけど。


桜井さんはどんな心情でこの詞を書いたのかわからないのだけれども、許してよ…

“家に帰りゃまたおりこうさん″しないと殴られるんです、しかも怪我するくらい、そんな家もあるんです。
友達には恥ずかしくて言えないけれど、タバコも学校フケるのも、テレクラに電話するのも、全てあの家での出来事を忘れるための、現実逃避の手段なんです。
本当にごめんなさい。許してください。


この歌を聴いて、いつ“水平チョップ″の天罰がくだるのだろうかと、本当にドキドキした。



とりあえず学校だけは最高に楽しい。逆を言えばそこしか居場所がない。


高校2年生、1番楽しかったかもしれない、でもこんなのはまだまだ序の口なんだよね。





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